19 / 39
第19章|医師の診断
しおりを挟む
朝の光は、容赦がない。
夜のあいだに貼り直した微笑を、薄く剥がしていく。
リリアーヌは鏡の前で、口角を上げた。
上がる。——ちゃんと上がる。
それが、いちばん怖い。
頬にわずかに色を足し、髪を整え、袖口の刺繍を指先でなぞる。
いつも通りの手順。いつも通りの礼節。
“いつも通り”でいれば、壊れない。壊れないと信じ込まなければ歩けない。
「お嬢様」
背後から、ヴィオラの声が落ちた。
侍女長の声は低い。だが今日は、いつもより硬い。
「……医師をお呼びいたします」
リリアーヌは鏡の中で瞬きをした。拒否の言葉が喉まで上がってきて、飲み込む。
「大げさよ。少し眠れていないだけ」
眠れていない“だけ”。
嘘ではない。けれど、本当は——眠れない理由が怖い。
ヴィオラは言い返さない。
侍女長が言い返さないときほど、決定は固い。
「眠れていないのは“だけ”ではありません。
お食事も、ほとんど召し上がっていない」
リリアーヌは視線を逸らした。
食欲がない。口に入れれば吐き気がする。
吐き気は、胸の奥の“言葉にならない痛み”が形になったものだ。
「……公務は」
「本日の公務は、王妃殿下に調整をお願いしてあります」
もう逃げ道はない。
リリアーヌは微笑を作り直し、頷いた。
「……分かったわ」
その返事が、どこか他人の声みたいだった。
医師は王宮付きの老医師、ドクター・マティアス。
白髪を整え、柔らかい目をしている。だが、甘くない。
甘くない優しさは、見抜いてしまう。
診察室には薬草の香りが漂い、木の椅子が静かに並んでいた。
外の庭園の音が遠い。ここだけ、世界の速度が落ちる。
リリアーヌは椅子に座り、手袋を外す。
指先が冷たい。
ヴィオラが隣に立ち、背中に盾のような気配を置いた。
マティアスが脈を取る。
指の腹が淡々とリズムを拾うたび、胸が落ち着かなくなる。
「眠れないのは、いつからですか」
「……数日です」
数日。実際はもっと前から眠りは浅い。
でも“数日”と答えれば、軽くなる気がした。
「食欲は」
「……ありません」
言った瞬間、負けた気がする。
何に負けたのか分からないのに。
診察は丁寧で、短い。
瞼の裏を覗き、喉を触れ、背中に聴診器を当てる。
冷たい金属が肌に触れた瞬間、リリアーヌは小さく息を吸った。
冷たいものに、体が過敏になっている。
終えると、マティアスは椅子に腰を下ろし、穏やかに言った。
「大きな病ではありません」
その言葉に、リリアーヌはほっとした。
ほっとしたことが、哀しい。
大きな病なら理由がはっきりする。
理由がはっきりしないまま苦しいのが、いちばん厄介だ。
マティアスは続ける。
「ですが——心が疲れています」
喉が詰まった。
心が疲れている。
それを言われると、もう隠せない。
ヴィオラが、代わりに淡々と言った。
「お嬢様は礼節を守ろうとされます。守りすぎて、折れそうです」
折れそう。
その言葉が胸を刺す。
折れたらどうなるのだろう。折れるのは嫌だ。
でも折れることを、少しだけ望む自分もいる。
折れれば、休めるから。
マティアスは紙に短く書きつけた。
「静養が必要です。最低でも一週間。
睡眠と食事を取り戻すこと。——命令です、令嬢」
命令。王宮医師の命令は、王妃の意向と同義だ。
逆らえない。
リリアーヌは微笑を貼り、頷いた。
「承知しました」
“承知しました”は、心が閉じるときの言葉だった。
マティアスは視線を上げ、穏やかに釘を刺す。
「返事は結構。
でも守るのは、あなたの体です。体が壊れれば、礼節も何もありません」
目を伏せる。涙が出そうになる。出したくない。
出したら、きっと戻れない。
そのとき、診察室の扉がノックされた。
侍従が顔を出し、躊躇いがちに告げる。
「……レイヴン公爵閣下がお見えでございます」
空気が一瞬で固まった。
会いたくない。
会えば、微笑が崩れる。崩れたら、戻らない。
ヴィオラがすぐに口を開く。
「閣下には——」
けれどマティアスが静かに首を振った。
「今は、避けない方がよいでしょう。
令嬢が“拒絶”を積み重ねるほど、心は頑なになります」
拒絶。拒絶しているつもりはない。
礼節で撤退しているだけ。
けれど相手には拒絶に見える。——それもまた誤解を育てる。
扉が開き、アレクシスが入ってきた。
外套を肩にかけたまま。
目は真っ直ぐで、顔色がわずかに悪い。
彼も眠れていないのだろうか——そんなことを考える自分が悔しい。
「……診断は」
最初の言葉が、それ。
仕事の顔。心配の仕方も仕事の形。
リリアーヌは薄く微笑んだ。薄い微笑は、今日も役に立つ。
「大きな病ではありません」
彼の肩がほんの僅かに落ちた。安心したのだと分かる。
分かるのに、嬉しくない。
アレクシスは一歩近づき、低く言った。
「原因は」
