【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

文字の大きさ
43 / 70

43.中央銀行と独自通貨

しおりを挟む
都市を拡張してからアトランシアは一層の活気に満ち、商取引は勢いを増して拡大していた。真に強靭な経済を築くには街の隅々まで血流のように資金を循環させ、新たな事業を生み出す仕組みが必要。私は次の一手を打つ。

「―――以上が『アトランシア中央銀行』設立の趣旨です。街の富を安全に管理し、意欲ある商人や職人への融資を行うことで、経済のさらなる発展を目指します」

市庁舎の会議室。商人ギルドの代表や職人たちの親方を前に、私は熱弁を振るっていた。そして計画の核心に触れる。

「銀行設立に合わせ、アトランシア独自の通貨を発行します。王都の通貨は信用が不安定になりつつある。我々の通貨はこの街の経済的独立の象徴となるでしょう」

計画は満場一致で承認されたが一つ、大きな悩みがあった。市長室に戻り、書類を前に一人、私は頭を抱えていた。銀行の設立準備は順調に進んでいるものの、肝心の通貨名がどうしても決まらない。末永く市民の暮らしに根付くものだからこそ、みんなが愛着を持てる名前にしたい。

「また根を詰めているのか」

穏やかな声と共にドアが開き、シオンが入ってきた。クレイヴァーン領のリンゴをふんだんに使ったアップルパイを持って来てくれた。

「通貨の名前か。難航しているようだな」
「ええ。アトランシアのこれからを象徴するような力強くて希望に満ちた名前……なかなか思いつかなくて」
「ならば、その将来を生きる者たちに尋ねてみてはどうだ? 例えば……子供たちに」
「子供たちに?」

予想外の提案に私は目を瞬かせた。

「ああ。大人が考え出す名前はどうしても理屈や格式にとらわれがちだ。子供たちの発想はもっと自由で、純粋な願いが込められている。通貨名にこれほどふさわしいものはないと思うが?」

シオンの言葉は凝り固まっていた私の思考を180度変えてくれた。市民のための通貨。それも今後を担う子供たちの声を聞くこと以上に素敵な方法があるだろうか。

「……素晴らしい考えです!早速やってみます!」

すぐに市内各所にアンケート箱を設置し「アトランシアの新しいお金につけたい名前」を子供たちから募集した。街中が一種のお祭りのような雰囲気に包まれた。

そして数日後、中央広場は開票結果を待ちわびる人々で埋め尽くされていた。壇上に立った私は箱から溢れんばかりの投票用紙の山を前に、期待と緊張で胸を高鳴らせていた。

「皆さんのご協力に感謝します!それではこれより開票を始めます!」

係員が次々と名前を読み上げていく。キラキラしているから「キラ」、都市の名をもとに「アト」、世界に広がるよう「スカイ」……どれも子供らしい感性に満ちた素敵な名前ばかり。開票が進むにつれて、ある一つの名前に票が集中していることが明らかになった。

「―――ルティ」

最初にその名が呼ばれた時、私は自分の聞き間違いかと思った。しかし、それは一度では終わらない。

「ルティ、一票!」
「こちらもルティです!」
「ルティ、また入りました!」

広場が次第にどよめき始める。壇上の集計係も驚いた顔でこちらを見ている。そして最終結果が発表された。

「……以上をもちまして、投票数第一位―――『ルティ』に決定しました!」

ワァッと割れんばかりの喝采が広場を揺るがした。市民たちは互いに肩を叩き合い、まるで自分のことのように喜んでいる。その中心で、私は顔を真っ赤にして固まっていた。ルティ……それは幼い頃の私の愛称。

「ま、待ってください!私の名前なんてとんでもない!この通貨の主役は市民の皆さんです!私の名前をつけるなんて公私混同も甚だしいです!も、もう一度考え直しましょう!」

必死の訴えに広場の熱気は冷めるどころか、ますます大きくなるばかりだった。

「最高じゃあねえか!俺たち市民と市長の絆の証みてぇでよ」」
「ルティア市長が大好きだから、僕『ルティ』って書いたんだ!変えちゃいやだー!」
「大人になっても忘れたくないの。市長さんが教えてくれた“みんなで支え合う気持ち”」
「今回ばかりはわしらのわがままを聞いてくれ! わしらからの贈り物と思っておくれ!」

四方八方から飛んでくる温かい声に、私は恐縮しっぱなし。その時、隣にいたシオンが優しく微笑みながら言った。

「ルティア。これが市民たちの総意だ。君の名を永久にこの街の通貨に刻みたいと誰もが願っている。君が探していた『力強くて希望に満ちた名前』ぴったりだ」

私は溢れる涙をぐっと堪え、深々と頭を下げた。

「……わかりました。皆さんの想い、謹んでお受けします。このアトランシアの新たな通貨の名は『ルティ』です!」
その瞬間、今日一番の拍手と歓声が青空へと響き渡った。人々と隣に立つ愛する人と共に歩む未来が、黄金色に輝く通貨のように眩しく見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚
恋愛
婚約破棄―― それは、貴族令嬢ヴェルナの人生を大きく変える出来事だった。 理不尽な理由で婚約を破棄され、社交界からも距離を置かれた彼女は、 失意の中で「自分にできること」を見つめ直す。 ――守るべきは、名誉ではなく、人々の暮らし。 領地に戻ったヴェルナは、教育・医療・雇用といった “生きるために本当に必要なもの”に向き合い、 誠実に、地道に改革を進めていく。 やがてその努力は住民たちの信頼を集め、 彼女は「模範的な領主」として名を知られる存在へと成confirm。 そんな彼女の隣に立ったのは、 権力や野心ではなく、同じ未来を見据える誠実な領主・エリオットだった。 過去に囚われる者は没落し、 前を向いた者だけが未来を掴む――。 婚約破棄から始まる逆転の物語は、 やがて“幸せな結婚”と“領地の繁栄”という、 誰もが望む結末へと辿り着く。 これは、捨てられた令嬢が 自らの手で人生と未来を取り戻す物語。

婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました

かしおり
恋愛
「アメリア・ヴァルディア。君との婚約は、ここで破棄する」 王太子ロウェルの冷酷な言葉と共に、彼は“平民出身の聖女”ノエルの手を取った。 だが侯爵令嬢アメリアは、悲しむどころか—— 「では、実家に帰らせていただきますね」 そう言い残し、静かにその場を後にした。 向かった先は、聖獣たちが棲まう辺境の地。 かつて彼女が命を救った聖獣“ヴィル”が待つ、誰も知らぬ聖域だった。 魔物の侵攻、暴走する偽聖女、崩壊寸前の王都—— そして頼る者すらいなくなった王太子が頭を垂れたとき、 アメリアは静かに告げる。 「もう遅いわ。今さら後悔しても……ヴィルが許してくれないもの」 聖獣たちと共に、新たな居場所で幸せに生きようとする彼女に、 世界の運命すら引き寄せられていく—— ざまぁもふもふ癒し満載! 婚約破棄から始まる、爽快&優しい異世界スローライフファンタジー!

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

処理中です...