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アランとリーネの癖
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「言いにくいのだけど……お兄様……最近キャリーの装飾品でルビーの髪飾りなど身につけていないかしら。」
食後の紅茶を口にして、セレーナが俺に聞いてきた。
そんなことを言われてもハーフナー伯爵令嬢の装飾品などいちいち見ていない。
「いや、知らん。それがどうかしたのか?」
「そう……。」
そう呟くように言うと考え込むように黙った。
そして意を決したようにまた口を開く。
「キャリーに貸した装飾品が度々返って来ないのよ。」
「返せと言えばいいだろう。」
「言ってもはぐらかされるか、そのルビーの髪飾りはとうとう借りていないといいだしてね。」
「返ってこないのに何故また貸した?」
「持っていないと言われて……田舎から出てきているのに気の毒になってしまって……私も友人のメグも返ってこないらしいわ。」
「持っていないことは無いだろう。少なからず俺も送っているが。」
婚約が決まった時、彼女の誕生日。
侍従にすべて任せたが送っている。
「ああ、あれは……」
セレーナが言いかけて口を噤んだ。
「なんだ。」
促すと重たい口を開いた。
「メグに装飾品を借りる時に交換したのよ。そもそもメグも前貸した装飾品を先に返して欲しいとお願いしていたの。でもそうしたら渋ったメグにお兄様に頂いたものだからメグは嬉しいでしょう、と言って渡していたわ。メグはお兄様に憧れているから……。」
食事中だと言うのに呆れて開いた口が塞がらない。
ウォルターがどんなものを送ったのかは知らない。
だがおそらく気に入らなかったのだろう。
だからと言ってそんな質屋のような真似で友人から装飾品を借りているのか?!
そもそも「もらったものを人に貸すものなのか?」
令嬢の普通がわからなくなった。
セレーナが呆れたように
「普通はしないわよ。少なくとも王都の貴族は……」
そう言うとため息をついた。
「それで?俺からハーフナー伯爵令嬢に言えばいいのか?装飾品をめぐってのトラブルなど、問題になればうちも無関係では居られまい。」
「いいえ……お兄様の耳に一応入れておこうと思ったのよ。お兄様が知っているとわかればキャリーも慌てるでしょう。それでも戻ってこなければまたお兄様に頼むわ。」
どうしてただ普通に過ごしてはくれないのだろうか。
「本当に……婚約時代でこれだけのことがあるなんて……きっとお兄様も苦労するわ。」
聞きたくない言葉を聞かされる。
もう癖になった様なため息が溢れた。
朝の恒例のハーフナー伯爵令嬢の突撃を適当にいなし、席につく。
するとニコラスが横に座る。
「今回も出席でいいのか?」
「ああ、もちろん。何故?」
「いや…あれからハーフナー伯爵令嬢とのお茶会はないのか?」
前回キャンセルされてからもう一ヶ月以上経とうとしていた。
確かに両親も正式な顔合わせを済ませようと勉強会のない日をしつこいくらいに聞かれていた。
そこで正式な顔合わせがなくとも毎朝学園で話をしている、それにもうすぐテスト期間だと言えば引き下がってくれた。
「では長期休暇に入れば必ず。」となった。
「実を言えば正式な顔合わせを少しでも伸ばしたいという悪足掻きだ。向こうの様にいきなりキャンセルするより良いだろう?」
「まあ確かに非道い話だったが……悪足掻きとは君らしくもないね。」
正直に話せばニコラスはそう言った。
らしくないと言われたらその通りだ。
ハーフナー伯爵令嬢との婚約はもう決まっている。
が、話が進む事が妙に落ち着かない。
「ま、それで前回のすっぽかしに溜飲が下がるなら良いのではないか。少しのわだかまりでも積もれば大変なことになる。まして夫婦になるのだからな。」
黙り込んだ俺にニコラスは軽く言うと今回の集まりのテーマを教えてくれた。
しかし俺はといえば彼の言った一言が俺の頭を占めてしまう。
夫婦……
ハーフナー伯爵令嬢と夫婦。
全く想像がつかなかった。
でもだからなんだと言うのだ。
これはもう決まっている。
決まっているんだ。
言い聞かせるように何度も繰り返した。
「もうすぐ期末のテストですね。」
「ああ、リーネは受けないのか?」
「ええ。必要ありませんから。」
やはり研究生か
「羨ましいな。」
俺がそう言えばリーネはいつもの様に目元をクシャッとさせ、笑顔を見せてくれる。
可愛いな
無自覚に小さく呟いた自分に気付き、愕然とする。
令嬢に可愛いなどと。
今の呟きは本当に俺か?