原因を聞くなら、答えが要る。
答えには言葉が要る。言葉は痛い。
リリアーヌは目を逸らさずに言った。
「疲れですわ」
真実を薄くした言葉。
マティアスが代わりに告げる。
「不眠と食欲不振。精神疲労です。静養が必要。最低一週間」
精神疲労。
“心の問題”は礼節の世界では触れづらい。
触れづらいからこそ放置され、放置されるから悪化する。
アレクシスの瞳が揺れた。
揺れは動揺だ。彼の動揺を、初めて見た気がした。
「……一週間?」
声が掠れる。仕事の声ではない。
リリアーヌは微笑んだ。
「ご心配なく」
出てしまった。いつも通りの、刺さる言葉。
アレクシスの眉が寄る。怒りではなく混乱。
「心配なく、だと……」
彼は何か言いたげに唇を動かすが、結局言葉にならない。
言葉にならない沈黙が、また落ちる。
リリアーヌは、その沈黙が怖くて、さらに柔らかい声で距離を固定する。
「静養いたします。
公務の連絡は、これまで通り侍女長を通して」
仕事の言葉で線を引く。線を引かないと、崩れるから。
アレクシスの視線がヴィオラへ移る。
ヴィオラは一歩も引かない。盾の目で、公爵を見る。
アレクシスは拳を握るのを堪えたように見えた。
「……分かった」
分かった。——それだけ。
理由を問わない。理由を言わない。
胸が冷える。冷えるのに痛い。痛いのに泣けない。
去り際、マティアスがアレクシスへ穏やかに言った。
「閣下。礼節は結構。
ですが、心は礼節では治りません」
アレクシスは返事をしなかった。
返事ができないまま一礼し、診察室を出る。
扉が閉まる。残った空気が重い。
リリアーヌは息を吐いた。吐いた息が小さく震えた。
ヴィオラが、そっと言う。
「お嬢様……今日は、よく耐えました」
耐えた。
耐えるだけでは、いつか折れる。
それでも、耐えるしかないと知っている。
リリアーヌは薄く微笑み、囁く。
「静養するわ。……だから、大丈夫」
自分に言い聞かせる言葉だった。
医師の診断で“静養”が決まり、令嬢は「ご心配なく」と笑って休む。公爵はそれを“拒絶”だと誤読する。——次章、恋敵ガブリエルが見舞いに来る
夜のあいだに貼り直した微笑を、薄く剥がしていく。
リリアーヌは鏡の前で、口角を上げた。
上がる。——ちゃんと上がる。
それが、いちばん怖い。
頬にわずかに色を足し、髪を整え、袖口の刺繍を指先でなぞる。
いつも通りの手順。いつも通りの礼節。
“いつも通り”でいれば、壊れない。壊れないと信じ込まなければ歩けない。
「お嬢様」
背後から、ヴィオラの声が落ちた。
侍女長の声は低い。だが今日は、いつもより硬い。
「……医師をお呼びいたします」
リリアーヌは鏡の中で瞬きをした。拒否の言葉が喉まで上がってきて、飲み込む。
「大げさよ。少し眠れていないだけ」
眠れていない“だけ”。
嘘ではない。けれど、本当は——眠れない理由が怖い。
ヴィオラは言い返さない。
侍女長が言い返さないときほど、決定は固い。
「眠れていないのは“だけ”ではありません。
お食事も、ほとんど召し上がっていない」
リリアーヌは視線を逸らした。
食欲がない。口に入れれば吐き気がする。
吐き気は、胸の奥の“言葉にならない痛み”が形になったものだ。
「……公務は」
「本日の公務は、王妃殿下に調整をお願いしてあります」
もう逃げ道はない。
リリアーヌは微笑を作り直し、頷いた。
「……分かったわ」
その返事が、どこか他人の声みたいだった。
医師は王宮付きの老医師、ドクター・マティアス。
白髪を整え、柔らかい目をしている。だが、甘くない。
甘くない優しさは、見抜いてしまう。
診察室には薬草の香りが漂い、木の椅子が静かに並んでいた。
外の庭園の音が遠い。ここだけ、世界の速度が落ちる。
リリアーヌは椅子に座り、手袋を外す。
指先が冷たい。
ヴィオラが隣に立ち、背中に盾のような気配を置いた。
マティアスが脈を取る。
指の腹が淡々とリズムを拾うたび、胸が落ち着かなくなる。
「眠れないのは、いつからですか」
「……数日です」
数日。実際はもっと前から眠りは浅い。
でも“数日”と答えれば、軽くなる気がした。
「食欲は」
「……ありません」
言った瞬間、負けた気がする。
何に負けたのか分からないのに。
診察は丁寧で、短い。
瞼の裏を覗き、喉を触れ、背中に聴診器を当てる。
冷たい金属が肌に触れた瞬間、リリアーヌは小さく息を吸った。
冷たいものに、体が過敏になっている。
終えると、マティアスは椅子に腰を下ろし、穏やかに言った。
「大きな病ではありません」
その言葉に、リリアーヌはほっとした。
ほっとしたことが、哀しい。
大きな病なら理由がはっきりする。
理由がはっきりしないまま苦しいのが、いちばん厄介だ。
マティアスは続ける。
「ですが——心が疲れています」
喉が詰まった。
心が疲れている。
それを言われると、もう隠せない。
