24 / 54
アランと悪役令嬢
今日は妹のセレーナと夕食が一緒になった。
うちの家は朝食は皆揃って食べるが夜は大抵父親が忙しく一緒ではない。
母親は父親と食べるため必然的にセレーナと二人になるのだが、それもまちまちだ。
二人で食事をする時は大抵セレーナが一方的に学校や友達の話をしているので適当に相槌を打っている。
そして今日はふと思い出したかの様にこう言い出したのだ。
「お兄様、キャリーが最近は悪役令嬢断罪劇の話ばかりするんではなくて?」
「確かにその通りだが、何故知ってる?」
そこまで言って何故知っているかを思い至る。
「お父様に面倒を見てあげろと言わているもの。同じクラスだし仕方ないわ。とは言えキャリーはクラスから浮いてしまっているから放っておいては可哀想で……最初はおとなしかったのだけれどもねえ。」
セレーナの言葉に少なからず驚く。
「随分面倒見がいいんだな。」
いつまでも我が儘な妹だと思っていたが、いつの間にやら人の世話を焼けるほどには成長していたらしい。
「まあ、お兄様!私ももう学園生。いつまでも子供じゃないのよ。」
憤慨したように言っていたがすぐに気を取り直すように咳払いをすると、先ほどの話の続きを口にする。
「どうやらお兄様に誘ってもらいたい様よ、キャリーは。」
思わず目を丸くした。
「悪役令嬢断罪劇の舞台に?」
「ええ、舞台もそうだし、小説も貸してと言われると思っているみたいだわ。」
「まさか。」
「そのまさかなのよ、お兄様。」
「悪役令嬢断罪劇など好む高位貴族など居ないだろう?」
劇で悪役令嬢と言われ断罪されるのは高位貴族の令嬢だ。
そうして断罪後王子様は平民と結婚するのが定番だ。
そんなものみたい高位貴族などいない。
「ええ……キャリーは田舎貴族だからピンと来ないのかも。私からそれとなく誘われることはないのではと言ったのだけれどね。キャリーはずっと悪役令嬢に憧れがあるらしくて。」
「悪役令嬢に憧れ?だからあんなに派手なのか?」
悪役令嬢はだいたい華やかだ。
「派手にすれば華やかになると信じているんだわ。田舎貴族にありがちね。でも癇癪を起こされたらと思うとなかなかアドバイスも出来ないわ。……本当にお兄様と真逆のタイプの婚約者ね。うまく行くのかしら。」
俺は軽くため息をつく。
「そんなことを言っても仕方がない。婚約は正式なものだ。彼女はまだお前と同じ中等部2年の14歳。まだ成長の途中だ。」
そう言いながらふと(リーネはどうなんだろうか?)と思う。
悪役令嬢断罪劇、もしかしたら好きなのかもしれない。
リーネに今度尋ねてみよう。
そう思うと子供の様にランチの時間が待ち遠しくなるのだった。
「悪役令嬢断罪ものと言う流行りに君は興味あるのか?」
そういえばリーネは驚いたようにこちらを見た。
ランチの時間、さっそく俺はリーネに話題を振っていた。
驚いた顔に俺は思わず笑みがこぼれる。
まさか俺の口から悪役令嬢断罪ものの話が出ると思わなかったんだろう。
なぜだかしてやったりと言う気分になる。
「実は私も最近まで知らなかったのです。ですが知ってからは小説を何冊も読みました……。」
何冊も読んだと言うことは、ハマったということだろうか。
そう考えていると、リーネがおずおずと切り出した。
「……お貸ししましょうか……?」
「え?」
予想外の言葉に今度はこちらが驚いた。
「あ、いえ……もちろん、アベル様さえよければ、ですが……!」
俺の反応に取ってつけた様な言葉を足してくる。
悪役令嬢断罪もの。そういった類の本は作者を変えてたくさん出ている。
リーネと同じ本を読み、話題を共有する。
そう思うとドキリと胸がなった。
「ありがとう。ぜひ貸してくれ。一度読んでみたいと思っていたんだ。」
俺の言葉に彼女は少し肩をすくめ笑みを浮かべた。
「では明日、また持ってきますね!」
約束する。
約束
約束を交わしたことは俺を浮かれさせ、『悪役令嬢断罪ものなんて読み進めることができるだろうか』という心配など吹っ飛ばすほどだった。
そうして次の日リーネに借りた本をみてそんな心配は杞憂だったと知る。
パラパラと小説をめくり、思わず吹き出してしまった。
流石はリーネ。
研究者だ。
娯楽小説だというのに、中はびっしり書き込みだらけ。
引かれているラインの意味は、と考えながら読み進めるとなかなかどうして興味深い。
伏線だったり、ヒロインや悪役令嬢の好きな宝石、癖。
全てに意味を見出そうとしている。
そして回収されない伏線にはきっちり注釈が書いてあり、また笑ってしまう。
それに比べてハーフナー伯爵令嬢は。
このような本を読んでも、悪役令嬢に憧れ自分を派手に着飾ることに夢中になっている。
だがリーネなら同じ悪役令嬢ものでもこんなに鮮やかに彩られ、あっという間に興味深い研究対象になるのだ。
そこまで考えて、勢いのまま立ち上がった。
俺は今何を考えていた?