「小説なんだが!」
羞恥の念が湧き上がって来るのを誤魔化すように話題をずらすと、思ったより大きい声が出た。
リーネの丸い瞳が驚きでもっと丸くなった。
だが俺の呟きは聞こえてはなかったらしい。
安堵する。
「あ、いや、すまない。ただ小説のことなんだが、もう少し貸しておいてもらえないかと思ったんだ。思ったより面白くてね。君のガイドのおかげかな。」
そう言えばリーネは丸い瞳を丸々とさせたまま「ガイド……?」と呟いた。
「ああ、まるで教科書のようにたくさんラインが引いてあってとても興味深い。」
そういうと思い当たったように「ああ!」と声を上げた。
「そうでした!私!すぐラインを引いてしまう癖があって……!!読み辛かったのではないですか?」
恥ずかしさのあまり赤くなった顔を手で隠しながら訴えてくる様子に口元が緩む。
小さい手で必死に顔を隠しても、上気した頬は隠しきれていない。
ああ、仕草も何もなんて愛くるしいのだろうか。
気付けばリーネの赤く染まった可愛い頬に手を伸ばしていた。
と、瞬時に反対の手で伸ばしかけた手を押さえ込む。
息を呑んだ。
また俺は何を?
ギュッと抑えた手を強く握る。
邪な態度をはぐらかすように落ち着いた声を出した。
「そんな事はない。もう二周目を読もうかと言うところだ。」
「……誰にも見せないでくださいね。」
何も気付かぬ様子にホッとしつつ
(誰が見せるものか)
そんな事を考えていた。
愛らしい外見からは想像もつかない知的な癖。
この癖を知る男など
俺だけでいい。
食後の紅茶を口にして、セレーナが俺に聞いてきた。
そんなことを言われてもハーフナー伯爵令嬢の装飾品などいちいち見ていない。
「いや、知らん。それがどうかしたのか?」
「そう……。」
そう呟くように言うと考え込むように黙った。
そして意を決したようにまた口を開く。
「キャリーに貸した装飾品が度々返って来ないのよ。」
「返せと言えばいいだろう。」
「言ってもはぐらかされるか、そのルビーの髪飾りはとうとう借りていないといいだしてね。」
「返ってこないのに何故また貸した?」
「持っていないと言われて……田舎から出てきているのに気の毒になってしまって……私も友人のメグも返ってこないらしいわ。」
「持っていないことは無いだろう。少なからず俺も送っているが。」
婚約が決まった時、彼女の誕生日。
侍従にすべて任せたが送っている。
「ああ、あれは……」
セレーナが言いかけて口を噤んだ。
「なんだ。」
促すと重たい口を開いた。
「メグに装飾品を借りる時に交換したのよ。そもそもメグも前貸した装飾品を先に返して欲しいとお願いしていたの。でもそうしたら渋ったメグにお兄様に頂いたものだからメグは嬉しいでしょう、と言って渡していたわ。メグはお兄様に憧れているから……。」
食事中だと言うのに呆れて開いた口が塞がらない。
ウォルターがどんなものを送ったのかは知らない。
だがおそらく気に入らなかったのだろう。
だからと言ってそんな質屋のような真似で友人から装飾品を借りているのか?!