ヴィオラが、代わりに淡々と言った。
「お嬢様は礼節を守ろうとされます。守りすぎて、折れそうです」
折れそう。
その言葉が胸を刺す。
折れたらどうなるのだろう。折れるのは嫌だ。
でも折れることを、少しだけ望む自分もいる。
折れれば、休めるから。
マティアスは紙に短く書きつけた。
「静養が必要です。最低でも一週間。
睡眠と食事を取り戻すこと。——命令です、令嬢」
命令。王宮医師の命令は、王妃の意向と同義だ。
逆らえない。
リリアーヌは微笑を貼り、頷いた。
「承知しました」
“承知しました”は、心が閉じるときの言葉だった。
マティアスは視線を上げ、穏やかに釘を刺す。
「返事は結構。
でも守るのは、あなたの体です。体が壊れれば、礼節も何もありません」
目を伏せる。涙が出そうになる。出したくない。
出したら、きっと戻れない。
そのとき、診察室の扉がノックされた。
侍従が顔を出し、躊躇いがちに告げる。
「……レイヴン公爵閣下がお見えでございます」
空気が一瞬で固まった。
会いたくない。
会えば、微笑が崩れる。崩れたら、戻らない。
ヴィオラがすぐに口を開く。
「閣下には——」
けれどマティアスが静かに首を振った。
「今は、避けない方がよいでしょう。
令嬢が“拒絶”を積み重ねるほど、心は頑なになります」
拒絶。拒絶しているつもりはない。
礼節で撤退しているだけ。
けれど相手には拒絶に見える。——それもまた誤解を育てる。
扉が開き、アレクシスが入ってきた。
外套を肩にかけたまま。
目は真っ直ぐで、顔色がわずかに悪い。
彼も眠れていないのだろうか——そんなことを考える自分が悔しい。
「……診断は」
最初の言葉が、それ。
仕事の顔。心配の仕方も仕事の形。
リリアーヌは薄く微笑んだ。薄い微笑は、今日も役に立つ。
「大きな病ではありません」
彼の肩がほんの僅かに落ちた。安心したのだと分かる。
分かるのに、嬉しくない。
アレクシスは一歩近づき、低く言った。
「原因は」
原因を聞くなら、答えが要る。
答えには言葉が要る。言葉は痛い。
リリアーヌは目を逸らさずに言った。
「疲れですわ」
真実を薄くした言葉。
マティアスが代わりに告げる。
「不眠と食欲不振。精神疲労です。静養が必要。最低一週間」
精神疲労。
“心の問題”は礼節の世界では触れづらい。
触れづらいからこそ放置され、放置されるから悪化する。
アレクシスの瞳が揺れた。
揺れは動揺だ。彼の動揺を、初めて見た気がした。
「……一週間?」
声が掠れる。仕事の声ではない。
リリアーヌは微笑んだ。
「ご心配なく」
出てしまった。いつも通りの、刺さる言葉。
アレクシスの眉が寄る。怒りではなく混乱。
「心配なく、だと……」
彼は何か言いたげに唇を動かすが、結局言葉にならない。
言葉にならない沈黙が、また落ちる。
リリアーヌは、その沈黙が怖くて、さらに柔らかい声で距離を固定する。
「静養いたします。
公務の連絡は、これまで通り侍女長を通して」
仕事の言葉で線を引く。線を引かないと、崩れるから。
アレクシスの視線がヴィオラへ移る。
ヴィオラは一歩も引かない。盾の目で、公爵を見る。
アレクシスは拳を握るのを堪えたように見えた。
「……分かった」
分かった。——それだけ。
理由を問わない。理由を言わない。
胸が冷える。冷えるのに痛い。痛いのに泣けない。
去り際、マティアスがアレクシスへ穏やかに言った。
「閣下。礼節は結構。
ですが、心は礼節では治りません」
アレクシスは返事をしなかった。
返事ができないまま一礼し、診察室を出る。
扉が閉まる。残った空気が重い。
リリアーヌは息を吐いた。吐いた息が小さく震えた。
ヴィオラが、そっと言う。
「お嬢様……今日は、よく耐えました」
耐えた。
耐えるだけでは、いつか折れる。
それでも、耐えるしかないと知っている。
リリアーヌは薄く微笑み、囁く。
「静養するわ。……だから、大丈夫」
自分に言い聞かせる言葉だった。
医師の診断で“静養”が決まり、令嬢は「ご心配なく」と笑って休む。公爵はそれを“拒絶”だと誤読する。——次章、恋敵ガブリエルが見舞いに来る
400
あなたにおすすめの小説
「10歳の頃の想いなど熱病と同じ」と婚約者は言いました──さようなら【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子フリードリヒの婚約者として、幼い頃から王妃教育を受けてきたアメリア・エレファウント公爵令嬢。
誰もが羨む未来を約束された彼女の世界は、ある日突然1人の少女の登場によって揺らぎ始める。
無邪気な笑顔で距離を(意図的に)間違える編入生ベルティーユは、男爵の庶子で平民出身。
ベルティーユに出会ってから、悪い方へ変わっていくフリードリヒ。
「ベルが可哀想だろ」「たかがダンスくらい」と話が通じない。