無意識にハーフナー伯爵令嬢とリーネを比べていた。
「馬鹿な真似を……」
言いながらまたソファーに座る。
人を比べるなど品の無い事をした自分に呆れ、静かに首を振った。
手にある小説に目を落とす。
返さなくてはな
ぼんやりそんな事を思いながら、本の表紙をそっと撫でた。
すると目の前にリーネはいないと言うのに、また口にビネガーでも突っ込まれたようなすっぱい気持ちになり胸の辺りが縮こまるのだった。
うちの家は朝食は皆揃って食べるが夜は大抵父親が忙しく一緒ではない。
母親は父親と食べるため必然的にセレーナと二人になるのだが、それもまちまちだ。
二人で食事をする時は大抵セレーナが一方的に学校や友達の話をしているので適当に相槌を打っている。
そして今日はふと思い出したかの様にこう言い出したのだ。
「お兄様、キャリーが最近は悪役令嬢断罪劇の話ばかりするんではなくて?」
「確かにその通りだが、何故知ってる?」
そこまで言って何故知っているかを思い至る。
「お父様に面倒を見てあげろと言わているもの。同じクラスだし仕方ないわ。とは言えキャリーはクラスから浮いてしまっているから放っておいては可哀想で……最初はおとなしかったのだけれどもねえ。」
セレーナの言葉に少なからず驚く。
「随分面倒見がいいんだな。」
いつまでも我が儘な妹だと思っていたが、いつの間にやら人の世話を焼けるほどには成長していたらしい。
「まあ、お兄様!私ももう学園生。いつまでも子供じゃないのよ。」
憤慨したように言っていたがすぐに気を取り直すように咳払いをすると、先ほどの話の続きを口にする。
「どうやらお兄様に誘ってもらいたい様よ、キャリーは。」
思わず目を丸くした。
「悪役令嬢断罪劇の舞台に?」
「ええ、舞台もそうだし、小説も貸してと言われると思っているみたいだわ。」
「まさか。」
「そのまさかなのよ、お兄様。」
「悪役令嬢断罪劇など好む高位貴族など居ないだろう?」
劇で悪役令嬢と言われ断罪されるのは高位貴族の令嬢だ。
そうして断罪後王子様は平民と結婚するのが定番だ。
そんなものみたい高位貴族などいない。
「ええ……キャリーは田舎貴族だからピンと来ないのかも。私からそれとなく誘われることはないのではと言ったのだけれどね。キャリーはずっと悪役令嬢に憧れがあるらしくて。」
「悪役令嬢に憧れ?だからあんなに派手なのか?」
悪役令嬢はだいたい華やかだ。
「派手にすれば華やかになると信じているんだわ。田舎貴族にありがちね。でも癇癪を起こされたらと思うとなかなかアドバイスも出来ないわ。……本当にお兄様と真逆のタイプの婚約者ね。うまく行くのかしら。」
俺は軽くため息をつく。
「そんなことを言っても仕方がない。婚約は正式なものだ。彼女はまだお前と同じ中等部2年の14歳。まだ成長の途中だ。」
そう言いながらふと(リーネはどうなんだろうか?)と思う。
悪役令嬢断罪劇、もしかしたら好きなのかもしれない。
リーネに今度尋ねてみよう。
そう思うと子供の様にランチの時間が待ち遠しくなるのだった。
「悪役令嬢断罪ものと言う流行りに君は興味あるのか?」
そういえばリーネは驚いたようにこちらを見た。
ランチの時間、さっそく俺はリーネに話題を振っていた。
驚いた顔に俺は思わず笑みがこぼれる。
まさか俺の口から悪役令嬢断罪ものの話が出ると思わなかったんだろう。
なぜだかしてやったりと言う気分になる。
「実は私も最近まで知らなかったのです。ですが知ってからは小説を何冊も読みました……。」
何冊も読んだと言うことは、ハマったということだろうか。
そう考えていると、リーネがおずおずと切り出した。