そもそも「もらったものを人に貸すものなのか?」
令嬢の普通がわからなくなった。
セレーナが呆れたように
「普通はしないわよ。少なくとも王都の貴族は……」
そう言うとため息をついた。
「それで?俺からハーフナー伯爵令嬢に言えばいいのか?装飾品をめぐってのトラブルなど、問題になればうちも無関係では居られまい。」
「いいえ……お兄様の耳に一応入れておこうと思ったのよ。お兄様が知っているとわかればキャリーも慌てるでしょう。それでも戻ってこなければまたお兄様に頼むわ。」
どうしてただ普通に過ごしてはくれないのだろうか。
「本当に……婚約時代でこれだけのことがあるなんて……きっとお兄様も苦労するわ。」
聞きたくない言葉を聞かされる。
もう癖になった様なため息が溢れた。
朝の恒例のハーフナー伯爵令嬢の突撃を適当にいなし、席につく。
するとニコラスが横に座る。
「今回も出席でいいのか?」
「ああ、もちろん。何故?」
「いや…あれからハーフナー伯爵令嬢とのお茶会はないのか?」
前回キャンセルされてからもう一ヶ月以上経とうとしていた。
確かに両親も正式な顔合わせを済ませようと勉強会のない日をしつこいくらいに聞かれていた。
そこで正式な顔合わせがなくとも毎朝学園で話をしている、それにもうすぐテスト期間だと言えば引き下がってくれた。
「では長期休暇に入れば必ず。」となった。
「実を言えば正式な顔合わせを少しでも伸ばしたいという悪足掻きだ。向こうの様にいきなりキャンセルするより良いだろう?」
「まあ確かに非道い話だったが……悪足掻きとは君らしくもないね。」
正直に話せばニコラスはそう言った。
らしくないと言われたらその通りだ。
ハーフナー伯爵令嬢との婚約はもう決まっている。
が、話が進む事が妙に落ち着かない。
「ま、それで前回のすっぽかしに溜飲が下がるなら良いのではないか。少しのわだかまりでも積もれば大変なことになる。まして夫婦になるのだからな。」
黙り込んだ俺にニコラスは軽く言うと今回の集まりのテーマを教えてくれた。
しかし俺はといえば彼の言った一言が俺の頭を占めてしまう。
夫婦……
ハーフナー伯爵令嬢と夫婦。
全く想像がつかなかった。
でもだからなんだと言うのだ。
これはもう決まっている。
決まっているんだ。
言い聞かせるように何度も繰り返した。
「もうすぐ期末のテストですね。」
「ああ、リーネは受けないのか?」
「ええ。必要ありませんから。」
やはり研究生か
「羨ましいな。」
俺がそう言えばリーネはいつもの様に目元をクシャッとさせ、笑顔を見せてくれる。
可愛いな
無自覚に小さく呟いた自分に気付き、愕然とする。
令嬢に可愛いなどと。
今の呟きは本当に俺か?
「小説なんだが!」
羞恥の念が湧き上がって来るのを誤魔化すように話題をずらすと、思ったより大きい声が出た。
リーネの丸い瞳が驚きでもっと丸くなった。
だが俺の呟きは聞こえてはなかったらしい。
安堵する。
「あ、いや、すまない。ただ小説のことなんだが、もう少し貸しておいてもらえないかと思ったんだ。思ったより面白くてね。君のガイドのおかげかな。」
そう言えばリーネは丸い瞳を丸々とさせたまま「ガイド……?」と呟いた。
「ああ、まるで教科書のようにたくさんラインが引いてあってとても興味深い。」
そういうと思い当たったように「ああ!」と声を上げた。
「そうでした!私!すぐラインを引いてしまう癖があって……!!読み辛かったのではないですか?」
恥ずかしさのあまり赤くなった顔を手で隠しながら訴えてくる様子に口元が緩む。
小さい手で必死に顔を隠しても、上気した頬は隠しきれていない。
ああ、仕草も何もなんて愛くるしいのだろうか。
気付けばリーネの赤く染まった可愛い頬に手を伸ばしていた。
と、瞬時に反対の手で伸ばしかけた手を押さえ込む。
息を呑んだ。
また俺は何を?
ギュッと抑えた手を強く握る。
邪な態度をはぐらかすように落ち着いた声を出した。
「そんな事はない。もう二周目を読もうかと言うところだ。」
「……誰にも見せないでくださいね。」
何も気付かぬ様子にホッとしつつ
(誰が見せるものか)
そんな事を考えていた。
愛らしい外見からは想像もつかない知的な癖。
この癖を知る男など
俺だけでいい。
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