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(番外編)空飛ぶ鷹に影は落ちるか
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しおりを挟む私はベータだ。だからオメガと違って後ろの孔は排泄器官以外の役割はない。淫液で濡れないそこを、ファルケンは香油を使って丁寧にほぐしていった。
性交のためのオイルがなぜこの男の部屋にあったのか。そんな野暮な疑問は覚えなかった。
ここは娼館だ。そして色を売っている女たちがこんな……肉体も顔もひと一倍整っているようなアルファを放っておくはずがない。
きっと、いまの私のようにこの寝台で組み敷かれた娼婦はたくさん居るのだろう。
ファルケンの部屋によく出入りしているエミール様は、どこまでわかっているのだろうか。ちゃんと想像できていたのだろうか。幼馴染が、ひとりのアルファで、ひとりの男だということを。
「気を逸らすなよ」
エミール様のことを考えていたら、体の内側をぐりっと押された。
後孔の感じる場所をぐにぐにと指の腹で刺激され、腰が浮いた。
「……っ、ふ、ずいぶん、ぬるい愛撫だなと思って」
熱い吐息とともに微笑を返すと、男の隻眼が細まった。
「虚勢は、相手を見て張れよ」
「虚勢かどうかは、それをぶち込んでから言ったらどうですか」
眼差しをファルケンの下腹部へ向けた。隆々と息づく男根は、自分のものと比べるまでもなく大きかった。
「まだ無理だろ」
私の後ろを探る指が増やされた。もどかしいほど慎重な愛撫だ。
「もういいって言ってるんですよ。初めてでもあるまいし」
「男との経験が?」
「私を誰だと思ってるんですか。『狼』ですよ?」
『狼』は主のために体を使うのが仕事だ。だから『狼』には、特殊な体術以外にも他人になりすます変装術や、情報分析や暗号解析、毒物の扱いなどあらゆる分野においての知識を詰め込まれる。
そのうちのひとつに、房中術があった。閨事は、情報収集や暗殺時に役立つ。
男も女も、抱く方も抱かれる方も、『狼』として必要な経験はひと通り積んでいる。
私のその説明に、ファルケンが呆れたように眉を顰めた。
「……クラウス王子が頭を抱えるはずだよ」
「どういう意味です」
「王子のために自分を疎かにするなってことだよ」
「……?」
私はなぜ歳下の男に説教をされてるのだろう。しかも、後ろをほぐされながら。
「挿入する気がないならそこをどいてください」
「冗談だろ」
ぬちゅり、と粘った音がした。中を圧迫していた指がすべて抜かれた。香油でぬるぬるになったそこに、ファルケンのそれが押し当てられた。
「挿れるぞ」
「だから、さっさとぶち込めって言って、っ、ん、んぁ……」
「力抜け」
「うる、さい、指図しないで、ください」
ゆっくりと私を開いてゆく感触に、息が詰まった。
熱い。それに……大きい。
「息、止めるな」
「だ、から、指図しないでくださ、あっ、あぅっ」
声が漏れた。咄嗟に両手で口を押さえた。ファルケンがふっと吐息で笑った。余裕のあるその表情に腹が立った。
繋がった部分を締め付けた。私の中で男のそれがびくりと動いた。
「……っ、い、ってぇ……」
掠れたうめき声に溜飲が下がる。けれど私が余裕ぶれたのはそこまでだった。
「煽んな、バカ」
ファルケンの低い囁き。それが色に濡れていて、ぞくりとしたしびれが背すじを這った。
オイルのぬめりを借りて、ずるり、と男根が深い部分まで侵入を果たす。こんなに奥まで暴かれたのは初めてで、悲鳴が漏れそうになった。
両足を抱えられた。ファルケンがゆっくりと腰を揺らし始めた。ぬちゅっ、ぐちゅっ、と内側を攪拌する音が結合部から湧きあがった。
「ああ~っ、あっ、あっ」
突かれるたびに喉奥から勝手に喘ぎが漏れた。口を押さえているのに、まったく役に立たない。まずい。気持ちいい。こんなふうに後ろで感じるのは初めてかもしれない。
こんなはずじゃなかった。私に跨って腰を振るみっともないアルファを、嗤ってやろうと思っていたのに。
気づけば私の方がダメになっていた。
「すげぇ敏感」
勝手にビクビクと跳ねる体を弄びながら、ファルケンが笑った。前で勃ち上がっていた性器を握りこまれた。そのままちゅくちゅくと先端をくじられて、私は呆気なく吐精した。
イったのに、男の手は止まらなかった。
「ちょ、い、いや、だ、あっ、ああっ」
私の出した精液で濡れた指で、責められる。どうしようもなくて腰を捩って逃げようとしたら、ぬくっと一番奥まで貫かれた。
う~、あ~、と言葉にならぬ声がひっきりなしに飛び出していた。唾液すら飲み込むことができない。
涙と涎で濡れた顔を枕に押し付けたら、肩を掴まれて引き剥がされた。
「こっち向け」
「めい、れい、するなっ」
上手く回らない舌を動かして言い返したら、ははっと笑われた。
「ベトベトだな」
口元をてのひらで拭われた。と思ったら、唇が重なってきた。
バカじゃないのか。雰囲気に流されて、私などに、キスするなんて。
噛みついてやろうかと一瞬思う。でも、男の舌の感触が存外気持ち良くて、自分の方からも舌を伸ばしてしまった。
唾液が混ざり合う。アルファの男が、ベータの体に跨ってキスをしながら腰を振っている。
「ぜんぶ挿れていいか」
口づけの合間に問われた。嘘だろ、と首を横に振ったのに、ファルケンは問答無用でさらに深くまで私を抉った。
入ってはいけないところまで男で埋まってしまった。そんな気がした。
「う、うそ、あっ、ひっ、ぬ、ぬけっ」
「無茶言うな」
「こ、の、ばかっ、あぅっ、あっ、ああっ、あっ、あっ」
抽送が強くなってきた。ひとの体を好き勝手するこの男を絞め殺してやりたくなった。でも力が入らない。いや、力は入っている。爪先までピンと。でも体が言うことを聞かない。気持ちいい。気持ち良くてどうにかなりそうだ。
あとで絶対に報復してやる。そう思いながら私は、理性を手放した。
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