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19.綻び始めた王都※ヴォルフside
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アトランシアへ放った偵察兵からの定期報告は、もはや俺にとって苦痛以外の何物でもなくなっていた。
「……最新の報告です。アトランシアにて『ひだまり亭』なる食堂が開かれ、連日大盛況とのこと。名物の『うどん』という料理を目当てに、近隣領のみならず、他国からの商人までもが立ち寄る新たな人の流れが生まれている、と」
読み上げる報告を俺は表情を殺して聞いていた。人の流れ。それはすなわち、富の流れ。あの不毛の地にルティアは新たな金脈を掘り当てたというのか。廃墟から資材を生み出し、誰も見向きもしなかった雑草から料理を作り出す。まるで錬金術師のように。
それに引き換え、我が王都はどうだ。邪悪なルティアを追放し、聖女エリーゼをすえたこの国は光に満ちるはずだったが、最近俺が目にするのは広がりつつある停滞感。税収は緩やかに下降線を辿り、貴族たちの間では領地の不作や交易の不振を嘆く声が囁かれ始めている。エリーゼが祈りを捧げると作物は一時的に元気になるが、それは根本的な解決にはなっていない。漠然とした不安が王都全体を覆い始めていた。
「父上、母上。アトランシアの復興は我々の想定を遥かに超える速度で進んでいます。これはもはや、あの女一人の道楽では済まされません。一つの都市国家として再興しつつあると見るべきです。我らも何らかの対策を講じなければ、いずれ力の差が……」
謁見の間で意を決して進言した俺の言葉を父上は鼻で笑って遮った。
「ヴォルフ、まだそんな戯言を信じているのか。所詮は付け焼き刃。すぐに化けの皮が剥がれるわ。それより、お前はエリーゼをしっかり守り、次代の王妃として支えることだけを考えておればよい」
「ですが!」
「お黙りなさい、ヴォルフ」
母上の冷たい声が響く。
「あなたはあの悪女にまだ未練があるのですか? エリーゼがこの王都にいらっしゃるのですよ。聖女のご加護があるこの都が、追放された罪人の拓いた土地に劣るなどあり得ないことですわ」
まるで聞く耳を持たない。二人にとってルティアは断罪した『悪』であり、その彼女が成功しているという現実は自らの判断が誤りだったと認めることに等しい。重い足取りで廊下を歩いていると、心配そうな顔をしたエリーゼが駆け寄ってきた。
「ヴォルフ様、お顔の色が優れませんわ……」
「……いや、何でもない」
「陛下方と何かございましたのね。ご心配には及びません。私がおりますもの。毎日、この都の平和と繁栄を神にお祈りしています。だから大丈夫ですわ」
純真な瞳で微笑む彼女の姿は以前なら俺の心を癒してくれたはずだった。だが今は違う。その言葉が現実からかけ離れたものに聞こえてしまう。祈りだけでは衰退していく経済を立て直すことはできない。心の中であの疑問が再び沸き上がる。
――――俺が下した断罪は本当に正しかったのだろうか。
「……最新の報告です。アトランシアにて『ひだまり亭』なる食堂が開かれ、連日大盛況とのこと。名物の『うどん』という料理を目当てに、近隣領のみならず、他国からの商人までもが立ち寄る新たな人の流れが生まれている、と」
読み上げる報告を俺は表情を殺して聞いていた。人の流れ。それはすなわち、富の流れ。あの不毛の地にルティアは新たな金脈を掘り当てたというのか。廃墟から資材を生み出し、誰も見向きもしなかった雑草から料理を作り出す。まるで錬金術師のように。
それに引き換え、我が王都はどうだ。邪悪なルティアを追放し、聖女エリーゼをすえたこの国は光に満ちるはずだったが、最近俺が目にするのは広がりつつある停滞感。税収は緩やかに下降線を辿り、貴族たちの間では領地の不作や交易の不振を嘆く声が囁かれ始めている。エリーゼが祈りを捧げると作物は一時的に元気になるが、それは根本的な解決にはなっていない。漠然とした不安が王都全体を覆い始めていた。
「父上、母上。アトランシアの復興は我々の想定を遥かに超える速度で進んでいます。これはもはや、あの女一人の道楽では済まされません。一つの都市国家として再興しつつあると見るべきです。我らも何らかの対策を講じなければ、いずれ力の差が……」
謁見の間で意を決して進言した俺の言葉を父上は鼻で笑って遮った。
「ヴォルフ、まだそんな戯言を信じているのか。所詮は付け焼き刃。すぐに化けの皮が剥がれるわ。それより、お前はエリーゼをしっかり守り、次代の王妃として支えることだけを考えておればよい」
「ですが!」
「お黙りなさい、ヴォルフ」
母上の冷たい声が響く。
「あなたはあの悪女にまだ未練があるのですか? エリーゼがこの王都にいらっしゃるのですよ。聖女のご加護があるこの都が、追放された罪人の拓いた土地に劣るなどあり得ないことですわ」
まるで聞く耳を持たない。二人にとってルティアは断罪した『悪』であり、その彼女が成功しているという現実は自らの判断が誤りだったと認めることに等しい。重い足取りで廊下を歩いていると、心配そうな顔をしたエリーゼが駆け寄ってきた。
「ヴォルフ様、お顔の色が優れませんわ……」
「……いや、何でもない」
「陛下方と何かございましたのね。ご心配には及びません。私がおりますもの。毎日、この都の平和と繁栄を神にお祈りしています。だから大丈夫ですわ」
純真な瞳で微笑む彼女の姿は以前なら俺の心を癒してくれたはずだった。だが今は違う。その言葉が現実からかけ離れたものに聞こえてしまう。祈りだけでは衰退していく経済を立て直すことはできない。心の中であの疑問が再び沸き上がる。
――――俺が下した断罪は本当に正しかったのだろうか。
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