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69.大結婚式開催
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―――――結婚式当日。
いつもより早く目が覚めた私は、カーテンの隙間から差し込む薄明かりの中で息を整えた。窓の外、夜明け前の街はすでに静かな高揚感が息づいている。市庁舎前の広場では最後の準備に勤しむ人々の影がせわしなく動き、遠くからは厨房の活気ある声や楽団の控えめな音合わせが風に乗って聞こえてきた。
誰かの幸せを自分のことのように喜び合える人々。
この愛すべき街にたどり着けて本当によかった。
「ルティア様、おはようございます。今日という日を迎えられましたこと、心よりお慶び申し上げます」
控室に入るとミランダをはじめ、繊維ギルドの女性たちが優しい笑顔で迎えてくれた。彼女たちの手によって、私は丁寧に支度を整えられていく。鏡に映る姿が少しずつ花嫁へ。
希少な光絹で作られたウェディングドレスに袖を通す。星月夜を模した銀糸の刺繍が胸元で瞬き、幾重にも重なるスカートは動くたびに柔らかな光の波となって足元へ広がった。
「……綺麗だよ、市長」
ミランダが感極まった声で私を抱きしめてくれた。彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「あたしたちからの恩返し、受け取っておくれ」
「ミランダさん……感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」
込み上げる想いに私も涙がこぼれそうになる。これまでの道のりが脳裏を駆け巡った。絶望的な状況、数えきれないほどの困難、それでも支え続けてくれた仲間たちがいてくれた。その全てが今日のこの瞬間に繋がっている。
支度が終わる頃、扉が静かに開かれ、私の家族一同が姿を現した。母は誇らしげでありながら、どこか寂しさの滲む表情で私を見つめ、
「ルティア……まあ、なんて美しいのかしら。あなたは昔から人のことばかりで……自分の幸せはいつも後回しにしてきたでしょう? 誰よりもこの街のために尽くして、傷ついて、それでも立ち上がって……。だからね、ルティア。今日はあなたが誰よりも幸せにならなきゃ駄目よ。一生の思い出になるようにね」
「お母様……はい……!」
「さあ、行こう。君を待っている人がいる」
父の腕に手を添え、私は決意を新たに控室を後にした。市庁舎前の広場は文字通り人で埋め尽くされている。アトランシアの市民だけでなく、連合に加盟する各国からの要人、旅人までもが集まり、私たちの登場を今か今かと待ちわびている。バルコニーに現れると、歓声と拍手が空へと舞い上がった。
ファンファーレが鳴り響き、いよいよ式の始まりを告げる。父にエスコートされ、私は市庁舎の正面大階段をゆっくりと下りていく。市民たちが撒く色とりどりの花びらが、祝福のシャワーとなって私たちに降り注いだ。バージンロードの両脇には、ダビデ、バルトマー、ファーゴ、ミランダ……かけがえのない仲間たちの笑顔が並ぶ。
大理石の祭壇でシオンが待っている。父は私の手をシオンの手に渡し、「娘を頼む」と力強く告げた。シオンは深く頷き、私の手を優しく握りしめる。
「見事な晴天じゃろう。わしからのささやかな祝いの品じゃよ」
ダビデが杖を掲げると大空から柔らかな陽光が差し込み、天からの祝福のように私たち二人を照らし出した。
誓いの時。私たちは向き合い、集まってくれたすべての人々に聞こえるよう、声を張った。
「私、シオン・クレイヴァーンは、ルティア・ヴェルフェンを生涯の伴侶とすることを誓います。君は責任感が強く、放っておくとすぐに一人ですべてを背負い込もうとする。だからこれからは、君が前だけを見ている時は足元を支え、君が無理をしそうな時は全力で止め、心休まる帰る場所であり続けることを誓います」
