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第二十六章 決別の法廷と、氷の微笑の真意
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バロウ伯爵ら親族たちは、リリーの口から放たれた「汚職の記録」という言葉に動揺を隠せずにいたが、それでもなお食い下がろうとした。
「はっ、女の虚勢だ! そんな証拠がどこにあるというのだ。公爵に唆され、身内の恥を捏造するとは……どこまで堕ちれば気が済む!」
怒声が響き渡る中、リリーは微動だにしなかった。彼女はクリスの隣に並び、集まった親族たちを一人ひとり見据える。
「証拠はすでに、信頼できる場所へ預けてあります。──私がこのままハワード侯爵夫人として死ぬか、それとも、あなた方の不正をすべて道連れに、この家を完全に終わらせるか。選ぶのは、あなた方です」
その瞳には、かつてクリスを遠ざけるために纏っていた冷徹さが、今では悪を断ち切るための揺るぎない強さとして宿っていた。クリスはその横顔に、彼女が孤独に戦い続けてきた年月の重みを見て取り、胸の奥が強く締めつけられるのを感じた。
数日後。ハワード侯爵カイルの最終裁判が開廷した。
傍聴席には好奇と噂話を求める貴族たちがひしめいていたが、法廷に姿を現したリリーを見ると、一様に息を呑んだ。彼女は公爵家の加護を示す紋章を胸に、簡素な黒の喪服を纏っていた。それは、〈侯爵夫人としての自分を葬る〉という静かな決意の象徴だった。
証言台に立ったリリーは、エリアナの父を陥れた経緯、公金横領の仕組み、そして自らが受けてきた虐待と監禁の実態を、淡々と、しかし毅然と語り続ける。
被告席のカイルはやつれきり、かつての傲慢な影は見る影もない。リリーの証言に耳を傾けながら、時折、悔恨とも狂気ともつかぬ歪んだ笑みを浮かべていた。
「……以上が、私がハワード家で目撃し、耐えてきた真実です。私は、この家が二度と誰かを傷つけることのないよう、その名の消滅を望みます」
判決が言い渡される直前、カイルに最後の発言権が与えられた。
彼はゆっくりと立ち上がり、まっすぐにリリーを見つめる。
「リリアーヌ……。お前の言う通りだ。私はお前を愛そうとして、お前を壊した。──だが、お前が私に牙を剥いたその瞬間、お前は誰よりも美しかった」
次に、クリスへと視線を移し、薄く笑う。
「公爵、彼女を離すな。彼女の中に眠る“毒”を目覚めさせたのは、ほかならぬ私なのだから」
それが、カイルの最後の言葉となった。
判決は──爵位の永久剥奪、全財産の没収、そして北方極寒の地への終身流刑。
名門ハワード家は、この日をもって事実上の終焉を迎えた。
裁判を終え、法廷を出ると、外には静かに雪が舞っていた。
リリーは、すべてが終わったという解放感と、長く背負い続けた重荷が消えた反動による虚脱感とで、思わず膝が震えた。
その肩を包み込むように、クリスが厚手のマントを広げて抱き寄せる。
「終わったんだ、リリアーヌ。君は、自分の手で自分を解き放った」
「クリストファー様……。私はもう“侯爵夫人”ではありません。ただの……何も持たない女です」
クリスは彼女の冷たい手を取り、自らの頬へそっと寄せた。
「何も持たない? 違う。君は私の心を持っている。そして、私は君の未来を守る。──これからは、誰かの代わりではなく、君自身の人生を歩むんだ」
その瞬間、リリーの頬を一筋の涙が伝い落ちた。
それは悲嘆でも絶望でもない──生まれて初めて流す、温かな「幸福の涙」だった。
こうして、カイルとの因縁とハワード家の呪縛に終止符が打たれる。
物語はついに終盤へ。
二人が〈真の幸福〉を掴むための、その後の物語が静かに幕を開ける──。
「はっ、女の虚勢だ! そんな証拠がどこにあるというのだ。公爵に唆され、身内の恥を捏造するとは……どこまで堕ちれば気が済む!」
怒声が響き渡る中、リリーは微動だにしなかった。彼女はクリスの隣に並び、集まった親族たちを一人ひとり見据える。
「証拠はすでに、信頼できる場所へ預けてあります。──私がこのままハワード侯爵夫人として死ぬか、それとも、あなた方の不正をすべて道連れに、この家を完全に終わらせるか。選ぶのは、あなた方です」
その瞳には、かつてクリスを遠ざけるために纏っていた冷徹さが、今では悪を断ち切るための揺るぎない強さとして宿っていた。クリスはその横顔に、彼女が孤独に戦い続けてきた年月の重みを見て取り、胸の奥が強く締めつけられるのを感じた。
数日後。ハワード侯爵カイルの最終裁判が開廷した。
傍聴席には好奇と噂話を求める貴族たちがひしめいていたが、法廷に姿を現したリリーを見ると、一様に息を呑んだ。彼女は公爵家の加護を示す紋章を胸に、簡素な黒の喪服を纏っていた。それは、〈侯爵夫人としての自分を葬る〉という静かな決意の象徴だった。
証言台に立ったリリーは、エリアナの父を陥れた経緯、公金横領の仕組み、そして自らが受けてきた虐待と監禁の実態を、淡々と、しかし毅然と語り続ける。
被告席のカイルはやつれきり、かつての傲慢な影は見る影もない。リリーの証言に耳を傾けながら、時折、悔恨とも狂気ともつかぬ歪んだ笑みを浮かべていた。
「……以上が、私がハワード家で目撃し、耐えてきた真実です。私は、この家が二度と誰かを傷つけることのないよう、その名の消滅を望みます」
判決が言い渡される直前、カイルに最後の発言権が与えられた。
彼はゆっくりと立ち上がり、まっすぐにリリーを見つめる。
「リリアーヌ……。お前の言う通りだ。私はお前を愛そうとして、お前を壊した。──だが、お前が私に牙を剥いたその瞬間、お前は誰よりも美しかった」
次に、クリスへと視線を移し、薄く笑う。
「公爵、彼女を離すな。彼女の中に眠る“毒”を目覚めさせたのは、ほかならぬ私なのだから」
それが、カイルの最後の言葉となった。
判決は──爵位の永久剥奪、全財産の没収、そして北方極寒の地への終身流刑。
名門ハワード家は、この日をもって事実上の終焉を迎えた。
裁判を終え、法廷を出ると、外には静かに雪が舞っていた。
リリーは、すべてが終わったという解放感と、長く背負い続けた重荷が消えた反動による虚脱感とで、思わず膝が震えた。
その肩を包み込むように、クリスが厚手のマントを広げて抱き寄せる。
「終わったんだ、リリアーヌ。君は、自分の手で自分を解き放った」
「クリストファー様……。私はもう“侯爵夫人”ではありません。ただの……何も持たない女です」
クリスは彼女の冷たい手を取り、自らの頬へそっと寄せた。
「何も持たない? 違う。君は私の心を持っている。そして、私は君の未来を守る。──これからは、誰かの代わりではなく、君自身の人生を歩むんだ」
その瞬間、リリーの頬を一筋の涙が伝い落ちた。
それは悲嘆でも絶望でもない──生まれて初めて流す、温かな「幸福の涙」だった。
こうして、カイルとの因縁とハワード家の呪縛に終止符が打たれる。
物語はついに終盤へ。
二人が〈真の幸福〉を掴むための、その後の物語が静かに幕を開ける──。
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