王妃はただ、殺されないことを願う

柴田はつみ

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第15章:夜会へのカウントダウン

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リリアナの私室。
深夜、侍女マルグリットが深い眠りに落ちた後、老騎士ゼオンは密かに王妃のもとを訪れていた。

暖炉の火は静かに揺れ、二人の影を壁に大きく映し出している。
その揺らめきが、これから語られる計画の危うさを象徴しているかのようだった。

ゼオンは、卓上に置かれた書類――ヴァイスと隣国の署名が並ぶ契約書の写しに、改めて目を通していた。その表情は、厳しく引き締まっている。

「王妃様。この契約書と、先日お示しいただいた青い鳩の暗号コード……」

彼は低い声で断言した。

「いずれも、宰相ヴァイスが陛下を欺き、隣国と結託して、この国の貴重な資源を奪おうとしている――動かぬ証拠です」

リリアナは静かに頷いた。

「ええ。問題は、いつ、どのように陛下に示すかです」

彼女の声には、感情の揺れはなかった。

「陛下は今、私を深く疑っておられる。
ヴァイス卿の進言が、陛下の義務感という最も強い武器となって、心を縛っているのです」


残された時間は、わずか数週間。
冬至の夜会は、すでに避けられぬ未来として、目前に迫っていた。

ゼオンは、アレス王の性格を誰よりも理解している男だった。

「陛下は、真実を重んじられます。しかし同時に、**『呪いの予言』**を恐れておられる。
それが国民の不安を煽ることを、何よりも危惧しているのです」

一度、言葉を区切り、続ける。

「我々が証拠を提示しても、ヴァイス卿が巧みに
『王妃による偽装工作』だと主張すれば……陛下は、即座には信じられないでしょう」

リリアナの思考が、冷徹に組み上がっていく。

「契約書だけでは足りない。
陛下が**『呪い』を信じざるを得ない状況**を、ヴァイス卿自身に、目の前で演出させる必要があります」

そして彼女は、一度目の人生で起きた、決定的な瞬間を思い出した。

「冬至の夜会。
陛下が私を処断したのは、ヴァイス卿が『呪いの血の兆候』として、私に特定の毒素が発症したように見せかけたからです」

静かな声で、続ける。

「さらに隣国の使者が、
それを**『呪いを祓うための儀式』**と称して、陛下に圧力をかけました」

リリアナは、暖炉の炎を見つめながら、最終的な布陣を言葉にした。

「計画は、三段階です」

一つ目。
「最終証拠の確保。
ヴァイス卿の裏取引の現場――『藍晶石』の採掘地、あるいは毒素の保管場所を特定します。
これは、ゼオン卿。あなたの警備権限が不可欠です」

二つ目。
「夜会当日、あなたは王妃ではなく、陛下を守る忠臣として行動してください。
そして、陛下がヴァイス卿の罠にかかろうとした瞬間、
『第三者の証言』として、私の無実を証明していただきます」

三つ目。
「私は――一度目の人生と同じ役割を演じます」

リリアナは、はっきりと言った。

「夜会では、『呪い』が発症したかのように振る舞う。
ヴァイス卿が用意した偽りの証拠と、
私が掴んだ真実――契約書と青い羽を、同時に陛下の前へ突きつけるのです」

そして、静かに結論を告げた。

「ゼオン卿。
私は、冬至の夜会で、もう一度――殺される寸前まで行きます」

ゼオンは、息を呑んだ。

「王妃様……! それは、あまりにも危険です!」

「ご心配なく」

リリアナは、迷いのない眼差しで彼を見つめた。

「今度こそ、私は殺されません。
なぜなら――私には、あなたという忠実な剣がいる」

その言葉に、ゼオンは深く頭を垂れた。

「この命、陛下と王妃様のために。
必ずや、ご期待に応えてみせます」

こうして、夜会への最終準備は整えられた。
静寂の中で、運命のカウントダウンだけが、確実に進み始めていた。
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