シオンの言葉に会場から温かな笑いが漏れる。私も思わず破顔しながら彼を見つめ返した。
「私、ルティア・ヴェルフェンは、シオン・クレイヴァーンを生涯の伴侶とすることを誓います。あなたはいつも心配性で、私のことを気にかけすぎです。だからこれからは、あなたの心配を吹き飛ばすくらい隣で笑い、世界で一番過保護なあなたと白髪のおじいちゃんおばあちゃんになるまで、共に歩んでいくことを誓います」
それは愛の誓いであると同時に、この街と大陸を背負う二人のリーダーとしての固い決意表明でもあった。指輪を交換し、シオンがそっとヴェールを上げる。市民たちの温かい眼差しに見守られる中、私たちは誓いの唇を重ねた。
その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が再び広場を揺るがし、合同楽団が奏でる壮大な祝典の曲が高らかにアトランシアの空へと響き渡った。
式の後の祝宴はまさに市民総出の大パーティー。広場には長いテーブルがいくつも並べられ、ミランダ率いる料理人組合が腕によりをかけた世界各国の料理が惜しげもなく振る舞われる。陽気な音楽に合わせて人々は踊り、歌い、高々とジョッキを掲げて私たちの名を呼んだ。ファーゴの警備隊も、今日ばかりは厳しい顔を崩し、子供たちを肩車してはしゃいでいる。
夢のような時間はあっという間に過ぎ、やがて空が茜色から深い藍色へと変わっていく。人々が空を見上げ始めたその時だった。ヒュルルと夜空を切り裂くように、一筋の光が打ち上げられた。
「お任せあれ! 我々魔導師団よりお二人への祝福です!」
それを皮切りに色とりどりの魔法の花火が次々と夜空を彩る。赤、青、緑、黄金の光が大輪の花を咲かせるたび、広場からは感嘆の声が上がった。そして、祝祭のクライマックス。ひときわ大きな光の球が空高く昇り、ゆっくりと夜空に像を結んだ。そこに描かれたのは満面の笑みを浮かべる私とシオンの姿。光の粒子で描かれた私たちの笑顔は、星々よりも明るく輝いていた。市民たちの誰もが空を見上げ、その光景に心奪われていた。
いつもより早く目が覚めた私は、カーテンの隙間から差し込む薄明かりの中で息を整えた。窓の外、夜明け前の街はすでに静かな高揚感が息づいている。市庁舎前の広場では最後の準備に勤しむ人々の影がせわしなく動き、遠くからは厨房の活気ある声や楽団の控えめな音合わせが風に乗って聞こえてきた。
誰かの幸せを自分のことのように喜び合える人々。
この愛すべき街にたどり着けて本当によかった。
「ルティア様、おはようございます。今日という日を迎えられましたこと、心よりお慶び申し上げます」
控室に入るとミランダをはじめ、繊維ギルドの女性たちが優しい笑顔で迎えてくれた。彼女たちの手によって、私は丁寧に支度を整えられていく。鏡に映る姿が少しずつ花嫁へ。
希少な光絹で作られたウェディングドレスに袖を通す。星月夜を模した銀糸の刺繍が胸元で瞬き、幾重にも重なるスカートは動くたびに柔らかな光の波となって足元へ広がった。
「……綺麗だよ、市長」
ミランダが感極まった声で私を抱きしめてくれた。彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「あたしたちからの恩返し、受け取っておくれ」
「ミランダさん……感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」
込み上げる想いに私も涙がこぼれそうになる。これまでの道のりが脳裏を駆け巡った。絶望的な状況、数えきれないほどの困難、それでも支え続けてくれた仲間たちがいてくれた。その全てが今日のこの瞬間に繋がっている。
支度が終わる頃、扉が静かに開かれ、私の家族一同が姿を現した。母は誇らしげでありながら、どこか寂しさの滲む表情で私を見つめ、
