変人令息は悪女を憎む

くきの助

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契約と元夫の婚約者 ーブリジットー

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ブリジットは寝返りを打った。
今夜何度目の寝返りだろうか。
眠れるはずもない。

明日にはブリジットにも話を聞かれるだろう。
そうは言ってもマリーに言われたままを言うだけなのだが。

アベルに予算を好きにしていいと言われてる、なんてどうせマリーの戯言だろうとブリジットはわかっていた。
それでも黙っていたのだから何か咎められるかもしれない、などと考える。
とはいえマリーの事などあまり興味はなかった。

そんなことよりセドリックとアベルがどんな話をしたのか。
気になるものの分からず、1人ベッドで悶々と過ごすことになった。

ふと窓を見ると空が白み始めていた。
ああ、と声が出そうになる。
結局眠れなかった、と諦めにも似た気持ちでベッドから起き上がる。

窓際の椅子に座り少しずつ明るくなりだした空を眺める。
これからどうなるのだろうか。
アベルはもう王宮に勤めている。
離婚しても問題はない。

今回のことを理由に離婚されても仕方ないと思った。
そこまで考えて思わず独り笑う。

(また途中で契約破棄だわ。)

あまりにも自分が滑稽だった。

そして自分の身の振り方くらい考えておかねば……などと思った時だった。

空はずいぶん明るくなり始め窓の外の風景もわかる様になってきた。
屋敷の高い柵の向こうに人影が見える。

ブリジットは息を呑んだ。
立ち上がり部屋を出ていこうとして寝衣だったことを思い出す。
慌てて着替え、部屋を飛び出した。

あれは。
でもまさか。

いや、でも薄明かりの中でもわかるあの珍しい髪色。

急いで門まで行けば門衛の1人に止められる。

「こんな早朝にどこに行くのですか。」

外には出られませんよ、とたしなめる様に言われた。

それならばと止めてきた門衛に頼む。
しばらく待っていると門衛が女性と2人で戻ってきた。

俯き加減の女性はプラチナピンクの髪の洗練された美しさを持っていた。

見間違えるはずがない。
確かにブリジットはゴスルジカ公爵家のバルコニーから見たことがあるのだ。
あの時は嫉妬に燃えた瞳でブリジットを見ていた。

「アリス様……ですよね?」

遠慮がちに問うと俯き加減の女性はゆっくり顔を上げた。
ピンクがかった瞳がブリジットを捉える。
神秘的であるはずのその瞳にブリジットは背中に氷水でもかけられた様にぞっとした。

明け方だからだろうか。
瞳に光が無い気がした。
アリスはブリジットの問いに答えることはなく無言で立ち尽くしている。

様子が変だ。

(勝手に家に入れていいものだろうか。)

しかしセドリックの恋人だ。

「アリス様とりあえず中に。」

そう言ってブリジットは促すように歩き出した。

「アリス様も小公爵様とこちらの国にいらしていたのですね。」

「……セディから聞いてるんじゃないの?」

「え?」

アリスの声が遠くに聞こえ、驚いて振り返る。

アリスは歩き出したブリジットの後を付いてきておらず、門にいたままだった。

「アリス様?」

「会ってたんでしょ?昨日。知ってるのよ、この屋敷に来てた事は。」

話しながらどんどん声が大きくなる。
門衛は困惑した顔でアリスとブリジットを見比べるように忙しく瞳を動かしていた。

「やっとあんたが隣国に行ったと思っていたのに!どうせ昨日も2人で私のこと笑ってたんでしょう!」

アリスの目はあのバルコニーから見た瞳と同じ色をたたえていた。

(なぜ?)

ブリジットは混乱した。
その時だった。

「ブリジット!」

屋敷の方から叫ぶ声が聞こえた。
其方をみるとアベルがこちらの方に向かって走ってきている。

見知らぬ女性を引き入れてるように思われたらしい。
説明をしなくては。

「アベル様、この方は……」

そう言ってアベルの方に体を向けた時だった。

ドン、とブリジットに誰かがぶつかった。
ピリッと衝撃が走り、ブリジットがそちらに振り返る。

離れて立っていたはずのアリスが間近にいた。

あの燃えるような目でブリジットを睨め付けながら大きく手を振り上げた。
その光景は時が止まったようにゆっくりに見えた。

どこか他人事の様に振り下ろされる手を見ながら、ぼんやりと考える。

(田舎娘が分不相応な夢を見た結果ね。)

田舎娘は田舎にいればよかったのだ。

あきらめたように目を閉じるとアベルが絶叫するかのようにブリジットの名を呼んでいるのが聞こえた。

それが最後の記憶。
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