19 / 23
本編
ここにある気持ち
しおりを挟む自分が結婚することが信じられなかった。それに前向きに準備している事だって、かつての自分が見ればなんというだろう。
周囲の人が驚くほど協力的で、おめでとうと言ってくれる。それを、素直に嬉しいと思える自分がいた。
リュミエールのご両親をはじめ、お兄さんたちもその奥さんも、とても協力的だった。特に女性は結婚式に並々ならぬ想いがあるようで、少しでも適当に選ぼうとしていると見抜かれてしまって、これにはどういう意味があって、こっちとそっちだとこんな違いが……みたいな解説をされた。
ルナールさんとオーベルさんの時に同性での結婚式を既に経験されているから、準備にもあまり困らなかった。もっとも、変わるのは服くらいで、あとは本人たちの意向だと言われた。
自分が着飾る事に興味はなかったけれど、こればかりはリュミエールと、彼の母ショーンさん、そしてエルフィさんが色々と提案をしてくれた。
ドレスなんてと思ったから、試着するだけだと言って、着てみたのだけれど、これが意外とシンプルで悪くないなんて思ってしまった。
俺のウエディングドレスのイメージは、真っ白で、ふわふわで、布を幾重にも重ねてあり、スカートが大きく広がった、これぞお姫様って感じのものだ。ここパディーラでもそういうドレスは女性にも人気らしいが、そればかりではなかった。
まず、色は白でなくても良いらしい。
ワインレッドに近い深めの赤を勧められた。俺の髪色にとても合っているとのこと。
ドレスのラインもふわっと広がるものではなくて、ストンとストレートに落ちて身体に密着していた。スレンダーだから良く似合うとエルフィさん一押しだった。
生地もごてごてしていなくて、シンプルに質感を生かしたものだった。スカートというよりも、布を良い感じに身体に巻いたみたいだ、なんて言ったら職人さんは怒るだろうか。
肩や手を出すのに抵抗があるといえば、手首までレースのような薄い生地で覆ってくれた。
なんかこうガチガチに固められて、動きにくかったりするのかと思っていたけれど、別にそんな事も無く。試着しても、こんな感じなのか、くらいの感想だった。
試着にはリュミエール当然も付いてきていて、ドレスを見た俺をみて、絶賛してくるわけ。本気で言ってるのは見ていたら分かるし、こっちが照れて顔をあげられないくらい褒めてくるの。
もう認めるけれど、俺はリュミエールに弱いわけ。君が当日着たくないなら、写真だけでも……なんて遠慮がちに言ってくるんだ。もう本心じゃ着てほしいって思っているのが、分かってしまって、それで結局受け入れてしまった。
似合ってない!俺には無理!って思ったのなら、ちゃんと断ったと思う。でも、沢山の人が俺に合うように考えてくれたものが、目も当てられないくらいに合わないなんてことは無く。あんなに褒められたら満更でも無くなってしまった。
式場は俺の意見が優先されたように思う。リュミエールは女神様への感謝の気持ちがあるのか大聖堂が気になるみたいだった。
でも、色々聞くうちに分かったけれど、あそこで式をあげるのは本当に大変みたい。お父さんのスティークさんの力を持ってしても、一年待ちは確実らしい。
俺はあまり日程が遠すぎるのは嫌だなぁと思った。はやく終わらせておきたいというか、一年以上は流石に長いと言って却下。
式場を何件か回って、素敵な庭園がある教会にさせてもらった。
一番の売りがそのお庭だというくらいで、相当綺麗だった。二次会もそのままその庭園の中の広場で開催できるような会場だった。
教会内の装飾も生花に拘っているらしく、こちらの希望も沢山きいてくれた。
食事に関しては本当に興味が無いので、リュミエールに丸投げしてしまった。
当日俺は緊張するだろうし、ほとんど食べられないと思うとだけ伝えておくと、主賓は忙しくて、もともとあんまり食べられないと言われた。控え室に下がったときに、軽く食べられるものを用意してもらうつもりらしい。
それから、式で交換するネックレスの注文に行った。多くの夫婦がこれにはとても気合いをいれるらしい。
店に行くどころか、専門の人を家によんで、一から作るのだ。まずオーダーメイドな事に驚いていたら、別に珍しいことでもないらしい。リュミエールの家族は皆そうしたと聞いた。
選ばないといけないことがありすぎて、大変だったけれど、一つだけ俺もお願いをした。アザレの花のモチーフを入れたいと。
あの花畑での想い出は特別だった。あの日俺は、初めて、この世界に来られて良かったとはっきり自覚したのだから。
お店の人は花言葉を知っていたのだろう、とても素敵ですねと乗り気だったし、リュミエールも賛成してくれた。
式典用のネックレスにはいくつか規定があるらしく、そこからのアレンジは自由らしい。まずは、大石を一つ使う事。これは、宝石でも良いし、クリスタルでも良いらしい。
色は相手の色が通常だが、想い出のある石や色があるならそれを優先しても良いそうだ。俺はリュミエールの瞳の色がとても好きだから、それにそっくりの色の宝石を選んだ。そして、縁取りを意匠の中にアザレの花のモチーフを入れて貰った。
台座の裏に刻む文字にも規定があるらしく、そこはお任せした。二人の愛を誓います的なオーソドックスなものだ。
招待状を出すのはリュミエールが大変そうだった。選別から随分と悩んでいるみたいで、俺は悩むくらいならとりあえず出せばいいと勧めておいた。
相変わらず俺の方の招待客がゼロという事に少し気後れしているのは分かっている。気にする事じゃないのに。
彼が招待状を書く横で、その人がどんな人なのか教えてもらった。勿論全員を覚えるのはとても無理だけれど、知ろうとするのは悪いことじゃないはずだ。
友人、職場の同僚、先輩、恩師……、色んな思い出を教えてくれた。
