悪役令嬢はあなたのために

くきの助

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セレーナの後悔

「貴族の手紙を偽造するなんて大罪だ。」

次期侯爵は当たり前のように言った。

どうして?

周りの話し声がどんどん遠くなる。
自分の周りに膜が張った様に現実と思えなくなっていた。

何故ウォルターが地下牢に入ることになるの?

侯爵家の便箋も封筒も封蝋も、盗んだわけじゃない。
手紙の内容だって、大したものじゃない。
田舎貴族にちょっと嘘を吹き込んだけ。

知っているのよ。

中央貴族のご婦人方が田舎貴族をお茶会に誘って嘘の決まりを教えて影で笑い物にしていたり、鈍臭いファッションセンスを当て擦ったりしているでしょう?

それと私のやった事とどこが違うと言うの。

私は間違ってなんていない。

なのに自分が窮地に立っているような揺らぐような感覚に不安になる。

「楽しかったでしょう?」

気付けばキャリーに必死に訴えていた。

私たちの仲間に入れて喜んでいたでしょう?
キャリーが一言、はいと言えば、また私たちと今まで通り仲間で居られるわよ。

嬉しいでしょう?
友達がいなくなるのは困るでしょう?

「迷惑でしたら言ってくだされば良かったのに。」

キャリーの突き放すような一言に身動きが出来なくなる。


キャリーはトウプチ先生に大切に守られるように肩を抱かれ退室していった。

どうしてよ。

あなたみたいな田舎貴族、ここでも疎んじられているのではないの?

どうして思い通りに動かないの?




覚束ない足取りで乗り込んだ馬車の中は冷たいくらいの静寂だった。

お父様がお兄様に話して聞かせる婚約の経緯。
そこにいるキャリーは家族に愛され慈しまれていた。

誰の話?
遠くに聞こえる話は本当にキャリーの話なの……


不意にお兄様が小さく笑い出した。
ハッとしてそちらを見る。

そうよ。

きっとお兄様は喜んでいるはずだわ。
だってキャリーと婚約破棄出来たのだもの!

最後の希望の様に見たお兄様は、手紙を握りしめ震えを堪えて俯いていた。

「俺もまごうことなき共犯者だな……」

震える声でポソリとそう呟き、笑う。

サーと音が聞こえるかのように血の気が引いていく。


『君たちにとっては取るに足らぬ令嬢でも私達にとっては大事な大事な宝物なんだよ。君達がモリス侯爵家で大事にされているのと同じようにね。』


何故今、別れ際に言われた次期侯爵の言葉が頭に響くのか。


キャリーは私の思い通りに動く駒だった。
私の為に動く盤上の駒。


でも今みるみる人の形をとり始める。

キャリーをリーネと呼び、愛し慈しんでいる人達がいる。
知らぬ間にそこにお兄様も含まれていた。

その事実はゾッと私の体を冷えさせた。



駒は私と同じ人間だった。



私は人間をいいように動かし楽しんでいたのだ。


傷ついている姿こそ可笑しいのだと言わんばかりの態度で。



耐えきれずお兄様から目をそらす。

気が付けば抑えきれないほどに私も震えていた。
自分の見ている現実が耐えられないかのように。

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