【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

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28.老魔術師の嘆き

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老人は私たちの前に立つとじろじろと見つめ、やがて深々と頭を下げた。

「これは失礼仕った。ワシはダビデ。しがない魔法研究家じゃ。この地で稀代の魔鉱鉄が採掘されたと聞き、居ても立ってもいられず馳せ参じた次第」

ダビデという名に聞き覚えがあった。王国の宮廷に仕える高名な老魔術師。魔法工学の第一人者であり、偏屈で有名だがその知識は国宝級だと父から聞かされたことがある。

市庁舎の一室に場所を移し、改めて話を聞くことにした。ダビデは出されたお茶を一気に飲み干すと、溜息混じりに語り始めた。

「もう王都には嫌気がさしてのう。新しい発見や自由な発想を認めん頭の固い連中ばかり。くだらん派閥争いに明け暮れて、肝心の魔法の探究を疎かにしとる。ワシはただ、自由に研究がしたいだけなんじゃ」

そして彼は、私の目をまっすぐに見て言った。

「そんな折、アトランシアの噂を耳にした。驚異的な速さで復興を遂げ、ついには閉鎖鉱山から魔鉱鉄まで掘り当てたと。市長殿、ワシをこの街に置いてはくれまいか?この知識と技術、全てアトランシアのために捧げよう」

願ってもない申し出だった。彼のような人物がいれば魔鉱鉄をただ売るだけでなく、加工し、より付加価値の高い製品を生み出すことも可能になる。

承諾の言葉を口にする前に、ダビデは何かを思い出したように付け加えた。

「そうじゃ。一つ気になることがある。最近の王都…どうにもおかしくてな。緩やかじゃが経済が停滞し始めとる。まるで羅針盤を失った船のように、どこへ進んでいいのか誰もわからんような、そんな嫌な空気が漂っておるわい」

―――羅針盤を失った船。

その言葉が胸に鋭く突き刺さった。まさか。いや、でも……。王都を追放されてからしばらく経つ。匿名で様々なギルドや商会に送っていた助言は、当然ながら完全に途絶えている。私の些細な行いが知らず知らずのうちに王都の経済の潤滑油になっていたというのだろうか。

自らの力が国を支えるほどのものであったという事実に、微かな自負が胸をよぎる。けど、それ以上に湧き上がってきたのはもっとはっきりした感情。

私を信じようともせず邪悪で愚かと断罪し、全てを奪って追放した者たち。彼らは今頃、原因不明の不況に頭を悩ませているのだろうか。

「……自業自得だわ」

冷たい呟きが無意識に口から漏れた。民の暮らしを思えば胸が痛まないわけではない。けれど、彼らが招いた結果。そんな切り捨てたい思いと、それでもなお故郷を案じる気持ちがせめぎ合い、唇を噛み締めた。

目の前の老魔術師に向き直り、決意を込めて告げる。

「ダビデさん、ようこそアトランシアへ。あなたの力、ぜひこの街のためにお貸しください。共に王都が失った羅針盤よりももっと大きく、正確な未来への指針をこの地で作り上げましょう」

私の言葉にダビデは満足げに白髭を揺らした。
複雑な思いはまだ胸の奥で渦巻いている。けど今は前だけを見よう。私を信じ、共に未来を掴もうとしてくれる人々のために。このアトランシアこそが私のいるべき場所なのだから。
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