アメリアの積み上げてきた7年の努力と誇りが崩れていく。
そしてフリードリヒを見限り、婚約解消を口にするが話は進まず、学園の卒業パーティーで断罪されてしまう……?!
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています
侯爵夫人は離縁したい〜拝啓旦那様、妹が貴方のこと好きらしいのですが〜
葵一樹
恋愛
伯爵家の双子姫の姉として生まれたルイ―サは、侯爵である夫との離縁を画策していた。
両家の架け橋となるべく政略結婚したものの、冷酷な軍人として名高い夫は結婚式以来屋敷に寄りつかず、たまに顔を合せても会話すらない。
白い結婚として諦めていたルイーサだったが、夫を伴い渋々出席した実家の夜会で驚くべき事態に遭遇する。
なんと夫が双子の妹に熱い視線を送り、妹の方も同じように熱い視線を夫に向けていたのだ。
夫の興味が自分に無いことは残念だったけれど、可愛い妹の恋路は応援したい!
ならば妻の座を妹と交代し、自分はひっそりと、しかし自由に生きていこうではないか。
そうひっそりと決心したルイーサは、一通の書置きと妹に宛てた書簡を残し姿を消そうと試みた。
幸いにも自分には相続した領地があり、そこに引きこもれば食うに困ることはないだろう。
いざとなれば畑でも耕して野菜でも作り、狩りをして暮らそう。
しかしいざ屋敷を抜け出そうとすると、屋敷の主である侯爵が追いかけてくる。
自分に興味もなく忙しいくせになんで邪魔をするのかと怒るルイーサ。
あの手この手で脱走を試みるルイーサだったが、次第に侯爵の不器用さに気づき始め――。
果たしてルイーサは脱走を成功させることができるのか。
じれじれ両片思いの行方はどうなるのか。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている
山法師
恋愛
グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。
フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。
二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。
形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。
そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。
周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。
お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。
婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。
親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。
形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。
今日もまた、同じように。
「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」
「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」
顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】嘘が匂いますね、公爵様〜愛を騙る夫の後悔〜
終日ひもの干す紐
恋愛
一目惚れ──その言葉に偽りはないのに、彼の愛の囁きは嘘に塗れている。
貧乏伯爵家の娘ウィステルのもとへ、突然縁談が舞い込む。
相手はキャスバート公爵家当主フィセリオ。彼は婚姻を条件に援助を申し出る。
「一目惚れとはいえ、私はウィステル嬢を心から愛している。必ず大切にすると、キャスバートの名に誓いましょう」
けれど、ウィステルには『嘘を匂いで感じ取る』秘密の力があった。
あまりにもフィセリオに得のない縁談。愛もなく、真意は謎に包まれたまま、互いに秘密を抱えて時間を重ねる。全ては信頼される妻になるために。
甘い嘘で“妻を愛する夫”を演じきる公爵と、夫の嘘を見抜き、共犯者になると決めた令嬢の恋愛物語。
* * *
※主人公ウィステル以外の視点の話は【】にそのキャラを表記しています。同じ話の別視点ではなく、基本的に物語は進行していきます。
他のサイトでも投稿しています。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる