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第二章 手がかりを探しに

姉妹の突撃調査 ③

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 レンガ造りの家という情報だけで、目の前にそびえる村には不似合いな外装の家が魔法使いさんの家なのだとすぐに分かった。
 姉妹同士で繋いでいた手を一旦離して、玄関の脇に貼り付いているチャイムに指を伸ばす。

 ――ピンポーン。

 これまた村には不釣り合いなチャイム音だ。なんとなく、少しだけ古臭いようにも感じた。
 待たされることもなく、ゆっくりと玄関の扉が開く。そこから顔を覗かせたのは、痩せた体格に顎から長く白い髭を生やしたおじいさんだった。

「これはこれはお嬢さんたち、どうなさったかな?」

 シワのある顔を更にくしゃっとさせて微笑みながら、姉妹に問いかけた。

「おじいさん、魔法使いさんですかー?」

 ルルがそう問うと、おじいさんは「ほっほっほ」と自らの髭を撫でつけながら笑った。

「そうじゃよ、ワシがこの村で唯一の魔法使いじゃ」

「わー! 本物の魔法使いさんだー!」「魔法使いさん……!」

 姉妹は二人して顔をパーッと明るくさせると、ルルが食い気味に話し掛ける。

「あのねあのね! 八百屋のおばちゃんから聞いて来たんだけど、魔法使いさんに聞きたいことがあるの!」

「ほう? なんじゃ?」

「えっとね! 魔法の呪いについて聞きたいの!」

 ルルが『呪い』と口にした時、魔法使いさんの眉がピクリと動き、先程とは打って変わって真面目な表情に変わった。

「お嬢さんたちくらいの子が呪いについて知りたいと言うのかね、またまたどうして……」

  『呪い』という魔法はそんなにも難しい物なのだろうか、姉妹を見る魔法使いさんの目が鋭く光っている。だがこんな所で、怖気付いていられない。私たちは魔女さんに恩返しをしてあげたいのだから。すると今度はナナが口を開く。

「昨日やってたアニメで主人公が呪いを掛けられたのかもしれないの、だから呪いについて知りたいなって」

「なんだそんなことじゃったか……うむ、そういうことならば軽く教えてやろう、ここじゃ寒いから中で話そうか」

 魔法使いさんはそう言うと扉を大きく開いて、姉妹たちを中に入れてくれた。

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 魔法使いさんの家……というよりは、どこにでもありそうな内装の家だった。小綺麗なリビングに、患者の怪我を治す時に使うのだと思われる白いベッド。本棚には沢山の魔法についての本が置かれていた。

「お嬢さんたち、暖かいココアは飲めるかな?」

 魔法使いさんがキッチンの方から、リビングの椅子に座る姉妹たちへと声を掛けた。

「うん! 飲める!」「ナナも飲めるー」

 姉妹達が元気よく返すと、数分後には温かいココアの入ったマグカップを手に持った魔法使いさんがキッチンから出て来た。

「おまたせして悪かった、それじゃあ話しを聞かせて貰おうかの」

 魔法使いさんはそう言うと、ココアの入ったマグカップを姉妹たちの目の前に置いて、二人と向かい合うようにして椅子に座った。テーブルに置かれたココアはゆらゆらと揺れている。

「えっとね! 呪いって言うのは呪いを掛けた人しか治せないんだよね?」

「うむ、その通りじゃが」

「それ以外に治せる方法は無いの?」

 ルルと魔法使いさんが言葉を交わす横で、ナナはココアを冷まそうと息を吹きかけている。

「うむ、それしか無い」

「えぇ~、そんなぁ」

 魔女さんが呪いを掛けられているとしたら、掛けた本人を連れてこなければならないと言うことだ。そうなれば、魔女さんに呪いを掛けた人を探さなければいけないことになる。

「その呪いっていうのは魔法使いさんも掛けられるの?」

 ルルの言葉に魔法使いさんは、先程と同様に眉をピクリと動かしたが、すぐに柔らかな表情に戻って続ける。

「呪いも魔法と同様に勉強しなくちゃいけないからのぉ、ワシにはちっとばかり難しいわい」

「へ~、魔法使いさんでも難しいんだ」

「ワシは魔女では無いからの、そんなに沢山の魔法を覚えられないんじゃよ」

 『魔女』という単語に、今度は姉妹がピクリと反応した。だが魔法使いさんは、そんな二人の様子に気付く様子はない。
 魔法使いさんの言い方だと、魔女ならば簡単に呪いを掛けられるような言い方だ。ということは、魔女さんは他の魔女に呪いを掛けられてしまったのだろうか……。

「ねぇ魔法使いさん、五十年くらい前にドラゴンをやっつけたって本当?」

 今度は黙々とココアを啜っていたナナが尋ねた。

「ほっほっほ、よく知っておるのぉ、はるか昔の事じゃが確かにワシが退治した」

「へー! すごい!」「ほんとだったんだぁ」

「じゃがまあ、退治したと言っても檻に閉じ込めただけじゃがな」

 機嫌良さそうに胸を張って言う魔法使いさん。それに対して姉妹は、様々な疑問が思い浮かぶようだ。

「檻に閉じ込めてるの?  ここの村?」

 ルルが興味津々に前のめりになって尋ねる。

「いや、あの窓から見える山の中に洞窟があって、その洞窟の中に建てた檻の中に閉じ込めて居たのじゃが……」

「いたのじゃが?」「じゃがー」

 言いずらそうに言葉を詰まらせた魔法使いさんは、頬をポリポリと掻きながら口を開いた。

「しっかりと鍵を閉めていたはずなのに突然ドラゴンは姿を消したのじゃよ。まるで神隠しにでもあったかのように……不思議なことに鍵はしっかりと掛かったままだったのじゃが……」

「えー! 逃げちゃったってことー!?」

 言いずらそうに口を開いた魔法使いさんに、ルルがわざとらしく大きなリアクションを取った。その様子を見た魔法使いさんは、ルルを落ち着かせようと言葉を付け加える。

「逃げたのかもしれんが、それからこの村には一回もドラゴンの姿は見られていないんじゃ。恐らくどこか遠くへと行ってしまったんじゃよ」

 苦笑いを浮かべながら諭すように言う魔法使いさんに、ルルはすぐに落ち着きを取り戻した。

「ほえー、ドラゴンも怖かったんだね~」

 納得したような声を漏らすルルの横で、ナナは「どうやって抜け出したんだろう」と心の中で首を傾げた。

「まあ、それ以来は村も平和になったもんじゃがな」

 胸を張りながら言う魔法使いさんに、ルルは激しい拍手を送った。

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「じゃあね魔法使いさん! また来ます!」「またココア飲みにくるー」

 あの後、魔法使いさんの魔法を少しだけ見せてもらった。魔法使いさんの作りだす火はとても大きく、今のルルではとても真似出来ないと思った。

「うむ、二人とも気をつけてな、また会えるのを楽しみにしてるぞい」

 玄関口から見送ってくれる魔法使いさんに、姉妹は大きく手を振って応えた。

 すっかり長居してしまい、もうすぐで日も赤く染まってしまう。家で待つ魔女さんには「暗くなる前には帰りなさい」と言われているから早く帰らなければいけない。
 大好きな魔女さんを心配させてはいけない。姉妹はその思いで、帰りの道を早足で駆けるのだった。
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