「……お貸ししましょうか……?」
「え?」
予想外の言葉に今度はこちらが驚いた。
「あ、いえ……もちろん、アベル様さえよければ、ですが……!」
俺の反応に取ってつけた様な言葉を足してくる。
悪役令嬢断罪もの。そういった類の本は作者を変えてたくさん出ている。
リーネと同じ本を読み、話題を共有する。
そう思うとドキリと胸がなった。
「ありがとう。ぜひ貸してくれ。一度読んでみたいと思っていたんだ。」
俺の言葉に彼女は少し肩をすくめ笑みを浮かべた。
「では明日、また持ってきますね!」
約束する。
約束
約束を交わしたことは俺を浮かれさせ、『悪役令嬢断罪ものなんて読み進めることができるだろうか』という心配など吹っ飛ばすほどだった。
そうして次の日リーネに借りた本をみてそんな心配は杞憂だったと知る。
パラパラと小説をめくり、思わず吹き出してしまった。
流石はリーネ。
研究者だ。
娯楽小説だというのに、中はびっしり書き込みだらけ。
引かれているラインの意味は、と考えながら読み進めるとなかなかどうして興味深い。
伏線だったり、ヒロインや悪役令嬢の好きな宝石、癖。
全てに意味を見出そうとしている。
そして回収されない伏線にはきっちり注釈が書いてあり、また笑ってしまう。
それに比べてハーフナー伯爵令嬢は。
このような本を読んでも、悪役令嬢に憧れ自分を派手に着飾ることに夢中になっている。
だがリーネなら同じ悪役令嬢ものでもこんなに鮮やかに彩られ、あっという間に興味深い研究対象になるのだ。
そこまで考えて、勢いのまま立ち上がった。
俺は今何を考えていた?
無意識にハーフナー伯爵令嬢とリーネを比べていた。
「馬鹿な真似を……」
言いながらまたソファーに座る。
人を比べるなど品の無い事をした自分に呆れ、静かに首を振った。
手にある小説に目を落とす。
返さなくてはな
ぼんやりそんな事を思いながら、本の表紙をそっと撫でた。
すると目の前にリーネはいないと言うのに、また口にビネガーでも突っ込まれたようなすっぱい気持ちになり胸の辺りが縮こまるのだった。
あなたにおすすめの小説
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。
藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。
但し、条件付きで。
「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」
彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。
だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全7話で完結になります。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
元婚約者のあなたへ どうか幸せに
石里 唯
恋愛
公爵令嬢ローラは王太子ケネスの婚約者だったが、家が困窮したことから、婚約破棄をされることになる。破棄だけでなく、相愛と信じていたケネスの冷酷な態度に傷つき、最後の挨拶もできず別れる。失意を抱いたローラは、国を出て隣国の大学の奨学生となることを決意する。
隣国は3年前、疫病が広がり大打撃を受け、国全体が復興への熱意に満ち、ローラもその熱意に染まり勉学に勤しむ日々を送っていたところ、ある日、一人の「学生」がローラに声をかけてきて―――。
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。