盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶

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第一章 魔女さんとの不思議な日々

作戦会議!

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 朝ごはんを食べ終わった姉妹は、いつもの村へと買い出しに向かっていた。また悪い動物に遭遇してしまうのは嫌だけれど、その時は魔女さんが助けに来てくれるはず。そんな自信が二人にはあった。

 ルルとナナは手を繋いで、草原に囲まれた土の道を歩いている。
 空は雲ひとつない青空、遠くには大きな山、見渡せば草原の緑。いつ見てもこの景色は素晴らしい。絵本の世界にでも迷い込んでしまったのでは無いかと錯覚する程だ。

「それで、お姉ちゃんの言ってたナイショ話ってなに?」

 家を出る前、ルルから「ナイショ話がある!」と言われていた。しかしここまでの道のりで、ルルがナイショ話をする様子はなくひたすら村に前進をするだけだった。

「うん、もうそろそろ大丈夫かな」

 ルルはそう言うと後ろを確認して、誰も居ないことを確認した。特に用はないが、釣られてナナも後ろを確認する。

「えっとね、昨日寝る時に私が言ってたこと分かる?」

「えーと、サーモン?」

「もっと後の話だよ!」

「えー、何か言ってたっけ?」

 何も思い当たる節が無さそうに、宙に視線を飛ばしながら頭を捻るナナ。

「魔女さんが私たちの顔を見たいって言ってた時だよ!」

「あ~、その時ナナ眠たかったから、魔女さんの言葉しか覚えてないよぉ」

「うぐ……やっぱりか……」

 私があの言葉を発した時、確かにナナは寝息を立てていた気がする。それは聞いていなくても仕方がないかと思ったルルは、偉そうに胸を張りながら話し始めた。

「魔女さんが私たちの顔を見たいんだって! でも目が見えないから見ることは出来ないらしいの」

「うん、それは分かるよ?」

「それでね! 私たちは魔女さんに命を救って貰ったでしょ?」

「うん、山で拾ってくれたのは魔女さんだもんね」

「そう! だから、私たちが魔女さんの目を治してあげるの!」

 そう言い切ったルルの表情には、どこか誇らしさを感じさせるものがあった。

「どうやって治すのー?」

「分からない!」

 それすらも言い切ったルル。なんだか清々しさも感じる。ナナは口をポカンと開いて、ルルへと掛ける言葉を探していた。

「お姉ちゃん、多分出来ないよ?」

「なんで!?」

「魔女さん、沢山の魔法が使えるのに目を治してないってことは、お医者さんでも治せないんじゃないかな……」

 ナナの台詞にルルは歩む足を止めた。

「たしかに……」

 ルルがボソッと言葉を発するのは珍しい。恐らく、それくらい動揺しているのだろう。

「どどどとうしよう! 魔女さんに目を治してあげるって言っちゃたよぉ」

「えぇ、お姉ちゃん言うのが早いよぉ……もっと治せそうになったら言わないと……」

 これが姉妹での性格の差だ。そのことを改めて実感させられる。しかし、ルルは考えるのを辞めた訳ではない。今もナナの目の前で「うーん」と唸りながら思考を張り巡らせている。
 何も無いような道に幼い姉妹が手を繋ぎながら立ち止まり、深く考えている光景は風変わりだ。誰か旅人が通れば、間違いなく心配して声を掛けてくるだろう。

「何か思いつきそう?」

 ナナが心配そうにルルの顔を覗いてみるが、まだ何も思いつかないようだ。

「もう無理だよ……魔女さんが出来ないことでナナたちが出来る事なんて無いよぉ……」

 そんなマイナス思考なナナを尻目に、ルルは笑顔を見せながら顔を上げた。

「そうだ! 村の人たちに聞けばいいんだ!」

 顔をキラキラとさせながら言っているが、ナナはとても有効な手段とは思えなかった。

「それはダメだよ……だって魔女さんがあれだけ村に行きたがらないってことは何かあるんだよ……」

「魔女さんのことは言わなくても良いんだよ! 目を治す方法さえ聞ければ!」

 確かにその方法だと、魔女さんのことは言わなくても良さそうだ。しかし医者が診てやると言い出したらどうするのだろうか。ルルの場合、簡単に魔女さんの家まで案内してしまいそうだが……。

「うーん……いいのかなぁ……」

 何かが胸の奥で少しだけ引っかかっているのだが、その正体が分からない。それが口に出せずにいると、ルルが元気よく声を上げる。

「大丈夫だよ! 魔女さんの家にも人は呼ばないし、もちろん魔女さんにも会わせたりしないから!」

「うーん……それなら良いのかなぁ……」

 ルルの勢いに圧倒されるナナ。しかし流石は双子だ、ナナの考えていた魔女さん家のことも、ルルは簡単に言い当てた。魔女さんの家に人を呼ばないとなれば、問題はないのかもしれない。そう思ったナナは、首を縦に振っていた。

「じゃあ分かったよぉ、村に行ったら聞き込みするんだね?」

「うん! 村の人には私から話し掛けるからナナは心配しなくてもいいよ!」

「わかった、ありがとう……」

 ナナの引っ込み思案な性格を考慮して、自分が話すと言ってくれたルル。そう言われてしまっては断る理由もないと、もう一度首を縦に振った。

 これで前へと進める。
 ルルは止めていた足を再び動かし始め、ナナの手を引っ張るようにして歩き出す。

「よーし! 魔女さんへの恩返しだー! 絶対に目を治すぞー!」

「お、お~!」

 魔女さんの目を治せたら喜ぶだろうな。そして、私たちの顔を見たら何と言うのだろう。
 姉妹はそんな妄想を頭の中で繰り広げながら、村へと向かったのだった。
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