当日は、驚くほど良い天気だった。パディーラの空は、不思議と広く見える。それがより一層青くて美しかった。
これは、庭園も綺麗だろう。
「緊張してる?」
「絶対すると思ってたのに、それほどしてない」
心配そうに聞いてきたリュミエールに俺はそう答えた。
式場に入場する際、本来花嫁と親類の保護者が一緒に入場することが多いのだが、俺はいないから、最初からリュミエールと一緒に入場させてもらうことになっていた。
彼が隣にいるなら、なんだって怖くない。
大きな拍手に包まれながら、祭壇の前まで向かう。
この国の結婚式で、誓いの言葉をいう相手はやはり女神様なのだ。正面には神聖な像が立っている。
「本日、私たちふたりはご列席の皆様を証人とし、女神の御前にて、結婚を誓います。これから先、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、お互いを愛し、敬い、共に助け合い、命ある限り真心を尽くすことを誓います。……彼をこの地に、招いて下さったこと、本当に感謝致します」
リュミエールは最後に、定型文にはない言葉を添えた。
「この命の続く限り、彼を愛し、支え続けることを誓います。二人でならきっと幸せになれると思います」
本来ならリュミエールの言葉だけでも良いところだが、俺の言葉も添えさせてもらった。
その後、ネックレスの交換に移ろうとしたときだった。
女神像の方から、色とりどりの光の粒が舞い落ちた。祝福だ。
前回のより派手だ、なんて感想を覚える俺をよそに、会場はどよめいていた。
前は俺の上にだけだったけれど、今日は二人に降り注いでいる。女神様、リュミエールもお祝いしてくれるのかな?そうだとすれば俺は嬉しい。
固まっている彼に、ネックレスをかける。本当はリュミエールから俺へ贈るのが先の予定だったけれど、進行を止めるわけにもいかないし。
「俺、貴方に会うためにこの世界に来たんだと思う。……愛してる。ずっと、これまでも、この先も」
滅多に告げないけれど、たまにはちゃんと言葉にしないとね。
あの日、一目見た時から、自覚なんてなかったけれど、俺は惹かれていた。
この言い方、好きじゃなかったけれど、認めるよ。俺の運命の相手はリュミエールだった。
「私も、愛している。一生かけて、幸せにするから」
彼は喜びに満ちあふれた表情で、涙ぐみながら俺にネックレスをかけてくれた。まだ結婚式は、はじまったばかりなのに、もう泣きそうなの?って少し笑ってしまった。
誰かに、愛されるなんて、夢にも思っていなかった。
自分が誰かを愛す日がくるなんて、それこそ信じてもいなかった。
貴方が俺に愛を教えてくれた。
その幸せが俺を包んでくれたから、同じように貴方に何かを返したかった。
目にも見えない、形もない、でもきっとここに、今この空間に、それは存在しているのだと、信じられるようになった。
「アザレの花言葉は知ってるよね? もう充分貴方に愛されて幸せだよ」
この気持ちは、幻なんかじゃない。
58
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたのいない、この異世界で。
Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」
最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。
そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。
亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。
「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」
ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。
彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。
悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。
※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。
ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。
世界が僕に優しくなったなら、
熾ジット
BL
「僕に番なんていない。僕を愛してくれる人なんて――いないんだよ」
一方的な番解消により、体をおかしくしてしまったオメガである主人公・湖川遥(こがわはる)。
フェロモンが安定しない体なため、一人で引きこもる日々を送っていたが、ある日、見たことのない場所――どこかの森で目を覚ます。
森の中で男に捕まってしまった遥は、男の欲のはけ口になるものの、男に拾われ、衣食住を与えられる。目を覚ました場所が異世界であると知り、行き場がない遥は男と共に生活することになった。
出会いは最悪だったにも関わらず、一緒に暮らしていると、次第に彼への見方が変わっていき……。
クズ男×愛されたがりの異世界BLストーリー。
【この小説は小説家になろうにも投稿しています】
溺愛アルファは運命の恋を離さない
リミル
BL
運命を受け入れたスパダリα(30)×運命の恋に拾われたΩ(27)
──愛してる。俺だけの運命。
婚約者に捨てられたオメガの千歳は、オメガ嫌いであるアルファのレグルシュの元で、一時期居候の身となる。そこでレグルシュの甥である、ユキのシッターとして働いていた。
ユキとの別れ、そして、レグルシュと運命の恋で結ばれ、千歳は子供を身籠った。
新しい家族の誕生。初めての育児に、甘い新婚生活。さらには、二人の仲にヤキモチを焼いたユキに──!?
