Ωの愛なんて幻だ

相音仔

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本編

ここにある気持ち

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 自分が結婚することが信じられなかった。それに前向きに準備している事だって、かつての自分が見ればなんというだろう。
 周囲の人が驚くほど協力的で、おめでとうと言ってくれる。それを、素直に嬉しいと思える自分がいた。

 リュミエールのご両親をはじめ、お兄さんたちもその奥さんも、とても協力的だった。特に女性は結婚式に並々ならぬ想いがあるようで、少しでも適当に選ぼうとしていると見抜かれてしまって、これにはどういう意味があって、こっちとそっちだとこんな違いが……みたいな解説をされた。
 ルナールさんとオーベルさんの時に同性での結婚式を既に経験されているから、準備にもあまり困らなかった。もっとも、変わるのは服くらいで、あとは本人たちの意向だと言われた。
 
 自分が着飾る事に興味はなかったけれど、こればかりはリュミエールと、彼の母ショーンさん、そしてエルフィさんが色々と提案をしてくれた。
 ドレスなんてと思ったから、試着するだけだと言って、着てみたのだけれど、これが意外とシンプルで悪くないなんて思ってしまった。
 俺のウエディングドレスのイメージは、真っ白で、ふわふわで、布を幾重にも重ねてあり、スカートが大きく広がった、これぞお姫様って感じのものだ。ここパディーラでもそういうドレスは女性にも人気らしいが、そればかりではなかった。
 まず、色は白でなくても良いらしい。
 ワインレッドに近い深めの赤を勧められた。俺の髪色にとても合っているとのこと。
 ドレスのラインもふわっと広がるものではなくて、ストンとストレートに落ちて身体に密着していた。スレンダーだから良く似合うとエルフィさん一押しだった。
 生地もごてごてしていなくて、シンプルに質感を生かしたものだった。スカートというよりも、布を良い感じに身体に巻いたみたいだ、なんて言ったら職人さんは怒るだろうか。
 肩や手を出すのに抵抗があるといえば、手首までレースのような薄い生地で覆ってくれた。
 なんかこうガチガチに固められて、動きにくかったりするのかと思っていたけれど、別にそんな事も無く。試着しても、こんな感じなのか、くらいの感想だった。
 試着にはリュミエール当然も付いてきていて、ドレスを見た俺をみて、絶賛してくるわけ。本気で言ってるのは見ていたら分かるし、こっちが照れて顔をあげられないくらい褒めてくるの。
 もう認めるけれど、俺はリュミエールに弱いわけ。君が当日着たくないなら、写真だけでも……なんて遠慮がちに言ってくるんだ。もう本心じゃ着てほしいって思っているのが、分かってしまって、それで結局受け入れてしまった。
 似合ってない!俺には無理!って思ったのなら、ちゃんと断ったと思う。でも、沢山の人が俺に合うように考えてくれたものが、目も当てられないくらいに合わないなんてことは無く。あんなに褒められたら満更でも無くなってしまった。
 
 式場は俺の意見が優先されたように思う。リュミエールは女神様への感謝の気持ちがあるのか大聖堂が気になるみたいだった。
 でも、色々聞くうちに分かったけれど、あそこで式をあげるのは本当に大変みたい。お父さんのスティークさんの力を持ってしても、一年待ちは確実らしい。
 俺はあまり日程が遠すぎるのは嫌だなぁと思った。はやく終わらせておきたいというか、一年以上は流石に長いと言って却下。
 式場を何件か回って、素敵な庭園がある教会にさせてもらった。
 一番の売りがそのお庭だというくらいで、相当綺麗だった。二次会もそのままその庭園の中の広場で開催できるような会場だった。
 教会内の装飾も生花に拘っているらしく、こちらの希望も沢山きいてくれた。

 食事に関しては本当に興味が無いので、リュミエールに丸投げしてしまった。
 当日俺は緊張するだろうし、ほとんど食べられないと思うとだけ伝えておくと、主賓は忙しくて、もともとあんまり食べられないと言われた。控え室に下がったときに、軽く食べられるものを用意してもらうつもりらしい。

