盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶

文字の大きさ
43 / 45
最終章 姉妹の選択

得意不得意

しおりを挟む
 ドラゴンの口から放たれた炎は、群がる野次馬へと降り注ぐ。寸でのところで逃げた人も居たようだが、下からでも数名が炎に晒されていたのが見えた。
 姉妹の頭上からはいくつもの悲鳴が上がり、その声がどんどんと遠くへと散って行く。

「これでもう後戻りは出来ない。あとはお前ら三人を殺すだけだ」

 ドラゴンの顔がこちらを向いた。
 こんなに大きなドラゴンに勝てる訳がない。
 さっきみたいに首をハンマーのようにして頭上から振り落とされても、炎を吹かれても終わりの未来しか見えない。もちろんルルの炎はドラゴンの炎に敵わないし、魔力を失った魔女さんに手伝って貰うことも叶わないだろう。

「ねえ、魔女さん、さっき言ってたドラゴンを倒せるかもしれない方法ってなに?」

 魔女さんが言っていたことを思い出し、ルルが小声で問う。魔女さんが魔法を使えなくなった今、本当にそんなことが可能なのだろうか。

「少し難しいことなのだけれど、いい?」

「うん! 大丈夫!」

 ためらいがちな魔女さんの言葉に、ドラゴンに視線を預けたままのルルは力強く頷いてみせた。魔女さんは満足そうに頷き返すと、その方法について説明を始める。

「ルル、頭の中に魔法陣を二つ思い浮かべることは出来る?」

「ふ、ふたつ……?」

「えぇ、炎の魔法と雷の魔法を組み合わせるの。そうすれば威力はもちろん、雷を纏った炎を生み出すことが出来るわ」

 魔法と魔法を組み合わせるなんて考えもしなかった。今まで苦労して思い浮かべた魔法陣を頭の中に二つも……。出来るかどうかは分からないが、それしか方法が無いと言うのならやるしかないだろう。

「うん、やってみる」

 自信がなさそうに呟いたルルは、胸の前に手を突き出した。それを確認した魔女さんは、続いてナナへと視線を向ける。

「ナナ、あなたは補助魔法でルルの作った魔法を限界までパワーアップさせてちょうだい」

「……? 限界まで?」

 限界までパワーアップをさせるとは、一体どうやるのだろう。いつもは魔法陣を頭の中に思い浮かべ、自分の手をルルの作った魔法の近くに寄せるだけだったので、限界までパワーアップなんてさせた試しがなかった。

「補助魔法の魔法陣を思い浮かべたら、同じ物を頭の中で何個も思い浮かべるの。そうねぇ――ナナの体力なら三つが限界かしら」

「三つ……同じ魔法陣で良いなら出来そうかも……」

「えぇ、ルルよりは複雑ではないわね。ただ、膨大な体力が必要になるわよ」

 魔法を使うには体力が必要だ。体力に自信のないナナは、補助魔法や回復魔法を使用した時に、いつも息切れを起こしてしまう。そんなナナがいくつもの魔法陣を作ってしまえば、息切れどころでは済まないかもしれない。

「作戦会議は終わったか? 早くしなければワシの口から裁きの炎が放たれてしまうぞ! はははははぁ!」

 突如として響いたドラゴンの声に、ルルとナナは肩をピクっとさせて反応した。もう、迷っている時間など無さそうだ――。

「うん、ナナやってみるよ」

 自信は無いが、やるしかない。その思いでナナは自分に言い聞かせるように頷いた。
 体力に自信のあるルルは頭を使い、頭を使うことが得意なナナは体力を使う作戦。これが逆だったのならどれほど良かったのだろう。
 ルルの手からは炎が浮かんでいて、炎の魔法を唱えることには成功したらしい。
 問題はここからだ。炎の魔法が完成すると、今度は雷の魔法を唱えなければいけない。目を閉じているルルは、眉をピクピクと動かしながら額に汗を滲ませている。