「ルティア……まあ、なんて美しいのかしら。あなたは昔から人のことばかりで……自分の幸せはいつも後回しにしてきたでしょう? 誰よりもこの街のために尽くして、傷ついて、それでも立ち上がって……。だからね、ルティア。今日はあなたが誰よりも幸せにならなきゃ駄目よ。一生の思い出になるようにね」
「お母様……はい……!」
「さあ、行こう。君を待っている人がいる」
父の腕に手を添え、私は決意を新たに控室を後にした。市庁舎前の広場は文字通り人で埋め尽くされている。アトランシアの市民だけでなく、連合に加盟する各国からの要人、旅人までもが集まり、私たちの登場を今か今かと待ちわびている。バルコニーに現れると、歓声と拍手が空へと舞い上がった。
ファンファーレが鳴り響き、いよいよ式の始まりを告げる。父にエスコートされ、私は市庁舎の正面大階段をゆっくりと下りていく。市民たちが撒く色とりどりの花びらが、祝福のシャワーとなって私たちに降り注いだ。バージンロードの両脇には、ダビデ、バルトマー、ファーゴ、ミランダ……かけがえのない仲間たちの笑顔が並ぶ。
大理石の祭壇でシオンが待っている。父は私の手をシオンの手に渡し、「娘を頼む」と力強く告げた。シオンは深く頷き、私の手を優しく握りしめる。
「見事な晴天じゃろう。わしからのささやかな祝いの品じゃよ」
ダビデが杖を掲げると大空から柔らかな陽光が差し込み、天からの祝福のように私たち二人を照らし出した。
誓いの時。私たちは向き合い、集まってくれたすべての人々に聞こえるよう、声を張った。
「私、シオン・クレイヴァーンは、ルティア・ヴェルフェンを生涯の伴侶とすることを誓います。君は責任感が強く、放っておくとすぐに一人ですべてを背負い込もうとする。だからこれからは、君が前だけを見ている時は足元を支え、君が無理をしそうな時は全力で止め、心休まる帰る場所であり続けることを誓います」
シオンの言葉に会場から温かな笑いが漏れる。私も思わず破顔しながら彼を見つめ返した。
「私、ルティア・ヴェルフェンは、シオン・クレイヴァーンを生涯の伴侶とすることを誓います。あなたはいつも心配性で、私のことを気にかけすぎです。だからこれからは、あなたの心配を吹き飛ばすくらい隣で笑い、世界で一番過保護なあなたと白髪のおじいちゃんおばあちゃんになるまで、共に歩んでいくことを誓います」
それは愛の誓いであると同時に、この街と大陸を背負う二人のリーダーとしての固い決意表明でもあった。指輪を交換し、シオンがそっとヴェールを上げる。市民たちの温かい眼差しに見守られる中、私たちは誓いの唇を重ねた。
その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が再び広場を揺るがし、合同楽団が奏でる壮大な祝典の曲が高らかにアトランシアの空へと響き渡った。
式の後の祝宴はまさに市民総出の大パーティー。広場には長いテーブルがいくつも並べられ、ミランダ率いる料理人組合が腕によりをかけた世界各国の料理が惜しげもなく振る舞われる。陽気な音楽に合わせて人々は踊り、歌い、高々とジョッキを掲げて私たちの名を呼んだ。ファーゴの警備隊も、今日ばかりは厳しい顔を崩し、子供たちを肩車してはしゃいでいる。
夢のような時間はあっという間に過ぎ、やがて空が茜色から深い藍色へと変わっていく。人々が空を見上げ始めたその時だった。ヒュルルと夜空を切り裂くように、一筋の光が打ち上げられた。
「お任せあれ! 我々魔導師団よりお二人への祝福です!」
それを皮切りに色とりどりの魔法の花火が次々と夜空を彩る。赤、青、緑、黄金の光が大輪の花を咲かせるたび、広場からは感嘆の声が上がった。そして、祝祭のクライマックス。ひときわ大きな光の球が空高く昇り、ゆっくりと夜空に像を結んだ。そこに描かれたのは満面の笑みを浮かべる私とシオンの姿。光の粒子で描かれた私たちの笑顔は、星々よりも明るく輝いていた。市民たちの誰もが空を見上げ、その光景に心奪われていた。
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