 それから、式で交換するネックレスの注文に行った。多くの夫婦がこれにはとても気合いをいれるらしい。
 店に行くどころか、専門の人を家によんで、一から作るのだ。まずオーダーメイドな事に驚いていたら、別に珍しいことでもないらしい。リュミエールの家族は皆そうしたと聞いた。
 選ばないといけないことがありすぎて、大変だったけれど、一つだけ俺もお願いをした。アザレの花のモチーフを入れたいと。
 あの花畑での想い出は特別だった。あの日俺は、初めて、この世界に来られて良かったとはっきり自覚したのだから。
 お店の人は花言葉を知っていたのだろう、とても素敵ですねと乗り気だったし、リュミエールも賛成してくれた。
 式典用のネックレスにはいくつか規定があるらしく、そこからのアレンジは自由らしい。まずは、大石を一つ使う事。これは、宝石でも良いし、クリスタルでも良いらしい。
 色は相手の色が通常だが、想い出のある石や色があるならそれを優先しても良いそうだ。俺はリュミエールの瞳の色がとても好きだから、それにそっくりの色の宝石を選んだ。そして、縁取りを意匠の中にアザレの花のモチーフを入れて貰った。
 台座の裏に刻む文字にも規定があるらしく、そこはお任せした。二人の愛を誓います的なオーソドックスなものだ。

 招待状を出すのはリュミエールが大変そうだった。選別から随分と悩んでいるみたいで、俺は悩むくらいならとりあえず出せばいいと勧めておいた。
 相変わらず俺の方の招待客がゼロという事に少し気後れしているのは分かっている。気にする事じゃないのに。
 彼が招待状を書く横で、その人がどんな人なのか教えてもらった。勿論全員を覚えるのはとても無理だけれど、知ろうとするのは悪いことじゃないはずだ。
 友人、職場の同僚、先輩、恩師……、色んな思い出を教えてくれた。




 当日は、驚くほど良い天気だった。パディーラの空は、不思議と広く見える。それがより一層青くて美しかった。
 これは、庭園も綺麗だろう。
「緊張してる?」
「絶対すると思ってたのに、それほどしてない」
 心配そうに聞いてきたリュミエールに俺はそう答えた。
 
 式場に入場する際、本来花嫁と親類の保護者が一緒に入場することが多いのだが、俺はいないから、最初からリュミエールと一緒に入場させてもらうことになっていた。
 彼が隣にいるなら、なんだって怖くない。

 大きな拍手に包まれながら、祭壇の前まで向かう。
 この国の結婚式で、誓いの言葉をいう相手はやはり女神様なのだ。正面には神聖な像が立っている。
「本日、私たちふたりはご列席の皆様を証人とし、女神の御前にて、結婚を誓います。これから先、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、お互いを愛し、敬い、共に助け合い、命ある限り真心を尽くすことを誓います。……彼をこの地に、招いて下さったこと、本当に感謝致します」
 リュミエールは最後に、定型文にはない言葉を添えた。
「この命の続く限り、彼を愛し、支え続けることを誓います。二人でならきっと幸せになれると思います」
 本来ならリュミエールの言葉だけでも良いところだが、俺の言葉も添えさせてもらった。

 その後、ネックレスの交換に移ろうとしたときだった。
 女神像の方から、色とりどりの光の粒が舞い落ちた。祝福だ。
 前回のより派手だ、なんて感想を覚える俺をよそに、会場はどよめいていた。
 前は俺の上にだけだったけれど、今日は二人に降り注いでいる。女神様、リュミエールもお祝いしてくれるのかな?そうだとすれば俺は嬉しい。
 固まっている彼に、ネックレスをかける。本当はリュミエールから俺へ贈るのが先の予定だったけれど、進行を止めるわけにもいかないし。

「俺、貴方に会うためにこの世界に来たんだと思う。……愛してる。ずっと、これまでも、この先も」

 滅多に告げないけれど、たまにはちゃんと言葉にしないとね。
 あの日、一目見た時から、自覚なんてなかったけれど、俺は惹かれていた。
 この言い方、好きじゃなかったけれど、認めるよ。俺の運命の相手はリュミエールだった。

「私も、愛している。一生かけて、幸せにするから」

 彼は喜びに満ちあふれた表情で、涙ぐみながら俺にネックレスをかけてくれた。まだ結婚式は、はじまったばかりなのに、もう泣きそうなの?って少し笑ってしまった。
 
 誰かに、愛されるなんて、夢にも思っていなかった。
 自分が誰かを愛す日がくるなんて、それこそ信じてもいなかった。
 貴方が俺に愛を教えてくれた。
 その幸せが俺を包んでくれたから、同じように貴方に何かを返したかった。

 目にも見えない、形もない、でもきっとここに、今この空間に、それは存在しているのだと、信じられるようになった。
 
「アザレの花言葉は知ってるよね? もう充分貴方に愛されて幸せだよ」
 
 この気持ちは、幻なんかじゃない。



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