盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶

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第四章 洞窟の中には

迫る足音

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 真っ暗な洞窟内にある檻の中。柵の間は体が余裕で通せるくらいに開いているのに、魔法の力で出られなくなってしまった。
 そして薄らと見えた魔法使いさんの顔。あの表情は正常な人間の顔つきでは無かった。魔法使いさんは何を思って私たちを閉じ込めたのだろうか。そんな魔法使いさんも、今はどこかへ行ってしまったようだ。
 もしかしたら本当に檻の中から出して貰えないのではないか。真っ暗な闇の中でそんな不安がふつふつと湧き上がり、姉妹は身を寄せあってお互いの体温を感じ合っていた。

「ねえお姉ちゃん……ナナたちここから出して貰えるよね……?」

「出して貰えるよ! きっと何かの間違いだって!」

 もちろん、ルルもナナも間違いでは無いことなど分かっている。
 魔法使いさんは私たちだと分かってここに閉じ込めていた。だからもしかすると、死ぬまで檻から出して貰えないのではないか。そんな気がしてならない。

「魔法使いさん、なんでナナたちをここに閉じ込めたんだろう……」

「何か言ってたよね? 気が付いたからなんとかみたいな」

 ルルはナナ程に不安がっている様子はなく、口調にもまだ余裕があった。

「言ってたね……だけどナナたち何も気が付いてなくない?」

「魔法使いさんが檻を作って、魔法でドラゴンを生み出したってナナが言ったんだよ。そして魔法使いさんの名前を出したら閉じ込められちゃった」

 そうだ。誰かがドラゴンを魔法で生み出して、見せしめのために檻に閉じ込めたと言う話しになり、そこで魔法使いさんの名前を出したら檻に閉じ込められたのだ。

「ていうことはさ、ナナの言ってること当たってたんだよ! すごい!」

 暗くてルルの顔は見えないが、その声はとても明るく嬉しそうだった。

「そんなことで喜んでる場合じゃないよ……」

 一方のナナは、ルルの腕を掴みながら拗ねた声を上げている。
 そしてまた、辺りに静寂が訪れた。魔法使いさんが姿を消してからというもの、洞窟の中には物音ひとつ聞こえない。まるで、何もない暗闇に居るようだ。
 床は固く冷たい。ストーブを焚くこの季節に、こんな場所に居れば寒いのは当たり前だ。姉妹が二人で身を寄せ合い温めあっても、手と足の先は冷たくなり、露出してある首や頬も冷えている。
 こんな場所に居ては、近いうちに死んでしまうのでは無いだろうか。そんなことが頭の中によぎる。

「うーん、このままじゃ魔女さんが心配しちゃうよ」

 ルルがポツリとそんなことを呟く。

「あ、そうだね。早くここから出ないと……」

「でも出られないよね。さっきから何回も何回も出ようとしたけど出られないじゃん」

「うん……どうしよう……」

 こうやって身を寄せ合い、死んでしまうのではないかと考えながら頭を悩ませるのは、山の中に捨てられて以来かもしれない。
 あの時は『偶然』、魔女さんが助けに来てくれたが、今回は魔女さんが偶然通り掛かる場所ではない。そうなると、あの時のような奇跡は期待が出来なさそうだ。

「あ、そうだ!」

 ルルが大きな声を上げると、ナナは体をピクリとさせた。

「もう、すぐに大きな声出すんだから」

「えへへ、ごめんごめん、でもでも良いこと思い出したんだもん!」

 謝った直後に大声を出すとは、もしかしたら姉の頭はどうかしているのかもしれない。
 そんなことを思ったナナは、大きな声を出すルルを注意することなく、代わりに大きなため息を吐きながら尋ねる。

「良いことってなに?」

 あまり期待しないままに尋ねると、ルルは自慢げに鼻を鳴らした。

「魔女さんにピンチの時に使えって言われた魔法だよ!」

 魔女さんにピンチになったら使えと言われていた魔法。それはとても複雑な魔法陣をしていて、覚えるのにとても苦労した魔法だ。

「そうだそれだよ! 今ってピンチでいいんだよね?」

「うんうん! ここから出して貰えないんだもんピンチに決まってるよ!」

 一体どんな魔法なのか妄想を働かせたこともあったが、こうも早く使う日が来るなんて思わなかった。

「お姉ちゃん、魔法陣覚えてる?」

「覚えてるに決まってるよ! ナナは?」

「うん、ナナも大丈夫だと思う」

「よし! そうと決まれば早速唱えていこ!」

 そう言うとルルは手を胸の前に出した。

「ナナもやるの?」

「うん一応やろ! どんな魔法なのかも分からないし、どっちかが失敗してもどっちかが成功すれば良いから!」

「うん、分かった」

 ナナは短く返事をすると、胸の前に手を突き出した。それと同時、カツカツカツと階段を下る足音が聞こえてきた。

「お、お姉ちゃん……この足音って……」

 この足音は聞き覚えがある。つい先程もこの足音を聞いたのだから。

「ま、魔法使いさんだね……」

「どうしようお姉ちゃん……」

「大丈夫、ゆっくりと魔法を唱えよう」

「うん……」

 姉妹はゆっくりと目蓋を閉じる。
 頭の中で魔法陣を描こうとするも、聞こえてくる足音に気を取られて、思うように描くことが出来ない。
 何回も何回も初めから描き直すが、足音が大きくなればなるほどに気が散ってしまう。

「描けないよぉ……」

 ナナの弱気な声が聞こえてくる。
 集中することが出来ない状況下で、今までに無いくらい難しい魔法陣だ。これは弱気になっても仕方がない。
 そして遂に、階段を降り終えた魔法使いさんの足音が聞こえた。目蓋越しにたいまつの光が映る。
 もう後は無い。魔法陣を頭の中で描けるのも、次の一回で最後だろう。

  「ふぅ」と息を吐いて、ゆっくりと慎重に魔法陣を描いていく。

 魔法使いさんの足音が檻に近づいて来る。それに伴い気が散ってしまいそうになるが、ギリギリの所で集中力を保つ。
 すると、魔法使いさんの足音が止まった。

「何やっとるんじゃ! 怪しい行動をするではない!」

 魔法使いさんの怒号と同時、ルルとナナの手からは眩い光が溢れ出した。
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