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17.絆をつなぐ料理
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希望の麦を抱え市庁舎へ。厨房で待っていたミランダに麦の袋を見せると、彼女は疑わしげに一粒つまみ、吟味する。
「…なるほどね。確かに今まで使ってきた麦とは違う粘り気を感じる」
「ええ、だからこそ『うどん』に最適なのです。ミランダさん、あなたの力を貸してください。私の知識とあなたの技術があればきっと最高のものが作れます」
「ははは! 市長直々の依頼とあっちゃ、断れないね。あたしの腕が錆びついてないか見せてやるよ!」
そこから私たちの試行錯誤の日々が始まった。前世の記憶を頼りに手順を説明し、彼女が料理人としての経験則でそれを形にしていく。小麦粉と塩水の配分を何度も変え、仕上がった生地を大きな布で包む。
「さあ、ここからが肝心です。これを足で踏みます」
「はあ!? 足で踏むだって? なんて罰当たりな……!」
驚き呆れるミランダをなだめ、清潔な布の上からリズミカルに生地を踏みしめていく。最初は戸惑っていた彼女も踏むほどに生地が弾力を帯び、なめらかになっていく様子に目を見張った。出来上がった生地を棒で伸ばし、均一な太さに切り分け、麺を仕上げる。
麺の目処は立った。次なる壁は出汁。この世界には昆布も鰹節もない。途方に暮れかけた私にミランダは腕を組んで言った。
「ないものねだりをしてても始まらないよ。市長、あんたが私たちに教えてくれたじゃないか。ここにあるもので何ができるか考えるんだろ?」
その言葉に私ははっとした。そうだ、代替案を探せばいい。目を付けたのは、キノコ栽培プロジェクトで安定供給が可能になった数種類の干しキノコ。私たちはそれぞれのキノコが持つ風味や旨味を一つ一つ確かめ、最適なブレンドを探った。香りの強いもの、深いコクが出るもの、すっきりとした後味を残すもの。何度も組み合わせを変え、火加減を調整し、ようやく納得のいくものが完成した。
「……信じられないね。キノコだけでこんな出汁が取れるなんて」
ミランダが味見用の匙を手に、驚きの声を漏らした。
そこへ、ファーゴ率いる警備隊が威勢のいい声を上げながら駆け込んできた。
「市長! ご依頼の品、とびきり上等なやつを仕留めてきやしたぜ!」
彼らが担いできたのは見事な角を持つ鹿。街の安全を守るだけでなく、今や彼らは食料調達においても重要な役割を担ってくれていた。
ミランダはその新鮮な肉を手際よく捌き、甘辛く煮付けていく。全ての準備が整った。茹で上がったばかりのつややかなうどんを器に入れ、熱々の出汁を注ぎ、最後にたっぷりと肉を乗せる。アトランシア初の『肉うどん』が、湯気の向こうで輝いていた。
二人で向かい合い、恐る恐る麺をすする。力強いコシのある麺、きのこの旨味が溶け込んだ優しい出汁、そして獣肉のコクと甘み。それらが一体となって口の中に広がり、体の芯からじんわりと温まっていく。
「麺のコシ、つゆの深み……たまんないね。それに肉の脂がいい仕事してるじゃないか。よし、これなら私が太鼓判押すよ。うまい!」
自然と涙がこぼれそうになった。それはミランダも同じだったようで、彼女はしばらくうどんを味わった後、ふうっと長い息を吐いて私を見た。
「あたしはね、市長。宮廷を追われてこの街に来てから、もう二度と心から料理を楽しめる日なんて来ないと思ってた。ただ腹を満たすためだけの作業さ。でも……違ったね。こうして新しい食材で未知の料理に挑んで……完成したものが人を幸せな気持ちにさせる。こんなに胸が熱くなったのは本当に久しぶりだよ!」
彼女の目にはうっすらと光るものがあった。
「ありがとう、ルティア市長。あんたのおかげで、あたしはまた料理人になれたよ」
私はミランダに力強く微笑み返した。
