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第二十五章 過ぎ去りし嵐、忍び寄る強欲
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祝賀会での激動を経て、リリーはクリスの公爵邸で穏やかな日々を過ごしていた。カイルの裁判は着実に進み、その爵位剥奪と財産没収は、もはや既定路線となりつつあった。
長年彼女を縛りつけていた「完璧な侯爵夫人」という檻は消え去り、リリーはようやく――自分自身のための朝を迎える喜びを知る。
「リリアーヌ、顔色がずいぶん良くなったな」
朝食のテーブル越しに、クリスが柔らかな眼差しを向ける。彼は公務の合間を縫って、できる限り彼女の傍にいる時間を作っていた。
「ええ、クリストファー様。夜、カイル様の足音に怯えず眠れることが、これほど幸せだとは思いませんでした……。けれど、まだ夢のようで怖いのです。この幸せが、いつか指の間からこぼれ落ちてしまうのではないかと」
その不安ごと包み込むように、クリスは彼女の手を取り、指先へ静かに口づけた。
「二度と離さないと言ったはずだ。これからは私が君の盾になる。君はただ、私の隣で微笑んでいればいい」
――だが、平穏は長く続かなかった。
ハワード侯爵家が事実上の解体へと向かう中、その莫大な利権と残された遺産を狙う「ハイエナ」たちが動き始めていた。
カイルの叔父――強欲で名高いバロウ伯爵を筆頭とする親族たちが、公爵邸へ踏み込んできたのだ。
「公爵! 我々はハワード家の親族として、正当な権利を主張しに来た。リリー夫人はまだ正式に離婚が成立していないはずだろう。夫を告発した不貞の女を、いつまで囲っておくつもりか!」
怒号が玄関ホールに響き渡る。彼らの狙いは、没収を免れた領地と、リリーが管理していた侯爵家の持参金を奪い取ること――。
「リリー夫人を引き渡せ! 一族の恥さらしとして、我らの手で処罰する!」
その前に、クリスが静かに立ち塞がる。冷徹な双眸は、かつて戦場で敵を射抜いたときのものだった。
「バロウ伯爵。言葉を慎め。リリー夫人は王室直属の証人だ。今は私の庇護下にあり、彼女へ手を伸ばすことは、公爵家――ひいては王命への反逆と見なす」
「ぐっ……しかし彼女はまだ人妻だ。公爵が抱え込むなど、道徳にも社会秩序にも反する!」
親族たちは、リリーがクリスの“弱点”であることを理解していた。だからこそ、不貞の烙印を盾に、口止め料か利権の譲渡を引き出そうとしている――。
二階のテラスから、その光景を見下ろしながら、リリーは静かに息をついた。
(カイル様はもういないのに……それでも、この家は私を手放さないというのね。私がここに留まることで、クリストファー様まで巻き込んでしまう)
――守られるだけではいられない。
そう悟ったリリーは、静かに階段を降り、ざわめく広間へと姿を現した。そこに立つ彼女は、かつての“氷の夫人”ではなく、自らの意志で歩む女性の強さをまとっていた。
「バロウ伯爵。あなたの仰る『親族の権利』とは、夫が横領した公金の中から、あなた方が受け取っていた裏金の記録も含めて――という意味でよろしいのかしら?」
その一言で、伯爵の顔色が蒼白に変わる。
リリーは、カイルの書類を精査する中で、親族たちの汚職の証拠までも掌握していたのだ。
「私はもう、誰の言いなりにもなりません。ハワード家の闇は、私がすべて断ち切ります。……クリストファー様。どうか、私に戦わせてください。これが、私の本当の“献身”です」
クリスは驚きに目を見開き――やがて誇らしげに微笑み、力強く頷いた。
誤解は解けた。今や二人は「公爵と守られる未亡人」ではなく、共に悪へ立ち向かう――真の〈パートナー〉。
だが、バロウ伯爵の背後では、さらに巨大な政治の陰がうごめき始めていた。
長年彼女を縛りつけていた「完璧な侯爵夫人」という檻は消え去り、リリーはようやく――自分自身のための朝を迎える喜びを知る。
「リリアーヌ、顔色がずいぶん良くなったな」
朝食のテーブル越しに、クリスが柔らかな眼差しを向ける。彼は公務の合間を縫って、できる限り彼女の傍にいる時間を作っていた。
「ええ、クリストファー様。夜、カイル様の足音に怯えず眠れることが、これほど幸せだとは思いませんでした……。けれど、まだ夢のようで怖いのです。この幸せが、いつか指の間からこぼれ落ちてしまうのではないかと」
その不安ごと包み込むように、クリスは彼女の手を取り、指先へ静かに口づけた。
「二度と離さないと言ったはずだ。これからは私が君の盾になる。君はただ、私の隣で微笑んでいればいい」
――だが、平穏は長く続かなかった。
ハワード侯爵家が事実上の解体へと向かう中、その莫大な利権と残された遺産を狙う「ハイエナ」たちが動き始めていた。
カイルの叔父――強欲で名高いバロウ伯爵を筆頭とする親族たちが、公爵邸へ踏み込んできたのだ。
「公爵! 我々はハワード家の親族として、正当な権利を主張しに来た。リリー夫人はまだ正式に離婚が成立していないはずだろう。夫を告発した不貞の女を、いつまで囲っておくつもりか!」
怒号が玄関ホールに響き渡る。彼らの狙いは、没収を免れた領地と、リリーが管理していた侯爵家の持参金を奪い取ること――。
「リリー夫人を引き渡せ! 一族の恥さらしとして、我らの手で処罰する!」
その前に、クリスが静かに立ち塞がる。冷徹な双眸は、かつて戦場で敵を射抜いたときのものだった。
「バロウ伯爵。言葉を慎め。リリー夫人は王室直属の証人だ。今は私の庇護下にあり、彼女へ手を伸ばすことは、公爵家――ひいては王命への反逆と見なす」
「ぐっ……しかし彼女はまだ人妻だ。公爵が抱え込むなど、道徳にも社会秩序にも反する!」
親族たちは、リリーがクリスの“弱点”であることを理解していた。だからこそ、不貞の烙印を盾に、口止め料か利権の譲渡を引き出そうとしている――。
二階のテラスから、その光景を見下ろしながら、リリーは静かに息をついた。
(カイル様はもういないのに……それでも、この家は私を手放さないというのね。私がここに留まることで、クリストファー様まで巻き込んでしまう)
――守られるだけではいられない。
そう悟ったリリーは、静かに階段を降り、ざわめく広間へと姿を現した。そこに立つ彼女は、かつての“氷の夫人”ではなく、自らの意志で歩む女性の強さをまとっていた。
「バロウ伯爵。あなたの仰る『親族の権利』とは、夫が横領した公金の中から、あなた方が受け取っていた裏金の記録も含めて――という意味でよろしいのかしら?」
その一言で、伯爵の顔色が蒼白に変わる。
リリーは、カイルの書類を精査する中で、親族たちの汚職の証拠までも掌握していたのだ。
「私はもう、誰の言いなりにもなりません。ハワード家の闇は、私がすべて断ち切ります。……クリストファー様。どうか、私に戦わせてください。これが、私の本当の“献身”です」
クリスは驚きに目を見開き――やがて誇らしげに微笑み、力強く頷いた。
誤解は解けた。今や二人は「公爵と守られる未亡人」ではなく、共に悪へ立ち向かう――真の〈パートナー〉。
だが、バロウ伯爵の背後では、さらに巨大な政治の陰がうごめき始めていた。
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