5 / 56
悪女と家族 ーアベルー
しおりを挟む
そうして交流など持たぬままブリジットが来て四ヶ月が経った。
私は離れからの報告書を見ていた。
離れに新しいメイドとシェフを雇うことになったのだ。
以前予算は好きに使えばいいと言った言葉通り次の日からブリジットはドレスや装飾品、美術品、高級食材など予算ギリギリまで好きに買い始めた。
ブリジットの買い物への対応や購入した高級食材の料理や唐突に言われるおやつなど、要求に応えていると仕事ができないんだそうだ。
離れにもキッチンはあるがシェフはいなかった。
本邸からメイドをやろうかと言ったが、本邸のメイドの中でもブリジットの我儘は有名らしく、誰も行きたがらないのだという。
仕方がないのでメイドとシェフを1人ずつ雇った。
しかもこんなこと両親には言えず、私の予算から出す事になった。
思わず長いため息が出た。
「アベル様。お気持ちはわかりますが少しはブリジット様と交流を持たれてはいかがでしょうか。」
あれからもセバスは離れの話題になれば交流を持ってはどうかと言ってくる。
「会って何を言えと言うんだ?今会えば私は文句しか出てこない。しかし彼女はなぜ文句を言われなければいけないのだと言うだろう。予算を好きに使えばいいと言ったのは私だし、彼女は予算をオーバーする買い物もしたことがないのだからな。」
「ですが、いよいよそうは参りません。もうすぐルイ様の結婚式がございます。」
言われて、はたと気付いた。
そうだった。
二男のルイも私同様継ぐ爵位がなく、侯爵家に婿入りする事になっている。
その結婚式がもう間近だ。
最初はブリジットの年齢を理由に式にだけ参列してそのあとすぐ帰ると言っていた。
だがきちんと顔合わせをするべきだと両親に言われ、ルイ兄さんの結婚式の前日に子爵家のタウンハウスでブリジットと家族で一緒に晩餐をすることになっていた。
そうなるとブリジットに上手くやってもらう必要があるのだ。
そう、この結婚が契約なことはセバスしか知らない。
家族には言わぬよう固く口止めをしていた。
言えばきっと反対されるだろう。
王宮に勤め始める時期というのは一年に一回、4月と決まっている。
それを逃せばまた一年待たねばならない。
そうしてその一年後また王宮から声が掛かるかどうかなんてわからないのだ。
後がない。
そのためには家族に契約婚などと悟られぬようブリジットに上手くやってもらわなければいけなかった。
この契約を決して口外しないというのも契約の一つだ。
きちんと遂行してくれればいいのだが……。
「いやあ!こんな美少女が義娘になるなんてなあ!」
父上はこれでもかと言うくらい鼻の下を伸ばしていた。
晩餐が終わりとっとと用意してもらった部屋に帰ろうとすると、止められた。
そうして今はドローイングルームでソファーに座ったブリジットを囲み、つまみとワイン片手に談笑している。
私もワインを飲みながら少し離れたところに立っていた。
行きの馬車の中でくれぐれも家族に契約を感付かれぬ様にと申し出ると、ブリジットはあっさり了承してくれた。
そうして言葉通り笑顔で家族とうまく話してくれている。
「うちは見事に男ばかり4人続いたものね。義娘ができて嬉しいわ。」
「おやおや、母上に気に入られたら大変そうだ。毎日お茶に付き合わされるぞ!」
母上の言葉に軽口を叩く長兄のポールも顔が緩みっぱなしだ。
「子爵様は……」
ブリジットが口を開くと間髪入れずに
「子爵様だなんて!お義父様とよんでくれていいんだよ!」
とまで言い出していた。
しかしもっと見ていられないのは17歳の弟のデイビットだ。
「学園には通わないの?」
「今時、結婚していても通う子は多いよ?」
「僕なら通わせてあげるのに!」
「勉強は僕が教えてあげるよ。」
「学園に来たら僕が案内するからね。」
などとブリジットの横に座り頬を染めて話し続けている。
ああ、デイビット。
純朴そうに見えるがそいつは悪女だ。
思わずハラハラと見守ってしまう。
「そうですね。デイビット様と学園に通えば楽しそうですね。」
ブリジットはふふと上品に笑う。
パアア
わかりやすくデイビットの顔が明るくなった。
もう完全に落ちているじゃないか!
「心配?」
不意に話しかけられた。
声の方を見ればいつの間にか母上がそばに立っていた。
「大丈夫よ、あの子はしっかりしているわ。」
驚く私にそう言った。
いや、心配しているのはデイビットの事だ。
しかしそんな事言えるはずもない。
黙り込んだ私をみて母上はクスッと笑うとブリジットの方に向き直る。
「それにしても綺麗な子ねえ。所作も上品で完璧。王族といっても通りそうね。」
感心する様に言うと可笑しそうに笑う。
「あなたが落ちたのもわかるわ。」
は?
