悪役令嬢はあなたのために

くきの助

文字の大きさ
39 / 54

王都を去る

しおりを挟む
三ヶ月という短い期間で私は王都を去った。

婚約はもうすぐで一年というところで破棄された。

アラン様との婚約は田舎ではあっという間に知れ渡ったというのに、この体たらく。

両親や兄達に申し訳なくハーフナー領に帰るのも気が重かった。
夏の長期休みに入ったからと、ステラおば様も一緒にハーフナー領に戻った。

おじ様が事の顛末をお父様に手紙で送っていたので私がわざわざ話す必要はなかった。
たった三ヶ月、しかも醜聞まみれで帰ることになった私を両親も兄も、叱ることもなく気遣ってくれた。

「本当に厳罰を望まないのか?」

お父様にはそれだけを聞かれた。


厳罰を望まない。

これはロバートおじ様に伝えた事だ。

おじ様はきっちり厳罰に処してもらうと意気込んでいた。
でも私の希望も聞いてくれた。

その時に言ったのだ。
何も望まないと。

アラン様は優秀で、何より存在感があった。
きっとこの先アラン様が何かをしようとすればついて行く人がたくさんいるだろう。
人を惹きつける華があるお方だ。

私とは違い未来この国の要となる。
そんな未来を潰すなんて出来ない。

ううん……
アラン様に私が疵だと思われたくなかっただけかもしれない。
私の恋心が不運の元凶だなんて、あまりにも辛すぎる。

ロバートおじ様はわかったと言いながらもこう言った。

「リーネが望まなくても罰はある。モリス侯爵家の名に泥を塗ったのだからね。しかも犯罪まで犯しているんだ。こちらからは何も望まないとは言っておくが、侯爵がどういう罰を下すかまでは干渉できないよ。それでいいかい。」

貴族社会の事はわからない。
だから、それで良いと言った。
アラン様やセレーナ様達がその後どうなったかなどはもう聞かなかった。







秋が来て冬が来て春が来るとまた夏が来る。
王都からハーフナー領に帰ってきて一年が経とうとしていた。

私はますます研究に没頭していた。
ステラおば様から頼まれた苗の研究、父や兄達の研究、それらを数値にしたり図にしたり。
それらは楽しく、ハーフナー領から出ない私は今までと変わりなく過ごしていた。


そんなある日。
お父様のいない時に執務室に入ると新聞が置いてあった。
大きく心臓が鳴り、見出しに釘付けになる。

『若き彗星達!スラム街を変えるのか!』

そんな文字と共にアラン様の名前があった。

新聞によれば我が国のスラム街の闇は根深いと。

災害の影響でスラム街に住み着いた孤児や老人でスラム街は溢れかえっていた。
教会の管轄になるけれど従来のように保護し面倒を見るのでは手が足りない。
そこで教会はスラム街を管理把握する役目を担い、子供には知識や技術を教え、働けるものは働かせよう、そういう仕組みを学生達で考え、国に提出したという記事だった。

これはニコラス様達の勉強会のメンバーで提出したものだろう。

私なんかアラン様の疵にもならなかったわね。

思わず笑みが溢れた。

私ももうすぐ高等部に進む。
高等部に飛び級はないので学生生活をしっかり送らなければならない。

大丈夫。
私だってやれるわ。

まだ胸は痛むけれど。

顔をしっかり上げると前より景色が明るく見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

貴方が私を嫌う理由

柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。 その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。 カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。 ――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。 幼馴染であり、次期公爵であるクリス。 二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。 長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。 実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。 もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。 クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。 だからリリーは、耐えた。 未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。 しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。 クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。 リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。 ――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。 ――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。 真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

婚約者を借りパクされました

朝山みどり
恋愛
「今晩の夜会はマイケルにクリスティーンのエスコートを頼んだから、レイは一人で行ってね」とお母様がわたしに言った。 わたしは、レイチャル・ブラウン。ブラウン伯爵の次女。わたしの家族は父のウィリアム。母のマーガレット。 兄、ギルバード。姉、クリスティーン。弟、バージルの六人家族。 わたしは家族のなかで一番影が薄い。我慢するのはわたし。わたしが我慢すればうまくいく。だけど家族はわたしが我慢していることも気付かない。そんな存在だ。 家族も婚約者も大事にするのはクリスティーン。わたしの一つ上の姉だ。 そのうえ、わたしは、さえない留学生のお世話を押し付けられてしまった。

裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。

たろ
恋愛
大好きな貴方はわたしを裏切り、そして殺されました。 次の人生では幸せになりたい。 前世を思い出したわたしには嫌悪しかない。もう貴方の愛はいらないから!! 自分が王妃だったこと。どんなに国王を愛していたか思い出すと胸が苦しくなる。でももう前世のことは忘れる。 そして元彼のことも。 現代と夢の中の前世の話が進行していきます。

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

処理中です...