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第二章 手がかりを探しに

姉妹の突撃調査 ②

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 魚屋のおじちゃんとは違い理由を尋ねられた事にルルは戸惑い、元気に開いていた口をあわあわとさせ始めた。
 魔女さんのことを口に出さずに、何て伝えれば良いのかが分からないのだろう。すると隣に居たナナが小さな声を出した。

「あのねあのね、昨日観たアニメでそんなお話しをやっていたの」

 それを聞いたおばちゃんは、納得したように目を細めて穏やかな笑みを浮かべた。

「そんなことだったのかい、あたしはてっきり家族の方の目が悪くなったのかと思っちまったよ」

 笑いながら言うおばちゃんに、ホッと胸を撫で下ろす姉妹。おばちゃんは続けざまに言葉を紡ぐ。

「でもそうだねぇ、そのアニメでは完全に目が見えないのかい?」

「光みたいに見えてるって言ってた気がする!」

 ルルはそれを言い終わると同時に、言ってはいけなさそうだと気付いて慌てて両手で口を塞いだ。だがそれも、魔女さんの目の見え方を全て口に出してしまった後だ。これは怪しまれただろうか……。
 そう思っておばちゃんの顔を見上げると、八百屋のおじちゃんと同様に深く考え込んでいる様子だった。

「よく出来たアニメだねぇ、魔法を使っているのか」

「やっぱり魔法なんだ!」「魔法すごい」

 やっぱり魔女さんの言っていた事は本当だったのだ。魔法ってすごいんだな……姉妹は魔法をもっと練習しようと心に決めた。

「だとするとアニメの舞台は現実の世界になりそうだね……それで治せるかについてなんだけど、病気だったらほとんどは無理だねぇ……」

 やっぱりダメなのか、そう思う一方で、ナナはおばちゃんの含みのある言い方が気になった。

「病気以外に何かあるのー?」

「そうだねぇ、さっき言ってた魔法って分かるかい?」

「うん、わかる」

「そうかい、よく勉強してるんだね~」

 おばちゃんは目を細めながらそう言うと、咳払いをして説明を始めた。

「病気じゃないとしたら『呪い』だね。呪いは魔法の一つで、一度呪いを掛けられてしまったら、解くまでずっと呪いに掛けられた状態が続くのさ」

 思っていたよりもずっと難しい内容に、姉妹は揃って口を開きながら首を傾げている。
 それを見たおばちゃんも、もっと噛み砕いた言い方をしようと頭を捻り始めた。

「あんたら、魔法について何か知ってるかい?」

「うーん、あんまり」「わからなーい」

 姉妹が口を揃えてそう言うと、おばちゃんは手をポンと叩いた。

「それじゃあこの際だから少しだけ魔法の事に詳しくなろうか」

「うん! なるー!」「ナナも~」

 魔女さんからは、『魔法について』というよりは『魔法そのもの』について教えて貰っていたので、姉妹はワクワクしながらおばちゃんの話しを待つ。
 姉妹の反応を見たおばちゃんは、にこやかな笑みのまま頷き、話し始める。

「まず魔法ってのを使えるのはこの世に二種類しか居ないんだ。一つ目は生まれながらにして賢い人間だね、この人たちは魔法の勉強をすれば、その潜在的な賢さで魔法を習得する事が出来るらしい」

 またも難しい言葉が多かったが、恐らく自分たちの様な人を言うのだろうと、ルルとナナは目を合わせて頷いた。

「そして二つ目はね、『魔女』と言われる人が居るんだよ」

 ルルとナナは同時に心臓をギクリとさせた。
 この二つ目は魔女さんの話しだろう。そう考えた二人は、話しをより詳しく聞こうと耳を傾けた。

「この魔女と言うのはね、人間が突然変異を起こして生まれたのだそうだよ。なんでも寿命が五百年はあるそうな話しだが、人間の姿をしてるから魔女かどうかは他人からは分からないそうだ」

「ご、ごひゃく!?」「ごひゃくさい……!」

 またも幼い姉妹には難しい話しだったが、魔女さんが五百年も生きるということだけは分かって驚きが隠せない。だとしたら、魔女さんは何歳なのだろう……?

「すごいだろ?  そしてこれが本題なのだが、魔法使いと魔女が使う魔法の中には、良い魔法と悪い魔法があるのだよ」

「良い魔法~?」「悪いまほー?」

「そうそう、そこでさっき出てきた魔法の『呪い』はどっちだと思う?」

「良い魔法!」「悪いまほー」

「今回はナナの当たりだね。呪いは一度掛けられると、その呪いを掛けた本人が解くまで治らないんだよ」

  『呪い』というものがどういう物か分からないが、とにかくそれを掛けられたら、掛けた本人に治して貰わなければいけないということは分かった。
 そして、呪いと魔女さんの目を関連付けるのだとすれば……。

「だから、病気じゃなかったら呪いだね。そのアニメでは呪いを掛けられて目が見えなくなっちまったのかもねぇ」

 ニコニコと笑いながらおばちゃんが言う。しかし姉妹たちには、笑顔を浮かべる余裕はない。
 だって魔女さんは、何者かによって呪いを掛けられたことによって目が見えなくなってしまったのかもしれないから。

「呪いを治す方法は掛けた本人が解かなきゃダメなの?」

 ルルが声を震わせながら問うと、おばちゃんは顎に手を当てて「うーん」と唸り始めた。

「そうだねぇ、あたしは医者だったもんだから呪いには詳しく無いんだ。でもね、村をずっと左に行った所に村で唯一魔法を使える人が居るんだ、その人に聞いてみたらええ」

「へー! 魔法使える人居るんだ!」

「そうだよー。その魔法使いさんは村人の怪我を治してくれているんだ」

「すごい! 良い人なんだね!」「ちゆまほー」

 自分たちと魔女さん以外で、魔法を使える人に始めて会えると分かったルルとナナは興奮した様子でいる。

「すごく良い人だよ。なんでも五十年程前に村を襲ったドラゴンを一人で退治したそうだ」

 ドラゴンは魔女さんが読んでくれた絵本で見たことがある。トカゲみたいな顔をして、大きな翼を生やし火を吹きながら飛ぶ生き物だ。そんなドラゴンを一人で退治するなんて、きっとすごい魔法使いさんだ。

「その魔法使いさんに会いたい!」

「ナナも~」

 その魔法使いさんに会って、呪いについて詳しく教えてもらい、なんなら魔法も少しだけ見せて貰おう。魔女さんと魔法使いさん、どちらの魔法が優れているのかにも興味があった。

「いいんじゃないかい? さっきも言ったけど、ここをずーっと左に行くとレンガで出来た家があるんだけど、そこが魔法使いのおじいさんが住んでる家だよ」

「分かった! 今から行ってくる!」

「ナナも行ってくる」

「あぁ、八百屋のおばちゃんから紹介されたって言えば中に入れて貰えるだろうから、それを忘れずにね」

 そう言っておばちゃんはニコニコと手を振ってくれる。姉妹もそれを返すように、大きく手を振る。

「おばちゃんありがとー! また来るね!」「ばいばーい」

 八百屋のおばちゃんも、姉妹の姿が見えなくなるまで手を振ってくれる。魚屋の袋はルルが、八百屋の袋はナナが手に持ち、空いた手は繋いで魔法使いさんの家まで歩く。

 レンガ造りの家。その情報だけで目の前にある村には不似合いな外装の家が、魔法使いさんの家なのだとすぐに分かった。
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