【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ

文字の大きさ
26 / 53

26 ミランダ様、勇気を出す

しおりを挟む
 ラス様とバーベナ様が婚約破棄になったきっかけは、元々はジンさんの小さなミスからだった。
 当時、ミランダ様の婚約者だったジンさんが、とある夜会で、ミランダ様をダンスに誘わないといけないのに、間違えてミランダ様の友人を誘ってしまった。
 そして、それがショックでミランダ様は帰ってしまい、ジンさんも呑気なもので、誘ったことを間違えたことにはすぐに謝ったけど、帰る彼女を追いかけもしなかった。
 その話を聞いたミランダ様の両親が激怒して、公爵家の嘘か本当かわからない話を貴族の間で流し、イッシュバルド公爵家に悪い評判が立った。
 それがバーベナ様とラス様の婚約破棄にもつながったらしい。
 でも、実際は違う。
 ジンさんはちゃんとミランダ様をダンスに誘っていた。
 ミランダ様が私にやったように、その時も友人の後ろに隠れてしまっていただけだった。
 だから、ミランダ様がもっと早くに声を上げてくれれば、婚約破棄にまで至らなかったのかもしれない。
 彼女はそれをとても悔やんでいる。

 結局、ジンさんを追いかけて、私とユウヤくん、リア、ミランダ様で庭園まで行くことになった。
 もちろん、バーベナ様にばれないように距離を取るつもりで。
 先に行ったジンさんはユウマくんが止めてくれていて、少し離れたところから、ラス様達の様子を二人で眺めていた。

「様子はどうだ」
「ミランダ嬢まで来たんか」
「も、申し訳ありません」
「いや、そういう意味じゃねえって。あんま、こういうのにクビを突っ込むようなタイプに見えなかったからよ」

 ユウマくんの言葉にミランダ様は彼の隣りにいるジンさんを見たあと、小さな声で答える。

「元々は私が原因ですから」
 
 その言葉を聞いて、ジンさんが反応する。

「元々のきっかけは僕です。僕が間違えなければこんな事にはならなかったかもしれません」
「ち、違うんです!!」

 思わず声を出したミランダ様にジンさんだけじゃなく、私達もしーっと、口元に指を当てた。

「申し訳ありません」

 ミランダ様は謝罪すると、俯いてしまう。
 可哀想な気がして、慰めてあげたい気分にはなったけど、今はそういうわけにもいかなかった。
 私達は先程の場所から移動して、バーベナ様の後ろにまわり、低木の後ろにかがんで姿を隠している状態。
 ラス様とバーベナ様は噴水の近くのベンチで話をしていて、噴水を背にラス様は立ったままで座っている彼女から少し離れた位置で話をしていた。
 ラス様は私達に気が付いたようで、一瞬、バーベナ様から視線を外したけれど、すぐに元に戻す。
 二人までの距離は表情が見えるくらいなので、そこまで離れていないから、あまりうるさくすると、バーベナ様に気づかれる恐れがあるため、会話もそう簡単にはできない。
 誰も話さなくなると、ラス様とバーベナ様の会話が耳にかすかに届いてきた。

「ラス様は私の思いを弄んでいらっしゃったのですか」
「ですから、そういう意図はありません。あの時の私とあなたの関係性で必要でしたから、その対応をしただけです。婚約破棄もそちらからです。元々は、あなたのご両親は私の家柄で判断していたのでしょう?」
「それはそうかもしれません。でも、私は違います」

 私と話をした時のバーベナ様は小さな声の印象だったけれど、興奮しているのか、私達の耳にも簡単に聞こえてくるようになってきた。

「誤解をさせてしまったなら謝ります。私の中ではあなたは親が決めた婚約者だった、という位置づけでしかありません」

 ラス様はきっぱりと言った。
 
 キツいようには聞こえるけど、ちゃんと伝えるのも優しさなんだろうな。
 それに、中途半端な答え方をしたら、彼女は諦めるという方法を取らない気もする。

「ひどい」

 けれど、ラス様の優しさをバーベナ様はそうとは受け取れなかったみたい。
 気持ちはわからないではないけど。

「申し訳ないとは本当に思っています。ただ、婚約者の義務であったことは理解していただきたい」

 ラス様の言い分としては、親が決めた婚約者だから覆せないとわかっていて、バーベナ様を受け入れようと決めたから、彼女へ優しい態度やマメな対応を続けていた。
 だから、彼女への愛情的なものではなく、儀礼的なもので彼女の相手をしていた、と言いたいのだろう。
 彼に恋してる女の子としては辛い言葉だろうな。
 でも、彼女はラス様にそんな事を言わせてしまうくらいの事をしたのも確か。

「それって普通のことなの?」
「貴族にも色々とあるからな。親が云々というか、勢力争いや利害関係で子供は自由に恋愛できなくて、小さい頃から婚約者がいる。すぐには無理でも、最終的には上手くいく夫婦が多いから、それが普通になってるんだよな」

