盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶

文字の大きさ
9 / 45
第二章 手がかりを探しに

姉妹の突撃調査 ②

しおりを挟む
 魚屋のおじちゃんとは違い理由を尋ねられた事にルルは戸惑い、元気に開いていた口をあわあわとさせ始めた。
 魔女さんのことを口に出さずに、何て伝えれば良いのかが分からないのだろう。すると隣に居たナナが小さな声を出した。

「あのねあのね、昨日観たアニメでそんなお話しをやっていたの」

 それを聞いたおばちゃんは、納得したように目を細めて穏やかな笑みを浮かべた。

「そんなことだったのかい、あたしはてっきり家族の方の目が悪くなったのかと思っちまったよ」

 笑いながら言うおばちゃんに、ホッと胸を撫で下ろす姉妹。おばちゃんは続けざまに言葉を紡ぐ。

「でもそうだねぇ、そのアニメでは完全に目が見えないのかい?」

「光みたいに見えてるって言ってた気がする!」

 ルルはそれを言い終わると同時に、言ってはいけなさそうだと気付いて慌てて両手で口を塞いだ。だがそれも、魔女さんの目の見え方を全て口に出してしまった後だ。これは怪しまれただろうか……。
 そう思っておばちゃんの顔を見上げると、八百屋のおじちゃんと同様に深く考え込んでいる様子だった。

「よく出来たアニメだねぇ、魔法を使っているのか」

「やっぱり魔法なんだ!」「魔法すごい」

 やっぱり魔女さんの言っていた事は本当だったのだ。魔法ってすごいんだな……姉妹は魔法をもっと練習しようと心に決めた。

「だとするとアニメの舞台は現実の世界になりそうだね……それで治せるかについてなんだけど、病気だったらほとんどは無理だねぇ……」

 やっぱりダメなのか、そう思う一方で、ナナはおばちゃんの含みのある言い方が気になった。

「病気以外に何かあるのー?」

「そうだねぇ、さっき言ってた魔法って分かるかい?」

「うん、わかる」

「そうかい、よく勉強してるんだね~」

 おばちゃんは目を細めながらそう言うと、咳払いをして説明を始めた。

「病気じゃないとしたら『呪い』だね。呪いは魔法の一つで、一度呪いを掛けられてしまったら、解くまでずっと呪いに掛けられた状態が続くのさ」

 思っていたよりもずっと難しい内容に、姉妹は揃って口を開きながら首を傾げている。
 それを見たおばちゃんも、もっと噛み砕いた言い方をしようと頭を捻り始めた。

「あんたら、魔法について何か知ってるかい?」

「うーん、あんまり」「わからなーい」

 姉妹が口を揃えてそう言うと、おばちゃんは手をポンと叩いた。

「それじゃあこの際だから少しだけ魔法の事に詳しくなろうか」

「うん! なるー!」「ナナも~」

 魔女さんからは、『魔法について』というよりは『魔法そのもの』について教えて貰っていたので、姉妹はワクワクしながらおばちゃんの話しを待つ。
 姉妹の反応を見たおばちゃんは、にこやかな笑みのまま頷き、話し始める。

「まず魔法ってのを使えるのはこの世に二種類しか居ないんだ。一つ目は生まれながらにして賢い人間だね、この人たちは魔法の勉強をすれば、その潜在的な賢さで魔法を習得する事が出来るらしい」

 またも難しい言葉が多かったが、恐らく自分たちの様な人を言うのだろうと、ルルとナナは目を合わせて頷いた。

「そして二つ目はね、『魔女』と言われる人が居るんだよ」

 ルルとナナは同時に心臓をギクリとさせた。
 この二つ目は魔女さんの話しだろう。そう考えた二人は、話しをより詳しく聞こうと耳を傾けた。

「この魔女と言うのはね、人間が突然変異を起こして生まれたのだそうだよ。なんでも寿命が五百年はあるそうな話しだが、人間の姿をしてるから魔女かどうかは他人からは分からないそうだ」

「ご、ごひゃく!?」「ごひゃくさい……!」

 またも幼い姉妹には難しい話しだったが、魔女さんが五百年も生きるということだけは分かって驚きが隠せない。だとしたら、魔女さんは何歳なのだろう……?