「礼を言うのは私の方です、ミランダさん。あなたの技術と情熱がなければただの空想で終わっていた。この一杯でアトランシアの皆の心を繋いでいきましょう!」
「…なるほどね。確かに今まで使ってきた麦とは違う粘り気を感じる」
「ええ、だからこそ『うどん』に最適なのです。ミランダさん、あなたの力を貸してください。私の知識とあなたの技術があればきっと最高のものが作れます」
「ははは! 市長直々の依頼とあっちゃ、断れないね。あたしの腕が錆びついてないか見せてやるよ!」
そこから私たちの試行錯誤の日々が始まった。前世の記憶を頼りに手順を説明し、彼女が料理人としての経験則でそれを形にしていく。小麦粉と塩水の配分を何度も変え、仕上がった生地を大きな布で包む。
「さあ、ここからが肝心です。これを足で踏みます」
「はあ!? 足で踏むだって? なんて罰当たりな……!」
驚き呆れるミランダをなだめ、清潔な布の上からリズミカルに生地を踏みしめていく。最初は戸惑っていた彼女も踏むほどに生地が弾力を帯び、なめらかになっていく様子に目を見張った。出来上がった生地を棒で伸ばし、均一な太さに切り分け、麺を仕上げる。
麺の目処は立った。次なる壁は出汁。この世界には昆布も鰹節もない。途方に暮れかけた私にミランダは腕を組んで言った。
「ないものねだりをしてても始まらないよ。市長、あんたが私たちに教えてくれたじゃないか。ここにあるもので何ができるか考えるんだろ?」
その言葉に私ははっとした。そうだ、代替案を探せばいい。目を付けたのは、キノコ栽培プロジェクトで安定供給が可能になった数種類の干しキノコ。私たちはそれぞれのキノコが持つ風味や旨味を一つ一つ確かめ、最適なブレンドを探った。香りの強いもの、深いコクが出るもの、すっきりとした後味を残すもの。何度も組み合わせを変え、火加減を調整し、ようやく納得のいくものが完成した。
「……信じられないね。キノコだけでこんな出汁が取れるなんて」
ミランダが味見用の匙を手に、驚きの声を漏らした。
そこへ、ファーゴ率いる警備隊が威勢のいい声を上げながら駆け込んできた。
「市長! ご依頼の品、とびきり上等なやつを仕留めてきやしたぜ!」
彼らが担いできたのは見事な角を持つ鹿。街の安全を守るだけでなく、今や彼らは食料調達においても重要な役割を担ってくれていた。
ミランダはその新鮮な肉を手際よく捌き、甘辛く煮付けていく。全ての準備が整った。茹で上がったばかりのつややかなうどんを器に入れ、熱々の出汁を注ぎ、最後にたっぷりと肉を乗せる。アトランシア初の『肉うどん』が、湯気の向こうで輝いていた。
二人で向かい合い、恐る恐る麺をすする。力強いコシのある麺、きのこの旨味が溶け込んだ優しい出汁、そして獣肉のコクと甘み。それらが一体となって口の中に広がり、体の芯からじんわりと温まっていく。
「麺のコシ、つゆの深み……たまんないね。それに肉の脂がいい仕事してるじゃないか。よし、これなら私が太鼓判押すよ。うまい!」
自然と涙がこぼれそうになった。それはミランダも同じだったようで、彼女はしばらくうどんを味わった後、ふうっと長い息を吐いて私を見た。
「あたしはね、市長。宮廷を追われてこの街に来てから、もう二度と心から料理を楽しめる日なんて来ないと思ってた。ただ腹を満たすためだけの作業さ。でも……違ったね。こうして新しい食材で未知の料理に挑んで……完成したものが人を幸せな気持ちにさせる。こんなに胸が熱くなったのは本当に久しぶりだよ!」
彼女の目にはうっすらと光るものがあった。
「ありがとう、ルティア市長。あんたのおかげで、あたしはまた料理人になれたよ」
私はミランダに力強く微笑み返した。
「礼を言うのは私の方です、ミランダさん。あなたの技術と情熱がなければただの空想で終わっていた。この一杯でアトランシアの皆の心を繋いでいきましょう!」
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