『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ

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第45章「近衛騎士の証言(カルロスの暴走)」

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白百合の間の奥、
魔術師たちが影封じのため陣を張っている中——

扉の外で激しい声が響き渡った。

「開けろ!!
  そこに妻がいるはずだ——!!」

その声に、
シャルロットの呼吸が止まった。

(カルロス様……?)

影の輪郭が震えた。

――「いや……来ないで……
   彼が来ると……わたしは……」

王妃が眉をひそめる。

「公爵を近づけるなと言ったはずです!」

しかし近衛が血相を変えて駆け込み、
王妃に膝をついた。

「申し上げます!!
 一条……いえ、レイエル公爵が——
 武装して王宮へ殴り込んでおります!!」

白百合の間がざわめいた。

王妃は声を張る。

「状況を報告しなさい!」

近衛騎士は息を荒げながら続けた。

「はっ……!
 公爵は“奥方が王宮に連行された”と聞かされた瞬間、
 我々の制止をすべて無視して……
 その……」

喉をつまらせ、
言いにくそうに言葉を続けた。

「“影を一掃するまで、誰も妻には触れさせない”
 と叫び……
 剣を抜かれまして……!」

魔術師の一人が息を呑んだ。

「影に触れられただけで倒れたはずの公爵が……
 影を一掃……?」

近衛は続けた。

「さらに……
 公爵は途中でこちらの騎士団の魔除けを破り、
 白百合の間へ向かう廊下を——
 まるで何かに“引かれるように”進んでいます。」

シャルロットの胸が熱くなった。

(……わたくしを……呼んでいるの……?
 それとも……
 わたくしの心臓が……公爵様を……?)

王妃の瞳が鋭く光る。

「鍵の心臓……
 影に触れた今、
 夫婦の“結びつき”が強まっている……?」

魔術師が青ざめて叫ぶ。

「まずい!!
 シャルロット様の心臓は影と半ば繋がっている!
 その心臓に引かれて公爵がここに来れば——
 影を通って呪いが流れ込み、公爵は確実に死ぬ!!」

シャルロットの顔から血の気が引いた。

「そんな……!
 わたくしが……
 カルロス様を……死に追いやってしまう……!?」

影の輪郭が揺れた。

ミレイユが震える声で呟く。

――「いや……来ないで……
   カルロス様は……
   わたしが一番……恐れる人……」

王太后が怪訝に眉をひそめる。

「影が恐れる……?
 カルロス公爵を?」

影の震えは強くなる。

――「あの人だけは……
   わたしを見てしまう……
   本当の“影”を……
   わたしが消えてしまう姿を……
   あの人だけは——嫌……!」

シャルロットの胸がぎゅっと締めつけられる。

(ミレイユ……
 あなたは……
 カルロス様に“見られる”ことが……怖いの……?
 どうして……?)

影は涙のない瞳で続ける。

――「カルロス様が来たら……
   わたしは弱くなる……
   どうしてなの……
   どうして彼だけ……」

白百合の間の扉の外で、
重い足音が響いた。

近衛が蒼白になり叫ぶ。

「公爵が——扉前に到達!!
 もう止められません!!」

王妃が杖を構える。

「扉を閉じよ!
 公爵を入れてはならない!!
 影が彼を殺す!!」

しかし。

シャルロットの胸が激しく脈打った。

(来ないで……
 来てほしい……
 でも……来たら……死んでしまう……)

白百合の間が揺れる。

王妃が叫ぶ。

「結界を強化しろ!!
 扉を保て!!」

だが同時に——

カルロスの声が響いた。

「——シャルロット!!!
   そこにいるのか!!!」

影の輪郭が大きく崩れた。

――「いや……いや!!
   来ないで……!!」

シャルロットの涙が溢れた。

(カルロス様……
 どうか……
 どうか……無事で……)

扉に大きな衝撃が走る。

魔術師たちが悲鳴をあげる。

「駄目です!!
 このままでは——結界が!!」

王妃が振り返り、
シャルロットに向かって叫んだ。

「シャルロット!!
  あなたが叫ばなければ……
  公爵は止まらない!!
  “夫婦の心臓”が彼を動かしている!!」

影が震える。

――「呼ばないで……
   シャルロット……
   彼が来たら……
   わたしが……壊れる……!!」

扉が軋む。
時間がない。

涙に濡れたシャルロットの唇が震える。

「カルロス様……
 お願い……」

影も、王妃も、全員が固唾を飲んで見守る中——

シャルロットは、
愛する夫に向かって叫んだ。

「来ないで!!
  カルロス様……!!
  あなたが来たら……死んでしまいます……!!」

扉の向こうで足音が止まった。

白百合の間に、
深い静寂が落ちた。

そして——

影の瞳から、
透明な“影の涙”が一粒、こぼれた。

――「どうして……
   どうしてあなたは……
   彼を呼ぶの……
   わたしじゃなくて……」

影の心が、
初めて“壊れた”。
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