【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

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30.完敗の深き一礼

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私は人差し指を立てる。

「私たちはあなた方のパイプに商品を流し込むつもりはありません。そうではなく、パイプの出口――つまり、大陸中の人々が蛇口を捻って『アトラ・ワークスの製品が欲しい!』と叫ぶ状況を作り出すのです」

商会長の顔から傲慢な笑みが消えた。私の言葉の意味を測りかねているようだ。

「実はこの『アトラ・ワークス』、すでに隣接する三つの領地の指定農村で一ヶ月間の無償貸与を行いました。その結果をまとめたものがこちらです」

懐から一枚の紙を取り出し、テーブルの上を滑らせる。そこには魔導具を導入した農村の収穫量が前年比で平均150%以上も向上したという驚くべきデータが、村長たちの署名付きで記されていた。

「この話は『奇跡の農具』という口コミで急速に広まっています。今や市庁舎には問い合わせが殺到し、生産が追い付かないほどです」

私はそこで言葉を切り、商会長の顔をまっすぐに見据えた。

「つまり、私たちはもう『買い手を探す』段階にはないのです。むしろ『誰に売るかを選ぶ』段階にあります。商会長様、あなた方の強みは巨大な流通網。しかしそれは、常に商品を流し続けなければ維持できないコストのかかる資産でもある。もし、この爆発的な需要が見込める商材が、例えばライバルの『銀翼商会』に独占的に流れることになったら……どうなるでしょう?」

商会長の額に、じわりと汗が滲むのが見えた。

「独占販売契約ですか。ええ、結構ですわ。ただし、私たちとではありません」
「……どういう意味だ?」
「あなた方、フェルゼ商業連合が『アトラ・ワークス』を『仕入れる』権利の契約ということです。他のどの商会よりも優先的に、我々の製品を買い付けることができる権利。そのための契約です」

立場が完全に逆転した。買い叩こうとしていた相手から、逆に仕入れる権利を買えと言われているのだ。

「ご提案しましょう。市場価格の9割であなた方に卸します。その代わり、大陸全土での販売価格はこちらで指定させていただき、ブランドイメージを損なう安売りは禁止。そして、初年度の最低買取保証額として金貨5万枚。これが我々の条件です」

金貨5万枚。それは彼が最初に提示してきた買取代金の数十倍にもなる額。商会長はわなわなと唇を震わせ、言葉を失っている。私は彼が言い放った言葉をそのままお返しした。

「これは脅しではありません。新しい時代の商売の道理ですわ、商会長様」

そう言って微笑むと、応接室の扉がノックされた。職員が顔を覗かせる。

「市長、お約束通り、『銀翼商会』の代表の方がお見えです」

その言葉が勝負を決する最後の一押しとなった。

長い沈黙の後、商会長はこれまでの尊大な態度を改めた。

「……完敗です、市長殿。あなたをただの幸運な小娘と侮っていた。どうか先ほどの無礼をお許しいただきたい」

彼は深々と頭を下げた。

「改めて対等なビジネスパートナーとして、交渉の席につかせてはいただけませんか」

その言葉を引き出した瞬間、私は心の中で静かに勝利を噛み締めた。
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