※こちらは「愛人オメガは運命の恋に拾われる」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/590151775/674683785)の続編になります。
涯(はて)の楽園
栗木 妙
BL
平民の自分が、この身一つで栄達を望むのであれば、軍に入るのが最も手っ取り早い方法だった。ようやく軍の最高峰である近衛騎士団への入団が叶った矢先に左遷させられてしまった俺の、飛ばされた先は、『軍人の墓場』と名高いカンザリア要塞島。そして、そこを治める総督は、男嫌いと有名な、とんでもない色男で―――。
[架空の世界を舞台にした物語。あくまで恋愛が主軸ですが、シリアス&ダークな要素も有。苦手な方はご注意ください。全体を通して一人称で語られますが、章ごとに視点が変わります。]
※同一世界を舞台にした他関連作品もございます。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/index?tag_id=17966
※当作品は別サイトでも公開しております。
(以後、更新ある場合は↓こちら↓にてさせていただきます)
https://novel18.syosetu.com/n5766bg/
運命には抗えない〜第二幕〜
みこと
BL
レオナルドと無事結婚したルーファスは久しぶりにリトに会いに行く。しかし訪れたグリーンレイクは普段と様子が違っていて…。
ルーファスたちがまたもや不思議な事件に巻き込まれます。あの変態二人組もさらにパワーアップして戻ってきました♪
運命には抗えない〜第一幕〜から読んで下さい。
【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話
十海 碧
BL
桐生蓮、オメガ男性は桜華学園というオメガのみの中高一貫に通っていたので恋愛経験ゼロ。好きなのは男性なのだけど、周囲のオメガ美少女には勝てないのはわかってる。高校卒業して、漫画家になり自立しようと頑張っている。蓮の父、桐生柊里、ベータ男性はイケメン恋愛小説家として活躍している。母はいないが、何か理由があるらしい。蓮が20歳になったら母のことを教えてくれる約束になっている。
ある日、沢渡優斗というアルファ男性に出会い、お互い運命の番ということに気付く。しかし、優斗は既に伊集院美月という恋人がいた。美月はIQ200の天才で美人なアルファ女性、大手出版社である伊集社の跡取り娘。かなわない恋なのかとあきらめたが……ハッピーエンドになります。
失恋した美月も運命の番に出会って幸せになります。
蓮の母は誰なのか、20歳の誕生日に柊里が説明します。柊里の過去の話をします。
初めての小説です。オメガバース、運命の番が好きで作品を書きました。業界話は取材せず空想で書いておりますので、現実とは異なることが多いと思います。空想の世界の話と許して下さい。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
春風のように君を包もう ~氷のアルファと健気なオメガ 二人の間に春風が吹いた~
大波小波
BL
竜造寺 貴士(りゅうぞうじ たかし)は、名家の嫡男であるアルファ男性だ。
優秀な彼は、竜造寺グループのブライダルジュエリーを扱う企業を任されている。
申し分のないルックスと、品の良い立ち居振る舞いは彼を紳士に見せている。
しかし、冷静を過ぎた観察眼と、感情を表に出さない冷めた心に、社交界では『氷の貴公子』と呼ばれていた。
そんな貴士は、ある日父に見合いの席に座らされる。
相手は、九曜貴金属の子息・九曜 悠希(くよう ゆうき)だ。
しかしこの悠希、聞けば兄の代わりにここに来たと言う。
元々の見合い相手である兄は、貴士を恐れて恋人と駆け落ちしたのだ。
プライドを傷つけられた貴士だったが、その弟・悠希はこの縁談に乗り気だ。
傾きかけた御家を救うために、貴士との見合いを決意したためだった。
無邪気で無鉄砲な悠希を試す気もあり、貴士は彼を屋敷へ連れ帰る……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる