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第44章「白百合の間へ(王家の決断と影の反撃)」
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夜が明ける前の王宮は、
異様な静けさに包まれていた。
王妃の間の扉の外で、
侍従が震えた声で告げる。
「……公爵夫人、
王家より“白百合の間”への召喚命が……」
シャルロットの心臓が跳ねた。
(また……あの部屋へ……?
影が……いるかもしれないのに……)
扉が開かれ、
王妃アマーリエが現れた。
その表情は昨夜よりもさらに厳しく、
瞳は決意に満ちていた。
「シャルロット。
あなたには再び白百合の間へ入っていただきます。」
「……わたくしを……?
影がいる危険な場所へ?」
王妃は静かに頷いた。
「王家は“影封じの儀式”を行います。
影は、あなたを“鍵”として結びつこうとしている。」
「……わたくしを……?」
「あなたの涙、あなたの心臓……
どれも影にとっては“扉を開く道具”となる。」
シャルロットの胸に小さな痛みが走る。
影に触れられた跡が、まだ熱を持っていた。
王妃は続ける。
「影を封じるためには、
“鍵の器”であるあなたの存在が不可欠なのです。」
シャルロットは息を呑む。
(わたくしは……
影を封じるための……器……?
カルロス様の妻ではなく……
ただの道具……?)
悲しみが胸を刺した。
しかし王妃はその瞳にわずかな慈しみを宿す。
「恐れることはありません。
この儀式は王家が代々伝えてきたもの……
あなたを守るための結界も施します。」
(守られる……
でも……
カルロス様とは、また離れ離れに……)
王妃の表情が曇る。
「……あなたの夫にも、
この事実はまだ知らせていません。」
シャルロットの胸が締めつけられた。
(カルロス様……
きっと心配している……
わたくしが何も告げないまま……
消えたと思っている……)
涙がにじむ。
王妃は恨めしさではなく、
理解の色を浮かべて言った。
「夫への愛があなたを強くするか……
それとも影を呼び寄せるか……
それはあなた次第です。」
◆
王宮の奥、
白百合の間へ続く回廊。
魔術師たちが準備を整え、
空気は緊張に満ちていた。
重い扉が開かれると、
かつての静謐はもうなかった。
白百合の花は枯れ、
床には薄い霧が漂っている。
(影が……
ここに触れたのだわ……昨夜……)
王妃は杖を掲げ、
魔術式の陣を呼び起こす。
「白百合の間を“光の檻”で満たしなさい。」
魔術師たちが一斉に詠唱を始めた。
床に刻まれた白百合紋が光を帯び、
シャルロットの足元が淡く輝く。
しかし——
そのとき突然、
空気が凍りついた。
白百合の花弁が
ぱらぱらと……逆流するように宙へ舞い上がる。
魔術師が悲鳴を上げた。
「影です!!
影が……もう来ている!!」
白百合の間の中央に、
薄い影がゆっくりと咲き始める。
――「また……来たのね……シャルロット。」
ミレイユが姿を現した。
朝の薄明かりを拒むように、
その輪郭は闇のように揺れている。
王妃が杖を構える。
「結界を!
影を封じ込める!!」
魔術師たちが詠唱を続けると、
白百合の花弁は光を帯びて
影の足元へ集まっていく。
しかし影は笑った。
――「そんな結界……何度も見たもの。」
影の腕が細く伸び、
魔術陣が一気にひび割れる。
魔術師たちが後退し、
王妃が顔色を変えた。
「……影が……強くなっている……?」
影はシャルロットだけを見つめた。
――「あなたが泣いたからよ。」
シャルロットの胸が震える。
(わたくしの……涙が……
ミレイユを強く……?)
影は囁く。
――「あなたの涙は光。
だからわたしは闇を濃くできる。」
王妃が叫ぶ。
「シャルロット!
影の言葉に耳を貸してはなりません!!」
しかし影の瞳は揺れていた。
悲しみと嫉妬と渇望が混ざった、
痛々しい光。
――「来て……シャルロット。
あなたの心臓は……
わたしと結びついている……
もう離れられないの……」
シャルロットの胸の奥が
熱と冷たさで脈打つ。
(ミレイユ……
あなたは……どうしてそんなに……
わたくしを求めるの……?)
その時。
白百合の間の扉の外から、
兵の叫び声が響いた。
「レイエル公爵が!!
こちらへ——!!」
シャルロットの世界が止まった。
(カルロス様……!?)
影の顔が怒りに染まる。
――「来ないで!!
彼は……彼だけは……
わたしを見ないで……!!」
白百合の間が再び激しく揺れる。
王妃は声を張り上げた。
「結界を強めよ!!
