【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

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44.沈黙の王国

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夜の市長室。窓の外に広がるアトランシアの街の灯りは、まるで星々が地上に降りてきたかのように温かく輝いている。この光一つ一つが市民の暮らしの象徴。守るべきものがここにある。その思いが私の背筋を伸ばしてくれる。けれど、心の片隅にはどうしても晴れない霧がかかっていた。

過去の清算は済んだはずなのに、エリーゼがこぼしていった王国の惨状は私の胸に新たな影を落としていた。

訪ねてきたシオンが静かに私の隣に立った。彼は何も言わず、ただ同じ景色を眺めていたが、やがて穏やかな声で核心を突いた。

「王都のことか」
「どうしてそれを……」
「分かるさ。君の心ここにあらず、といった横顔を見ていればな」

驚いて彼を見上げると、全てを見通すような深い瞳と目が合った。私の心を覆う不安を彼はいつも正確に読み取ってしまう。

「……ええ。ヴォルフは『改めて正式な形で助力を請いに来る』と言い残し去った。あれからずいぶん経ったけど何の音沙汰もない。エリーゼの話が真実なら、王都にそれほどの猶予はないはず……」

あの時の彼の覚悟が本物だったとしたら、この沈黙は不自然。王宮で彼の動きを阻む力が働いているのかもしれない……。

自業自得だと切り捨てたはずの故郷。ただ、腐敗した王侯貴族の犠牲になるのはいつだって名もなき民衆。彼らの顔を思い浮かべると見捨てられない自分がいる。

私はシオンへ決意を込めて告げた。

「シオン。私、自分の目で王国の現状を確かめたい」

彼の表情が強張る。追放された私が王都へ向かうことがどれほど危険を伴うか、彼が懸念するのは当然だった。

「ルティア……本気か。君は追放された身だ。王都に足を踏み入れたが最後、どんな罪を着せられるか分からない」
「ええ、わかっている。だからこそ、ただの『ルティア・ヴェルフェン』としてではなくアトランシア市長として赴くの」

シオンの視線が私の次の一手を待っているのを感じる。

「市長の名において王都へ親書を送ります。内容は『深刻な経済悪化に苦しむ王都に対し、人道的見地から支援を申し出る』というもの。その支援を協議するため、アトランシア市長ルティア・ヴェルフェンを代表とする使節団を、賓客として王都に招聘すること。これを支援受け入れの条件として提示します」

王都側がこの条件を呑めば、彼らは自らの手で私の追放を事実上撤回し、私の身の安全を保障する義務を負うことになる。断れば支援を失う。これは賭けであり交渉―――。

ペンを手に取り、迷いなく親書を書き始めた。隣で見ていたシオンが、

「いかにも君らしい決断だ。承知した。最高の使者を選び、最短で王都へ届けさせよう」

力強い彼の言葉に頷き、インクに決意を込めた。この一通の書簡が停滞した運命を動かすための、新たな一石となることを信じて。
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