 リアの質問にユウヤくんが答えた。

「自由に恋愛できないのは辛いわね。誰かを好きになっても、自分に婚約者がいたり、相手に婚約者がいたりするわけだもんね」

 ユウヤくんの答えに頷くと、リアはまた口を閉じた。

「婚約者であれば、あなたは私と結婚してくださっていたのですか」
「・・・・・そうなりますね」

 沈黙があったので、少し顔を上げてラス様の表情を見ると、どこか悲しげなものになっていた。

「あなたには私への愛情は一つもないと?」
「あなたが望んでおられるようなものはありません」

 きっぱりと告げたラス様の言葉に、思わずリアと顔を見合わせてしまった。
 バーベナ様が友達だったなら、ラス様に言い過ぎですよ、って言ってしまったかもしれない。
 でも、バーベナ様に対しては、なんだか可哀想とは思えなかった。
 私って、冷たい人間なのかな。
 
「・・・・・わかりました」

 バーベナ様がベンチから立ち上がる。
 そして、捨て台詞のように言った。

「私の心を弄んだこと、社交界で噂にさせていただきますから」
「ご自由に。ただ、そんな事実はありませんが」
「信じる信じないかは、人によりますわ。ただでさえ、イッシュバルド公爵家の名は地に落ちそうですもの」

 バーベナ様の言葉に、私だけじゃなく、リアもユウヤくんもユウマくんも眉間にシワを寄せた。
 気になってジンさんの方に視線を送ると、とても悔しそうな表情で俯いている。 

「私の代で持ち直しますのでご心配なく」

 ラス様がにこりと微笑むと、

「見送りはいりません。ここで結構です」

 バーベナ様はラス様に強い口調で言い放ち、歩き出す。
 
 一応、これで一件落着、なのかな?

 そう思った時だった。

「死んでしまえばいい」

 バーベナ様はラス様の方に振り返るなり、そう言った。

 な!
 なんて事言うの!

 頭にきてしまい、立ち聞きしていたことを責められる覚悟で立ち上がろうとした時だった。
 ジンさんが立ち上がり、低木を軽々と飛び越えて、バーベナ様の前に立った。
 ジンさんがそうしている間に、私はユウヤくんに手を引かれ、バーベナ様に気づかれないよう小道に抜け出す。

「あなたは・・・・・」
「謝ってください」

 睨みつけてくるバーベナ様の様子などおかまいなしに、ジンさんはもう一度言った。

「謝ってください」
「ジン、もういい」
「良くなんかないです!」

 ラス様の制止をきかずに、ジンさんは続ける。

「あんなひどい事をこの人から言われていいわけありません」

 すると、バーベナ様が食ってかかった。

「謝るのはそっちでしょう! あなたが馬鹿な事をしなければ、私はラス様と結婚できていたのに! 元はと言えば、全部あなたのせいじゃない!!」
「違います!!」

 そう叫んだのは、私の背後に立っていた人物。
 ミランダ様だった。

「レイブグル伯爵令嬢? どうしてあなたが・・・・・」

 訝しげな顔をするバーベナ様に、ミランダ様は身体を震わせながら答えた。

「ジン様は悪くありません。悪いのはすべて私だったんです」
「どういう事?」

 聞き返したバーベナ様だけでなく、ジンさんも困惑の表情を浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。

水鳥楓椛
恋愛
 男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

令嬢から成り下がったメイドの分際で、侯爵様と目が合ってしまって

真好
恋愛
彼はメイドの私に手を差し出した。「私と、踊っていただけませんか?」 かつては公爵令嬢として、誰もが羨む生活を送っていたエルナ。 しかし、国家反逆罪で家は没落し、今は嫌な貴族の下で働く「身分落ち」のメイド。 二度と表舞台に立つことなどないはずだった。 あの日の豪華絢爛な舞踏会で、彼と目が合うまでは。 アルフォンス・ベルンハルト侯爵。 冷徹な「戦場の英雄」として国中の注目を集める、今もっともホットで、もっとも手が届かない男。 退屈そうに会場を見渡していた彼の視線が、影に徹していた私を捉えて。 彼は真っ直ぐに歩み寄り、埃まみれの私に手を差し出した。 「私と、踊っていただけませんか?」 メイドの分際で、英雄のパートナー!? 前代未聞のスキャンダルから始まる逆転劇。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー
恋愛
五年間、幸は彼を信じ、支え続けてきた。 「会社が成功したら、祖父に紹介するつもりだ。それまで俺を支えて待っていてほしい。必ず幸と結婚するから」 そう、圭吾は約束した。 けれど――すべてが順調に進んでいるはずの今、幸が目にしたのは、圭吾の婚約の報せ。 問い詰めた幸に、圭吾は冷たく言い放つ。 「結婚相手は、それなりの家柄じゃないと祖父が納得しない。だから幸とは結婚できない。でも……愛人としてなら、そばに置いてやってもいい」 その瞬間、幸の中で、なにかがプチッと切れた。

処理中です...