「ナナ、そろそろ準備を」

 魔女さんが静かに言うと、ナナも胸の前に手を突き出した。
 するとルルの炎から、パチパチという音が聞こえだした。視覚では電気を確認出来ないが、聴覚では確かに電気の音が聞こえる。
 この調子でいけば――! ナナがそう思った直後、ルルの手にあった炎が段々と萎んでしまい、遂には消えてしまった。

「あわわわわ、間違っちゃった……」

 ルルは口をアワアワとさせながら、魔女さんの顔を覗いた。魔女さんは優しい笑みを見せて、「もう一度、落ち着いて」と声を掛けてくれた。
 コクリと頷いたルルは、もう一度胸の前に手を突き出し、目を閉じる。

「ナナは一旦休んでいてちょうだい」

 魔女さんからの指示でナナは手を下ろす。

「なかなか上手く行かないようだなぁ! お前らの命もここまでだ! 憎むなら村のやつらを恨むんだな!」

 ドラゴンから声が上がると、口の中にある炎が更に大きくなり、その口が大きく開かれた。
 その声が集中力を阻む障害となりながらも、ルルは炎の魔法を唱え終わり、またもやパチパチと電気の音を奏で始めている。

「ナナ、準備をしてちょうだい」

「うん」

 ナナはもう一度、胸の前に手を突き出した。しかしルルの手からは、炎の球と小さな電気の音が聞こえるだけで、なかなか完成しないようだ。
 その様子をナナと魔女さんが眺めていると――。

 バチバチバチバチ――!

 まるで無数のムチのような雷が炎の周りで暴れ始めた。ナナはそれを確認して魔女さんへと視線を向けると、ニッコリとさせた口元で頷いてくれた。
 ルルの眉間には皺が寄っていて、頬には一粒の汗が伝った。
 ここからはナナの出番だ。ナナはそう思ったと同時に、頭の中には一瞬で三つの魔法陣を思い浮かべる。
 その直後、数秒前までは普通に出来ていた呼吸が突如として難しくなった。肺を雑巾のように絞られたような、首を両手で締められたような。酸素が脳に届く量が急激に減り、頭がクラクラとしてくる。
 だけどここでナナが失敗をしたら、もう後がない。その一心でルルの手元へと両手をかざした。

 その直後、雷を纏った炎の球は二階建ての家程の大きさにまで膨れ上がった。

 これなら行ける――!

 姉妹が心で確信したと同時、ドラゴンの口からは滝のような炎が放たれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

精霊の国に嫁いだら夫は泥でできた人形でした。

ひぽたま
児童書・童話
琥珀は虹の国の王女。 魔法使いの国の王太子、ディランに嫁ぐ船上、おいしそうな苺を一粒食べたとたんに両手をクマに変えられてしまった! 魔法使いの国の掟では、呪われた姫は王太子の妃になれないという。 呪いを解くために、十年間の牛の世話を命じられて――……! (「苺を食べただけなのに」改題しました)

グリモワールなメモワール、それはめくるめくメメントモリ

和本明子
児童書・童話
あの夏、ぼくたちは“本”の中にいた。 夏休みのある日。図書館で宿題をしていた「チハル」と「レン」は、『なんでも願いが叶う本』を探している少女「マリン」と出会う。 空想めいた話しに興味を抱いた二人は本探しを手伝うことに。 三人は図書館の立入禁止の先にある地下室で、光を放つ不思議な一冊の本を見つける。 手に取ろうとした瞬間、なんとその本の中に吸いこまれてしまう。 気がつくとそこは、幼い頃に読んだことがある児童文学作品の世界だった。 現実世界に戻る手がかりもないまま、チハルたちは作中の主人公のように物語を進める――ページをめくるように、様々な『物語の世界』をめぐることになる。 やがて、ある『未完の物語の世界』に辿り着き、そこでマリンが叶えたかった願いとは―― 大切なものは物語の中で、ずっと待っていた。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

処理中です...