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第十三章 罠
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王妃教育が始まって数日。
私の拙さを指摘する声は依然として多かったが、中には「努力を惜しまぬ姿勢は立派だ」と評価してくださる方も現れ始めた。
小さな一歩かもしれない。けれど、確かに前へ進んでいる実感があった。
――その矢先だった。
ある午後、王妃候補として参加する茶会に招かれた。
場所は宮廷内の小広間。壁には花が飾られ、香り高い紅茶が用意されていた。
しかし、その場に集まった令嬢や貴婦人たちの視線は、歓迎というより探るような冷たさを含んでいた。
「まあ、公爵令嬢さま。浄化の場でお力を見せられたとか」
「でも、それは聖女さまの助けがあったからこそでしょう?」
柔らかい口調に隠された棘。
私は微笑を崩さぬまま答えた。
「ええ、聖女さまのご加護があってこそ成し遂げられました。ですが、その場に立てたことを誇りに思います」
一瞬、空気が固まる。
相手の意地悪を否定するでもなく、受け流すでもなく――正直な答え。
それが意外だったのか、貴婦人の一人が目を細めた。
茶会の終盤、侍女が紅茶を新しく注ぎ直した。
カップを持ち上げようとした瞬間、ふと鼻をくすぐる違和感。
以前、北部で嗅いだ毒の匂いに似ている。
――まさか。
唇に触れる前に手を止めた。
そのとき、背後の扉が勢いよく開いた。
「エリシア!」
金のマントを翻して現れたアランが、すぐに私の手からカップを奪い取る。
紅茶は床に散り、鼻を突く刺激臭が広がった。
室内にどよめきが走る。
「……またか」
アランの声は冷たく、凍り付くようだった。
「誰の仕業だ。俺の婚約者を害そうとしたのは――」
鋭い視線に怯え、数名の貴婦人が蒼白になる。
その場で犯人は分からなかったが、はっきりした。
私を妃に据えたくない勢力が、確かに動いている。
広間を出ると、アランはそのまま私を抱き上げるようにして連れ出した。
人目もはばからず、廊下を歩くその腕の力は強い。
「……放ってはおけない。お前を狙う者がいる限り、片時も離す気はない」
「……陛下、皆が見ております」
「見せつければいい。俺がどれほどお前を必要としているかを」
金の瞳が燃えるように輝き、耳元で熱を帯びた声が降りる。
「覚えておけ。お前が王妃になるのを妨げようとする者は――俺がすべて排除する」
その宣言は、甘美でありながら恐ろしいほど強烈で、
私の胸を熱と震えで満たした。
私の拙さを指摘する声は依然として多かったが、中には「努力を惜しまぬ姿勢は立派だ」と評価してくださる方も現れ始めた。
小さな一歩かもしれない。けれど、確かに前へ進んでいる実感があった。
――その矢先だった。
ある午後、王妃候補として参加する茶会に招かれた。
場所は宮廷内の小広間。壁には花が飾られ、香り高い紅茶が用意されていた。
しかし、その場に集まった令嬢や貴婦人たちの視線は、歓迎というより探るような冷たさを含んでいた。
「まあ、公爵令嬢さま。浄化の場でお力を見せられたとか」
「でも、それは聖女さまの助けがあったからこそでしょう?」
柔らかい口調に隠された棘。
私は微笑を崩さぬまま答えた。
「ええ、聖女さまのご加護があってこそ成し遂げられました。ですが、その場に立てたことを誇りに思います」
一瞬、空気が固まる。
相手の意地悪を否定するでもなく、受け流すでもなく――正直な答え。
それが意外だったのか、貴婦人の一人が目を細めた。
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カップを持ち上げようとした瞬間、ふと鼻をくすぐる違和感。
以前、北部で嗅いだ毒の匂いに似ている。
――まさか。
唇に触れる前に手を止めた。
そのとき、背後の扉が勢いよく開いた。
「エリシア!」
金のマントを翻して現れたアランが、すぐに私の手からカップを奪い取る。
紅茶は床に散り、鼻を突く刺激臭が広がった。
室内にどよめきが走る。
「……またか」
アランの声は冷たく、凍り付くようだった。
「誰の仕業だ。俺の婚約者を害そうとしたのは――」
鋭い視線に怯え、数名の貴婦人が蒼白になる。
その場で犯人は分からなかったが、はっきりした。
私を妃に据えたくない勢力が、確かに動いている。
広間を出ると、アランはそのまま私を抱き上げるようにして連れ出した。
人目もはばからず、廊下を歩くその腕の力は強い。
「……放ってはおけない。お前を狙う者がいる限り、片時も離す気はない」
「……陛下、皆が見ております」
「見せつければいい。俺がどれほどお前を必要としているかを」
金の瞳が燃えるように輝き、耳元で熱を帯びた声が降りる。
「覚えておけ。お前が王妃になるのを妨げようとする者は――俺がすべて排除する」
その宣言は、甘美でありながら恐ろしいほど強烈で、
私の胸を熱と震えで満たした。
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