影の反撃が始まる!!!」
白百合の花弁が光を帯びて舞い、
影が咆哮し、
シャルロットは胸の痛みに耐えながら立ち尽くした。
(カルロス様……
どうか……無事で……)
影と王家の戦いは、
ついに“本戦”へ突入した——。
異様な静けさに包まれていた。
王妃の間の扉の外で、
侍従が震えた声で告げる。
「……公爵夫人、
王家より“白百合の間”への召喚命が……」
シャルロットの心臓が跳ねた。
(また……あの部屋へ……?
影が……いるかもしれないのに……)
扉が開かれ、
王妃アマーリエが現れた。
その表情は昨夜よりもさらに厳しく、
瞳は決意に満ちていた。
「シャルロット。
あなたには再び白百合の間へ入っていただきます。」
「……わたくしを……?
影がいる危険な場所へ?」
王妃は静かに頷いた。
「王家は“影封じの儀式”を行います。
影は、あなたを“鍵”として結びつこうとしている。」
「……わたくしを……?」
「あなたの涙、あなたの心臓……
どれも影にとっては“扉を開く道具”となる。」
シャルロットの胸に小さな痛みが走る。
影に触れられた跡が、まだ熱を持っていた。
王妃は続ける。
「影を封じるためには、
“鍵の器”であるあなたの存在が不可欠なのです。」
シャルロットは息を呑む。
(わたくしは……
影を封じるための……器……?
カルロス様の妻ではなく……
ただの道具……?)
悲しみが胸を刺した。
しかし王妃はその瞳にわずかな慈しみを宿す。
「恐れることはありません。
この儀式は王家が代々伝えてきたもの……
あなたを守るための結界も施します。」
(守られる……
でも……
カルロス様とは、また離れ離れに……)
王妃の表情が曇る。
「……あなたの夫にも、
この事実はまだ知らせていません。」
シャルロットの胸が締めつけられた。
(カルロス様……
きっと心配している……
わたくしが何も告げないまま……
消えたと思っている……)
涙がにじむ。
王妃は恨めしさではなく、
理解の色を浮かべて言った。
「夫への愛があなたを強くするか……
それとも影を呼び寄せるか……
それはあなた次第です。」
◆
王宮の奥、
白百合の間へ続く回廊。
魔術師たちが準備を整え、
空気は緊張に満ちていた。
重い扉が開かれると、
かつての静謐はもうなかった。
白百合の花は枯れ、
床には薄い霧が漂っている。
(影が……
ここに触れたのだわ……昨夜……)
王妃は杖を掲げ、
魔術式の陣を呼び起こす。
「白百合の間を“光の檻”で満たしなさい。」
魔術師たちが一斉に詠唱を始めた。
床に刻まれた白百合紋が光を帯び、
シャルロットの足元が淡く輝く。
しかし——
そのとき突然、
空気が凍りついた。
白百合の花弁が
ぱらぱらと……逆流するように宙へ舞い上がる。
魔術師が悲鳴を上げた。
「影です!!
影が……もう来ている!!」
白百合の間の中央に、
薄い影がゆっくりと咲き始める。
――「また……来たのね……シャルロット。」
ミレイユが姿を現した。
朝の薄明かりを拒むように、
その輪郭は闇のように揺れている。
王妃が杖を構える。
「結界を!
影を封じ込める!!」
魔術師たちが詠唱を続けると、
白百合の花弁は光を帯びて
影の足元へ集まっていく。
しかし影は笑った。
――「そんな結界……何度も見たもの。」
影の腕が細く伸び、
魔術陣が一気にひび割れる。
魔術師たちが後退し、
王妃が顔色を変えた。
「……影が……強くなっている……?」
影はシャルロットだけを見つめた。
――「あなたが泣いたからよ。」
シャルロットの胸が震える。
(わたくしの……涙が……
ミレイユを強く……?)
影は囁く。
――「あなたの涙は光。
だからわたしは闇を濃くできる。」
王妃が叫ぶ。
「シャルロット!
影の言葉に耳を貸してはなりません!!」
しかし影の瞳は揺れていた。
悲しみと嫉妬と渇望が混ざった、
痛々しい光。
――「来て……シャルロット。
あなたの心臓は……
わたしと結びついている……
もう離れられないの……」
シャルロットの胸の奥が
熱と冷たさで脈打つ。
(ミレイユ……
あなたは……どうしてそんなに……
わたくしを求めるの……?)
その時。
白百合の間の扉の外から、
兵の叫び声が響いた。
「レイエル公爵が!!
こちらへ——!!」
シャルロットの世界が止まった。
(カルロス様……!?)
影の顔が怒りに染まる。
――「来ないで!!
彼は……彼だけは……
わたしを見ないで……!!」
白百合の間が再び激しく揺れる。
王妃は声を張り上げた。
「結界を強めよ!!
影の反撃が始まる!!!」
白百合の花弁が光を帯びて舞い、
影が咆哮し、
シャルロットは胸の痛みに耐えながら立ち尽くした。
(カルロス様……
どうか……無事で……)
影と王家の戦いは、
ついに“本戦”へ突入した——。
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