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本編
育まれ、繋がる
「エクレ、フレーズが会わせたい人がいるって、今度の休日連れてくるそうだ」
夕方に庭の手入れをしていると、リュミエールがそわそわと教えてくれた。
「フレーズが?じゃあお部屋綺麗にしておかないとね。あの子が好きなビーフシチューも作らないと」
「事前に連絡までして、連れてくるなんて……やっぱりそういう事だよね?どんな子なんだろう」
「お友達かもしれないし、紹介を受けるまでは、こちらからは何も言わないでおこうよ。……でも、急だね。最近相性面談を受けたなんて話は聞いてないしなぁ」
フレーズは、俺とリュミエールの最初の子どもだ。
結婚してから5年俺たちは子宝には恵まれなかった。
子どもが出来やすいと言われる、αとΩのカップルの中では、かなり時間がかかった方だと思う。
主に俺の身体の問題だった。
若気の至りだったとはいえ、後になって随分と後悔したものだ。良く分からない薬なんて使うもんじゃない。
リュミエールは、命の事は人がどうにか出来ることじゃないと、ゆったりと構えていた。
彼は、俺よりずっと、子どもが欲しかっただろうに、その余裕に随分と救われたものだ。
後から聞いたところによると、俺と二人の時間が続くのも悪くないと思っていたらしい。
そんなわけで俺たちには、結構二人の時間があった。
約束していたように、旅行にも沢山行ったし、海外にも連れて行ってもらった。
世界は広くて、美しい景色が沢山あった。
行く先々で、珍しい植物も沢山みた。俺は相変わらず、家の庭を整えるのが好きだ。我が家の庭の管理はずっと任せてもらっている。
最初は芝生だけだったのに、この何十年で庭園と言っていいほど、見た目が変わった。
季節ごとに花が咲くように、計算して整えた大切な庭だ。
仕事にするほどでは無いけれど、知り合いに頼まれれば自慢の庭の花で、お祝いの日にブーケを作ることもあった。
子どもの事は半分くらい諦めかけて、二人でずっと暮らすのも悪くないと思ったころに、フレーズを授かった。
そこからは、また大変だった。
俺はなんとなくリュミエールの子なら良いかなぁという漠然とした気持ちしかなかった。なんなら本当に授かれるとも思っていなかったから、もう一人の命が自分の身体にいるという事が、とても重く感じられた。
悪阻もなかなかに深刻な方で、2カ月くらい日常生活もままならないほどだった。
リュミエールはそんな俺を献身的に支えてくれた。
もう一つ大きな不安だったのが、俺がまともな親になれるのかという事だった。
顔も知らない母親、俺を売った父親、そんな二人の子どもの俺が、親になれるだろうか。
年の近い先輩Ωのルナールさんにそう相談すると彼は、あっさりと笑い飛ばした。
「大丈夫だって、この世に生まれた瞬間から、世界で一番大事な存在になるから。もし仮に、エクレがどうしよう思ったより全然何も感じない……なんてことになってもさ、その分リュミエールが沢山愛してくれるよ。甘やかしてばかりになるかもしれないから、そこはエクレがきっちり締めないとね」
ナイーブな気持ちになっていた俺は、そんなものなのかと懐疑的だった。
それでも日に日に大きくなってくる存在に、不思議と心が温かくなるような気がした。
その後も、気持ちと体調に振り回されつつ、時間が経ち、フレーズは無事に生まれた。
生まれたその日、心の底からほっとしたのだ。
自分の事を出来損ないのΩだと思っていた、ちゃんと生まれてくるかずっと不安だった。
この子を愛せるかどうかは、分からないけれど、出来る限りで守り育てたいと思った。
フレーズの髪の色はリュミエールにそっくりだった。瞳の色は俺に似ている。
性格はどちらにも似なかった。知り合いで誰に一番近いかと言われると、ルナールさんに似ている気がする。まぁでも、やっぱりこの子はこの子だ。
その三年後、もう一人子どもを授かった。フレーズの時でさえ、奇跡だと言われたので、もう一人授かれたことに、俺は驚いて、リュミエールは本当に喜んでいた。フレーズも俺の前では言わないけれど、兄弟を欲しがっていた事は分かっていた。
シャルルと名付けたその子は、本当に良く寝る、マイペースな子だった。フレーズの時との夜泣きの差に、こんなに違うのかと驚いた。
二人ともすくすくと良い子に育ってくれた。
第二次性が分かる頃になると、二人ともαだという事が分かった。
背も随分と早くに、俺よりも大きくなってしまって、子どもの成長はこうも早いのかと、少し寂しくなったものだ。
上級学校を出て就職する頃になると、大抵の子は家を出て、一人暮らしをする。その方が自立できるし、恋も自由に出来るから。
フレーズは、政府の機関に就職して、リュミエールの背中を追っている。
驚かされたのはシャルルだった。
おっとりした大人しい性格だと思っていたのだけれど、意外に肝が据わっていた。上級学校時代に交換留学を申し込み、隣国のタルペットに行った。
そこでの生活が肌に合ったらしい。外交官になりたいと真剣に相談された。
親戚のほとんどが中央区におり、何か用事があれば会える環境だったから、少しだけ心配だった。けれど、俺は応援したかった。シャルルは愛される性格だし、決めるとこはしっかり決める子だ。
リュミエールを説得するのが中々に大変だった。応援したい気持ちと、すぐに手を差し伸べれる範囲に子どもに居て欲しい気持ちとがせめぎ合っているようだった。最後は一緒に、送り出したけれど。
シャルルは卒業と同時にタルペットに渡り、そっちで生活をしている。そして、半年もしないうちに、番を見つけたと報告をしてきた。
リュミエールと俺は驚いたけれど、納得もした。運命の番は、不思議と惹かれ合う。シャルルが隣国に興味を持ったのも、また運命という事。
相手のΩの出身国でもあるし、シャルルは結婚を機に正式にタルペットへと移住した。
それから俺たちは、一年に一度は隣国へ行くようになる。孫が生まれると二人がこちらに来るのは大変だ。可愛い孫の顔を見に、旅行ついでに行くのは苦にならなかった。
「ただいま!連れて来たよ」
何年たっても変わらない元気の良い息子の声がした。
「はじめまして、お会いできて嬉しいです」
一目で分かった、隣の男の子はΩだ。おっとりとした雰囲気の子だ。フレーズと隣り合わせだと不思議としっくりくる。
なるほど、リュミエールの予想は当たったらしい、一体どこで出会ったのだろうか。
「はじめまして、エクレです。ようこそわが家へ」
今日は沢山、話を聞かせて貰わなければ。
俺とリュミエールの愛の証、小さく可愛かったフレーズもついに、自分の運命を見つけてきたのだ。
感慨深いものがあった。俺やリュミエールが、遠いいつの日にか、天に召され女神の下へ行く日が来ても、この子たちがいる。
こうやって脈々と繋がっていくのだろう。
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