「なんのことだ?」
「あら?殺してしまいそうな目つきでデイビットのことを見てたわよ?」
声音は愉しそうだ。
殺してしまいそうな目つき?
「見ていない。」
「何言ってるんだ。デイビットがビジイの横に座った時から凄い目をしてたぞ?」
いつの間にかこちらにポール兄さんまで来ていた。
なんでそんな事になってるんだ!
反論しようと口を開きかけたが母上の方が先に口を開いた。
「ああ、もうそろそろ収拾つかなくなりそうね。」
そう言いながらパンパンと手を叩いた。
「ほらほらビジイが困っているわ!そろそろ部屋に帰りましょうか。」
母上が2人を嗜める。
いや、ちょっと待ってくれ。
どうして2人してそんな勘違いをしているんだ。
そう思ってハッとする。
まさかブリジットも?
この2人が勘違いしたようにブリジットも勘違いしていてもおかしくはない。
勘弁してくれ。
そんな事を思われたらその時こそ予算を超えた買い物が始まるに違いない。
それこそキッパリと否定しなければ。
そして契約以上のことはする気はないと。
きっちり2年で離婚してもらうと。
念押ししなければ。
私はぎゅっと拳を握りしめた。
私は離れからの報告書を見ていた。
離れに新しいメイドとシェフを雇うことになったのだ。
以前予算は好きに使えばいいと言った言葉通り次の日からブリジットはドレスや装飾品、美術品、高級食材など予算ギリギリまで好きに買い始めた。
ブリジットの買い物への対応や購入した高級食材の料理や唐突に言われるおやつなど、要求に応えていると仕事ができないんだそうだ。
離れにもキッチンはあるがシェフはいなかった。
本邸からメイドをやろうかと言ったが、本邸のメイドの中でもブリジットの我儘は有名らしく、誰も行きたがらないのだという。
仕方がないのでメイドとシェフを1人ずつ雇った。
しかもこんなこと両親には言えず、私の予算から出す事になった。
思わず長いため息が出た。
「アベル様。お気持ちはわかりますが少しはブリジット様と交流を持たれてはいかがでしょうか。」
あれからもセバスは離れの話題になれば交流を持ってはどうかと言ってくる。
「会って何を言えと言うんだ?今会えば私は文句しか出てこない。しかし彼女はなぜ文句を言われなければいけないのだと言うだろう。予算を好きに使えばいいと言ったのは私だし、彼女は予算をオーバーする買い物もしたことがないのだからな。」
「ですが、いよいよそうは参りません。もうすぐルイ様の結婚式がございます。」
言われて、はたと気付いた。
そうだった。
二男のルイも私同様継ぐ爵位がなく、侯爵家に婿入りする事になっている。
その結婚式がもう間近だ。
最初はブリジットの年齢を理由に式にだけ参列してそのあとすぐ帰ると言っていた。
だがきちんと顔合わせをするべきだと両親に言われ、ルイ兄さんの結婚式の前日に子爵家のタウンハウスでブリジットと家族で一緒に晩餐をすることになっていた。
そうなるとブリジットに上手くやってもらう必要があるのだ。
そう、この結婚が契約なことはセバスしか知らない。
家族には言わぬよう固く口止めをしていた。
言えばきっと反対されるだろう。
王宮に勤め始める時期というのは一年に一回、4月と決まっている。
それを逃せばまた一年待たねばならない。
そうしてその一年後また王宮から声が掛かるかどうかなんてわからないのだ。
後がない。
そのためには家族に契約婚などと悟られぬようブリジットに上手くやってもらわなければいけなかった。
この契約を決して口外しないというのも契約の一つだ。
きちんと遂行してくれればいいのだが……。
「いやあ!こんな美少女が義娘になるなんてなあ!」
父上はこれでもかと言うくらい鼻の下を伸ばしていた。
晩餐が終わりとっとと用意してもらった部屋に帰ろうとすると、止められた。
そうして今はドローイングルームでソファーに座ったブリジットを囲み、つまみとワイン片手に談笑している。
私もワインを飲みながら少し離れたところに立っていた。
行きの馬車の中でくれぐれも家族に契約を感付かれぬ様にと申し出ると、ブリジットはあっさり了承してくれた。
そうして言葉通り笑顔で家族とうまく話してくれている。
「うちは見事に男ばかり4人続いたものね。義娘ができて嬉しいわ。」
「おやおや、母上に気に入られたら大変そうだ。毎日お茶に付き合わされるぞ!」
母上の言葉に軽口を叩く長兄のポールも顔が緩みっぱなしだ。
「子爵様は……」
ブリジットが口を開くと間髪入れずに
「子爵様だなんて!お義父様とよんでくれていいんだよ!」
とまで言い出していた。
しかしもっと見ていられないのは17歳の弟のデイビットだ。
「学園には通わないの?」
「今時、結婚していても通う子は多いよ?」
「僕なら通わせてあげるのに!」
「勉強は僕が教えてあげるよ。」
「学園に来たら僕が案内するからね。」
などとブリジットの横に座り頬を染めて話し続けている。
ああ、デイビット。
純朴そうに見えるがそいつは悪女だ。
思わずハラハラと見守ってしまう。
「そうですね。デイビット様と学園に通えば楽しそうですね。」
ブリジットはふふと上品に笑う。
パアア
わかりやすくデイビットの顔が明るくなった。
もう完全に落ちているじゃないか!
