【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

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29.主導権は誰の手に

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―――魔鉱鉄の発見から一年が経過した。
アトランシア北部の鉱山地帯は今や製鉄所と工場が立ち並ぶ、街の新たな工業地帯へと生まれ変わっていた。煙突からは力強い白煙が上がり、それはアトランシアの燃え盛る生命力そのものに見えた。

ダビデを責任者として設立された開発部は彼の偏屈さに比例する圧倒的な才能と、アトランシアの職人たちの実直な技術力が見事に融合し、次々と革新的な製品を生み出していた。私たちはその魔導具にオリジナルのブランド名を冠した。

『アトラ・ワークス』

私たちが目指したのは強力な武具や一部の富裕層を喜ばせるだけの贅沢品ではない。魔鉱鉄をただ高値で売りさばくのではなく、この地で加工し、より付加価値の高い「アトランシア・ブランド」として世に送り出す。それも「人々の生活を豊かにする」という確たる理念のもとに。

最初に市場へ投入したのは、魔力を込めることで土を耕す力を増幅させる鋤や鍬、天候を予測する簡易な機能を備えた農家向けのコンパスといった農業用の魔導具。これらは周辺地域の農村で人気を博し、食糧生産性を向上させた。

そして今日、私たちは次なる大きな飛躍を賭けた交渉の席についていた。

市庁舎の応接室。絨毯が足音を吸い込む静かな空間で、向かいには大陸でも有数の商業ギルド「フェルゼ商業連合」の商会長がふんぞり返るように座っていた。

「ほう、これが噂の『アトラ・ワークス』ですか。……なるほど、面白い発想ではありますな。しかし市長殿。失礼ながら、所詮は新興の田舎ブランド。我々フェルゼ商業連合が販路を確保してやらねば、その価値も宝の持ち腐れとなりましょう」

テーブルに並べられた製品サンプルを指先で弄びながら、商会長はニヤリと笑みを浮かべた。彼が提示してきたのは、『アトラ・ワークス』の全製品に関する大陸全土での独占販売契約。その買取価格は市場価値を著しく下回る、買い叩きとしか言えないもの。

「ご提案、感謝いたします。ですがその条件ではお受けできません」

私は表情一つ変えずにきっぱりと告げた。商会長は面白くなさそうに眉をひそめた。

「市長殿、現実を見なされ。我々の流通網なくして、あなた方の製品が大陸中に広まることなどあり得ない。他の弱小商会と組んだところで、我々が少し圧力をかければすぐに干上がってしまう。これは脅しではなく、商売の道理ですぞ」
「…………」

前世で叩き込まれた経営コンサルタントとしての知識と経験が、頭の中で最適な戦略を弾き出していく。脅し、市場の独占による価格統制……彼のやり方はあまりに古く、そして巨大さゆえの隙だらけ。私はカップの紅茶を一口含み、穏やかな笑みを浮かべた。

「商会長様、少々、認識が古いようですわ」
「……何だと?」

不意を突かれたのか、商会長が目を眇める。私はテーブルに並んだ製品サンプル――鍬とコンパスをそっと彼の前へ押しやった。

「あなたがおっしゃる『流通網』とは、いわば商品を顧客へ届けるための太いパイプ。確かに素晴らしいものです。ただし、それはあくまで『作った物を運んで売る』という一昔前の考え方」
「戯言を……。商売の基本は今も昔も変わらん!」
「ええ。ですが、情報の伝わり方が変わりました」
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