噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ

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第十四章 渦の中へ

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 茶会での毒の一件は、瞬く間に宮廷全体へ広がった。
 表向きは「不届きな侍女の単独犯行」と処理されたが、誰もが知っている。
 その背後に、王妃就任を阻もうとする勢力が潜んでいることを。

 廊下ですれ違う侍女たちの視線は怯え、貴婦人たちの会話には棘が増した。
 ――私は狙われている。
 その事実は、胸の奥に重くのしかかった。



 執務室に呼ばれると、アランは机に山積みの文書を前に座っていた。
 しかし、私の姿を見るなり立ち上がり、迷いなく歩み寄る。

「……お前に手を出した者たちを必ず炙り出す」

 その声音は冷たく、怒りを隠していなかった。
 私は小さく首を振る。

「陛下……どうかご無理はなさらないでください。わたくしは、大丈夫です」

「大丈夫なわけがあるか」
 彼は私を抱き寄せ、額を重ねるようにして囁く。
「お前は俺の婚約者だ。未来の王妃だ。……俺のすべてだ」

 甘く熱い言葉に胸が震える。
 けれど同時に、彼の怒りがどれほど深いかも伝わってきた。



 その夜。
 聖女ミレイユが私を訪ねてきた。
 彼女の瞳は静かで、けれど奥に憂いを宿していた。

「……王妃の座を望むのは、あなただけではありません」

「え……?」

「いえ、あなたは“望んでいる”というより“覚悟している”方ですね。
 ですが、他の貴族派閥は自らの娘を王妃に据えようと必死です。
 毒を仕掛けたのは、そうした派閥の誰かに違いありません」

 胸の奥に冷たいものが広がった。
 敵は思っていた以上に大きい。

「……わたくしは、どうすれば」

 問いかける私に、ミレイユは穏やかに微笑む。

「あなたは逃げずに立ち続けること。それだけで充分です。
 王が選んだ女性はあなたなのですから」



 翌朝、謁見の間。
 アランは大勢の臣下を前に、堂々と宣言した。

「我が婚約者エリシアを害する者は、王国を害する者と同義である。――必ず裁く」

 その言葉に、廷臣たちの間に緊張が走る。
 誰が敵で、誰が味方か。
 渦はこれからますます深くなっていく。

 けれど私はもう、逃げるつもりはなかった。
 ――彼の隣に立つと誓ったから。
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