「心配?」
不意に話しかけられた。
声の方を見ればいつの間にか母上がそばに立っていた。
「大丈夫よ、あの子はしっかりしているわ。」
驚く私にそう言った。
いや、心配しているのはデイビットの事だ。
しかしそんな事言えるはずもない。
黙り込んだ私をみて母上はクスッと笑うとブリジットの方に向き直る。
「それにしても綺麗な子ねえ。所作も上品で完璧。王族といっても通りそうね。」
感心する様に言うと可笑しそうに笑う。
「あなたが落ちたのもわかるわ。」
は?
「なんのことだ?」
「あら?殺してしまいそうな目つきでデイビットのことを見てたわよ?」
声音は愉しそうだ。
殺してしまいそうな目つき?
「見ていない。」
「何言ってるんだ。デイビットがビジイの横に座った時から凄い目をしてたぞ?」
いつの間にかこちらにポール兄さんまで来ていた。
なんでそんな事になってるんだ!
反論しようと口を開きかけたが母上の方が先に口を開いた。
「ああ、もうそろそろ収拾つかなくなりそうね。」
そう言いながらパンパンと手を叩いた。
「ほらほらビジイが困っているわ!そろそろ部屋に帰りましょうか。」
母上が2人を嗜める。
いや、ちょっと待ってくれ。
どうして2人してそんな勘違いをしているんだ。
そう思ってハッとする。
まさかブリジットも?
この2人が勘違いしたようにブリジットも勘違いしていてもおかしくはない。
勘弁してくれ。
そんな事を思われたらその時こそ予算を超えた買い物が始まるに違いない。
それこそキッパリと否定しなければ。
そして契約以上のことはする気はないと。
きっちり2年で離婚してもらうと。
念押ししなければ。
私はぎゅっと拳を握りしめた。
90
あなたにおすすめの小説
【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
【完結】出来損ないと罵られ続けた“無能な姫”は、姉の代わりに嫁ぐ事になりましたが幸せです ~あなた達の後悔なんて知りません~
Rohdea
恋愛
──隠されていた私の真実(ほんとう)の力はあなたに愛されて知りました。
小国の末姫、クローディアは、王族なら誰もが持つはずの特殊能力を授からなかったせいで、
誰からも愛されず“無能な姫”と罵られて来た。
そんなある日、大国の王から姉に縁談話が舞い込む。
王妃待遇だけど後妻、年齢も親子ほど離れている為、
泣いて嫌がった姉は自分の身代わりとしてクローディアを嫁がせればいいと言う。
反発するクローディア。
しかし、国としてクローディアは身代わりとして嫁ぐ事が決定してしまう。
罪悪感に苛まれたまま、大国に嫁いでいくクローディア。
しかし、何故かそんなクローディアを出迎えたのは……
(あれ? 私、後妻になるのでは??)
それだけでなく、嫁ぎ先での生活は想像したものと大きく違っていた。
嫁いだ先でクローディアは愛される事を知り、
また、自分に隠された真実(ほんとう)の力を知る事になる。
一方、何も知らず“無能な姫”だと言ってクローディアを手放した祖国の者達は──……
婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?
みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。
婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。
なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。
(つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?)
ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる?
※他サイトにも掲載しています。
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
【完結】真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。
たまこ
恋愛
真面目が信条の眼鏡女子カレンは、昔からちょっかいを掛けてくる、軽薄な近衛騎士ウィリアムの事が大嫌い。いつも令嬢に囲まれているウィリアムを苦々しく思っていたのに、ウィリアムと一夜を共にしてしまい、嫌々ながら婚約を結ぶことに•••。
ウィリアムが仕える王太子や、カレンの友人である公爵令嬢を巻き込みながら、何故か求愛してくるウィリアムと、ウィリアムの真意が分からないカレン。追いかけっこラブストーリー!
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる