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契約と把握 ーブリジットー
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「あ、目を覚まされました!奥様!ブリジット様が!」
慌ただしく動き出す気配がする。
ここは。
私はどうしたんだったか。
ぼんやりとした頭がはっきりしてくると、バタバタと使用人が出入りしているのがわかる。
起きあがろうと手をついて、痛くてまたベッドに倒れ込む。
「だめよ、ビジイ。あなた腕の傷がまたひろがってしまうわ。」
ふとみると居たのはスラビーズ子爵夫人ガネットだ。
「寝ている間に丁寧に縫ってもらったわ。あまり目立たないようになるとは言われたけれども、まだ気をつけなければね。」
ベッドサイドに座りながら夫人は優しく微笑んだ。
反対の手を使ってブリジットは起き上がる。
すると夫人が水を手渡してくれたので、水を飲んだ。
「喉も渇いたでしょうね。ぐっすり寝ていたわ。今はもうお昼よ。」
お昼……
誰に言うともなくブリジットは呟くとハッとする。
「アリス様は?」
そう言うと、起きて第一声がそれとはね、と苦笑しながらもガネット夫人は教えてくれる。
アリスから話を聞こうにも取り乱して話にならないので、セドリックを宿から呼び出し、今は離れにいるそうだ。もちろん監視付きで。
ガネット夫人は元々カトリの件でこちらに来る予定だったと言い、
「そうしたら貴方が刺されたというのだから驚いたわ。」
そう困った様に言った。
刺された。
確かにアリスの手にはナイフが握られていた。
「腕を切りつけたのを見た門衛がアリス嬢を取り押さえたのよ。貴方は腕からの出血と疲労と思い込みもあるかしらね。気絶しただけのようよ。お医者様が言っていたわ。」
(どうしよう。)
なぜこんなことに、と言われたらどう説明したらいいのか。
そう考えると気まずくなりガネット夫人から目を逸らす。
「可愛い娘が無事でよかったわ。」
そういうとガネット夫人は優しく頭を撫でてくれた。
ブリジットは胸がズキリと痛んだ。
(また、だ。)
また同じ事の繰り返している。
優しい人を騙している。
義娘になったから心配してくれているのに、私は2年でこの家を去るのだ。
ブリジットはシーツをぎゅっと握りしめた。
アリスの事はどこまで話してよくてどれを隠さねばならないのか。
セドリックとアベルはどこまで話しているのか。
また嘘を吐かねばならないのか。
するとシーツを握りしめてる手にそっとガネット夫人の手が重ねられた。
驚いて夫人を見上げるブリジットにガネット夫人は柔らかく微笑み返した。
「大丈夫。何も心配しなくていいのよ。全部知っているわ。」
ブリジットは目を大きく見開いた。
全部知っているとは?
ブリジットの疑問を見透かしたようにガネット夫人は言葉を重ねる。
「全部よ。あなたがゴスルジカ公爵家に嫁ぐことになった経緯も、アリス嬢との事も、あなたの不名誉な噂の事も。」
そこまで言うと困ったように眉を下げ「アベルとの契約の話もね。」と言った。
ブリジットは混乱のあまり瞬きもできずにいた。
「だから大丈夫よ。何も心配しなくていいわ。あなたのいい様にしましょう。」
優しくブリジットの手を撫でる。
私のいい様に?
そんなの許されるはずがない。
ブリジットは堪えきれず目線を落とす。
「ヒステマラ伯爵領に帰るのもいいわ。ご両親も心配しているわ。」
ブリジットは弾かれた様に顔を上げた。
ガネット夫人が優しく微笑んでいる。
ブリジットはゆっくり首を振る。
「うそです……心配なんて……」
していない。語尾は言えなかった。
「嘘なんかじゃないわ。」
「怒っている」
「怒ってなんていないわ。」
「うそよ……」
ブリジットは到底信じられなかった。
期待に応えられず、約束も破って、逃げるようにこの国に来たのに。
失望し怒っていて当然だと思っていた。
「本当よ。あなたを心配してヒステマラ領から出した事を随分後悔されているわ。」
まるで聞いて来た様な言いっぷりに、え、と声が漏れる。
「ゴスルジカ公爵夫人から事情はきいているのよ。貴方のご両親はあなたに辛い思いをさせたと泣いておられたそうよ。」
ゴスルジカ公爵夫人から?
「ご両親だけじゃない。公爵夫婦も全て知っているわ。その上で、あなたのことを心配しているの。」
ブリジットの瞳が揺れる。
「全て知ってる……」
「ええ、そうよ。」
そういうとガネット夫人はまた優しく頭を撫でた。
「ひとりで全部抱えて、よく頑張ったわね。」
もっと早く助けてあげられなくてごめんなさいね。
そう言いながら頭を撫で続ける。
ついにブリジットの瞳から涙がぼろぼろと溢れ出すと切り裂くような声をあげた。
夫人がブリジットをぎゅっと抱きしめると、ブリジットも子供のように夫人に縋りつく。
ブリジットはキーキーと自分でも何を言ってるのかわからない悲鳴をあげながら泣き喚いていた。
しばらくすると自分のキンキン声が何を言っているのかようやく理解する。
(そう……わたし)
何かが合点がいったようにストンとブリジットの中におちた。
(わたし、ずっと皆に謝りたかったのよ……)
謝りながら泣き叫ぶブリジットをガネット夫人はずっと優しく背中を撫でていた。
泣き疲れて眠るまで。
慌ただしく動き出す気配がする。
ここは。
私はどうしたんだったか。
ぼんやりとした頭がはっきりしてくると、バタバタと使用人が出入りしているのがわかる。
起きあがろうと手をついて、痛くてまたベッドに倒れ込む。
「だめよ、ビジイ。あなた腕の傷がまたひろがってしまうわ。」
ふとみると居たのはスラビーズ子爵夫人ガネットだ。
「寝ている間に丁寧に縫ってもらったわ。あまり目立たないようになるとは言われたけれども、まだ気をつけなければね。」
ベッドサイドに座りながら夫人は優しく微笑んだ。
反対の手を使ってブリジットは起き上がる。
すると夫人が水を手渡してくれたので、水を飲んだ。
「喉も渇いたでしょうね。ぐっすり寝ていたわ。今はもうお昼よ。」
お昼……
誰に言うともなくブリジットは呟くとハッとする。
「アリス様は?」
そう言うと、起きて第一声がそれとはね、と苦笑しながらもガネット夫人は教えてくれる。
アリスから話を聞こうにも取り乱して話にならないので、セドリックを宿から呼び出し、今は離れにいるそうだ。もちろん監視付きで。
ガネット夫人は元々カトリの件でこちらに来る予定だったと言い、
「そうしたら貴方が刺されたというのだから驚いたわ。」
そう困った様に言った。
刺された。
確かにアリスの手にはナイフが握られていた。
「腕を切りつけたのを見た門衛がアリス嬢を取り押さえたのよ。貴方は腕からの出血と疲労と思い込みもあるかしらね。気絶しただけのようよ。お医者様が言っていたわ。」
(どうしよう。)
なぜこんなことに、と言われたらどう説明したらいいのか。
そう考えると気まずくなりガネット夫人から目を逸らす。
「可愛い娘が無事でよかったわ。」
そういうとガネット夫人は優しく頭を撫でてくれた。
ブリジットは胸がズキリと痛んだ。
(また、だ。)
また同じ事の繰り返している。
優しい人を騙している。
義娘になったから心配してくれているのに、私は2年でこの家を去るのだ。
ブリジットはシーツをぎゅっと握りしめた。
アリスの事はどこまで話してよくてどれを隠さねばならないのか。
セドリックとアベルはどこまで話しているのか。
また嘘を吐かねばならないのか。
するとシーツを握りしめてる手にそっとガネット夫人の手が重ねられた。
驚いて夫人を見上げるブリジットにガネット夫人は柔らかく微笑み返した。
「大丈夫。何も心配しなくていいのよ。全部知っているわ。」
ブリジットは目を大きく見開いた。
全部知っているとは?
ブリジットの疑問を見透かしたようにガネット夫人は言葉を重ねる。
「全部よ。あなたがゴスルジカ公爵家に嫁ぐことになった経緯も、アリス嬢との事も、あなたの不名誉な噂の事も。」
そこまで言うと困ったように眉を下げ「アベルとの契約の話もね。」と言った。
ブリジットは混乱のあまり瞬きもできずにいた。
「だから大丈夫よ。何も心配しなくていいわ。あなたのいい様にしましょう。」
優しくブリジットの手を撫でる。
私のいい様に?
そんなの許されるはずがない。
ブリジットは堪えきれず目線を落とす。
「ヒステマラ伯爵領に帰るのもいいわ。ご両親も心配しているわ。」
ブリジットは弾かれた様に顔を上げた。
ガネット夫人が優しく微笑んでいる。
ブリジットはゆっくり首を振る。
「うそです……心配なんて……」
していない。語尾は言えなかった。
「嘘なんかじゃないわ。」
「怒っている」
「怒ってなんていないわ。」
「うそよ……」
ブリジットは到底信じられなかった。
期待に応えられず、約束も破って、逃げるようにこの国に来たのに。
失望し怒っていて当然だと思っていた。
「本当よ。あなたを心配してヒステマラ領から出した事を随分後悔されているわ。」
まるで聞いて来た様な言いっぷりに、え、と声が漏れる。
「ゴスルジカ公爵夫人から事情はきいているのよ。貴方のご両親はあなたに辛い思いをさせたと泣いておられたそうよ。」
ゴスルジカ公爵夫人から?
「ご両親だけじゃない。公爵夫婦も全て知っているわ。その上で、あなたのことを心配しているの。」
ブリジットの瞳が揺れる。
「全て知ってる……」
「ええ、そうよ。」
そういうとガネット夫人はまた優しく頭を撫でた。
「ひとりで全部抱えて、よく頑張ったわね。」
もっと早く助けてあげられなくてごめんなさいね。
そう言いながら頭を撫で続ける。
ついにブリジットの瞳から涙がぼろぼろと溢れ出すと切り裂くような声をあげた。
夫人がブリジットをぎゅっと抱きしめると、ブリジットも子供のように夫人に縋りつく。
ブリジットはキーキーと自分でも何を言ってるのかわからない悲鳴をあげながら泣き喚いていた。
しばらくすると自分のキンキン声が何を言っているのかようやく理解する。
(そう……わたし)
何かが合点がいったようにストンとブリジットの中におちた。
(わたし、ずっと皆に謝りたかったのよ……)
謝りながら泣き叫ぶブリジットをガネット夫人はずっと優しく背中を撫でていた。
泣き疲れて眠るまで。
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