「すごいだろ?  そしてこれが本題なのだが、魔法使いと魔女が使う魔法の中には、良い魔法と悪い魔法があるのだよ」

「良い魔法~?」「悪いまほー?」

「そうそう、そこでさっき出てきた魔法の『呪い』はどっちだと思う?」

「良い魔法!」「悪いまほー」

「今回はナナの当たりだね。呪いは一度掛けられると、その呪いを掛けた本人が解くまで治らないんだよ」

  『呪い』というものがどういう物か分からないが、とにかくそれを掛けられたら、掛けた本人に治して貰わなければいけないということは分かった。
 そして、呪いと魔女さんの目を関連付けるのだとすれば……。

「だから、病気じゃなかったら呪いだね。そのアニメでは呪いを掛けられて目が見えなくなっちまったのかもねぇ」

 ニコニコと笑いながらおばちゃんが言う。しかし姉妹たちには、笑顔を浮かべる余裕はない。
 だって魔女さんは、何者かによって呪いを掛けられたことによって目が見えなくなってしまったのかもしれないから。

「呪いを治す方法は掛けた本人が解かなきゃダメなの?」

 ルルが声を震わせながら問うと、おばちゃんは顎に手を当てて「うーん」と唸り始めた。

「そうだねぇ、あたしは医者だったもんだから呪いには詳しく無いんだ。でもね、村をずっと左に行った所に村で唯一魔法を使える人が居るんだ、その人に聞いてみたらええ」

「へー! 魔法使える人居るんだ!」

「そうだよー。その魔法使いさんは村人の怪我を治してくれているんだ」

「すごい! 良い人なんだね!」「ちゆまほー」

 自分たちと魔女さん以外で、魔法を使える人に始めて会えると分かったルルとナナは興奮した様子でいる。

「すごく良い人だよ。なんでも五十年程前に村を襲ったドラゴンを一人で退治したそうだ」

 ドラゴンは魔女さんが読んでくれた絵本で見たことがある。トカゲみたいな顔をして、大きな翼を生やし火を吹きながら飛ぶ生き物だ。そんなドラゴンを一人で退治するなんて、きっとすごい魔法使いさんだ。

「その魔法使いさんに会いたい!」

「ナナも~」

 その魔法使いさんに会って、呪いについて詳しく教えてもらい、なんなら魔法も少しだけ見せて貰おう。魔女さんと魔法使いさん、どちらの魔法が優れているのかにも興味があった。

「いいんじゃないかい? さっきも言ったけど、ここをずーっと左に行くとレンガで出来た家があるんだけど、そこが魔法使いのおじいさんが住んでる家だよ」

「分かった! 今から行ってくる!」

「ナナも行ってくる」

「あぁ、八百屋のおばちゃんから紹介されたって言えば中に入れて貰えるだろうから、それを忘れずにね」

 そう言っておばちゃんはニコニコと手を振ってくれる。姉妹もそれを返すように、大きく手を振る。

「おばちゃんありがとー! また来るね!」「ばいばーい」

 八百屋のおばちゃんも、姉妹の姿が見えなくなるまで手を振ってくれる。魚屋の袋はルルが、八百屋の袋はナナが手に持ち、空いた手は繋いで魔法使いさんの家まで歩く。

 レンガ造りの家。その情報だけで目の前にある村には不似合いな外装の家が、魔法使いさんの家なのだとすぐに分かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

アホの子と変な召使いと、その怖い親父たち

板倉恭司
児童書・童話
 森の中で両親と暮らす天然少女ロミナと、極悪な魔術師に仕える召使いの少年ジュリアン。城塞都市バーレンで、ふたりは偶然に出会い惹かれ合う。しかし、ふたりには重大な秘密があった──

精霊の国に嫁いだら夫は泥でできた人形でした。

ひぽたま
児童書・童話
琥珀は虹の国の王女。 魔法使いの国の王太子、ディランに嫁ぐ船上、おいしそうな苺を一粒食べたとたんに両手をクマに変えられてしまった! 魔法使いの国の掟では、呪われた姫は王太子の妃になれないという。 呪いを解くために、十年間の牛の世話を命じられて――……! (「苺を食べただけなのに」改題しました)

グリモワールなメモワール、それはめくるめくメメントモリ

和本明子
児童書・童話
あの夏、ぼくたちは“本”の中にいた。 夏休みのある日。図書館で宿題をしていた「チハル」と「レン」は、『なんでも願いが叶う本』を探している少女「マリン」と出会う。 空想めいた話しに興味を抱いた二人は本探しを手伝うことに。 三人は図書館の立入禁止の先にある地下室で、光を放つ不思議な一冊の本を見つける。 手に取ろうとした瞬間、なんとその本の中に吸いこまれてしまう。 気がつくとそこは、幼い頃に読んだことがある児童文学作品の世界だった。 現実世界に戻る手がかりもないまま、チハルたちは作中の主人公のように物語を進める――ページをめくるように、様々な『物語の世界』をめぐることになる。 やがて、ある『未完の物語の世界』に辿り着き、そこでマリンが叶えたかった願いとは―― 大切なものは物語の中で、ずっと待っていた。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

処理中です...