ドクターダーリン【完結】

桃華れい

文字の大きさ
93 / 136
第2部

フェーズ7.9-23

しおりを挟む
 ソファで結婚情報誌を読んでいる私の目の前に、ふいに平たい小袋が下りてきた。
「『先生、これの使い方教えて』だって」
 それで中身がコンドームだと気がついた。
「誰が?」
 眉をひそめて訊ねる。涼は隣に座りながら答えた。
「入院してる女の子。高校二年生だったかな」
 高二といえば、私が入院していたときと同じだ。
「なんて答えたの?」
「忙しいから退院後に学校の保健の先生に訊いてくれって。これは奥さんと使わせてもらうって言ったら、ショック受けてた。結婚してるの知らなかったみたいで」
 私は読んでいた情報誌をテーブルの上に置いた。
「本気なんじゃないの?」
「どうだろうな。ふざけてる感じだった。今どきのギャルって感じの子だし」
「照れ隠しかも」
 気持ちはわかるから。先生のことを好きになっても、後ろめたさがあって堂々とは言えない。
「だとしても、陽性転移ようせいてんいだろうな」
「陽性……?」
「治療を受けている患者が、医療者に対して恋愛に似た好意を抱くこと。実際は恋愛感情とは少し違ってて、勘違いってやつだな」
 ん? それって私自身が思っていたことだ。涼を好きになったのは、ひょっとして彼の医者としての優しさに勘違いして、勝手に舞い上がっているせいではないかと。
「実を言うと、彩もそうじゃないかと疑ってた時期があった」
 涼もそう思ってたんだ。自分でも疑ってたくらいなのだから無理もない。それでもちょっと悲しい。
「そう、だよね。やっぱりそう思うよね」
「悪かったよ。でもわりとよくあることだし、見極めも難しい」
「疑いは晴れたんだよね?」
 こうして結婚してくれたのだから。
「患者に医療行為を与える医者に好意を持つわけだから、治療が終われば次第に気持ちは冷める。彩は全然そんなことなかったろ」
 退院してからますます好きになっていった。さらに、あの頃よりも今のほうがもっと好きになってる。
「最初は陽性なんとかだったとしても、涼のことを知れば知るほど、誰でも普通に好きになっちゃうと思うけどなあ。医者の部分を抜きにしても、涼は十分優しいし、かっこいいし、大人で頼れるし……」
 言いかけて、途中ではっとしてやめた。褒めすぎだ。時すでに遅し。熱い視線が向けられていた。
「彩、これ、今使おうか」
 涼がまたコンドームの袋を私に見せつける。
「それは、使わないほうがいいのでは。人からもらったものだし、状態が心配……」
 顔を引きつらせながら言うと、私はソファに押し倒された。
「だな。じゃあ、生でしよう。妊娠させたくなった」
「は!? ちょっと待って」
 どこまで本気なの? 前開きワンピースのボタンがひとつ、ふたつと外されていく。
「ねえ、いつ疑いは晴れたの?」
 訊ねると、涼はボタンを外す手を止めて答えた。
「いろんなことがあって徐々にだけど、決め手のひとつは、彩が風邪引いたときの電話口での『大好き』かな」
 やっぱり言葉って大事だ。伝えてよかった。
「だからあのとき、勃ったって言ったろ」
 冗談じゃなかったんだ。涼がボタンを外すのを再開しながら続ける。
「他にも、体触っても嫌がるどころかむしろ感じてたときとか、お前から濃いキスねだってきたときとか、我慢できなくなって襲おうとしたら即OKしたときとか」
 恥ずかしいからもうやめてほしい。私は顔を熱くしながら目をそらした。
「とどめは、お前から『最後までして』って言われたとき。まあ、さすがにあの頃はもう疑ってなかったけど。だからこそ本当に最後までしたんだし」
 だったら言わなくてもいいのに。わざと言ってるな。
 ワンピースのボタンがすべて外され、ブラジャーの上から胸を揉み始めた。
「待って、婚約したときはまだ疑ってたってことだよね?」
 婚約をしたのは私が風邪を引くよりずっと前だ。
「それなのにどうしてプロポーズなんて。私の反応を見るため?」
「本当に結婚したいと思ったんだよ。彩の気持ちがどうであれ俺は本気だったからな。それをわかってもらうためにも早めにプロポーズした。俺、病院の屋上でお前にキスした時点で、一生守りたいと思ってたから」
「屋上って二回目?」
 口にしてから気づく。時期的にそれはおかしい。プロポーズよりもあとだ。
「いや、お前のファーストキスもらったとき。かわいい、守りたい、一生、って」
 初耳である。
「本当はすぐにでも結婚したかったけど、そういうわけだから婚約って形にした」
 それで、涼は私の両親にすぐに挨拶にきてくれたのに、私を彼の両親に会わせたのはだいぶあとだったんだ。私が涼の実家に行ったのは正月の両家顔合わせのほんの一カ月前で、プロポーズからかなり時間が経っていた。涼が忙しいからだとあまり気にしていなかったけど、あえてギリギリにしたのかもしれない。そもそも涼は、顔合わせを入籍直前か入籍後と考えていた。
 今ならその理由がわかる。もし私の気が変わって婚約が破談になったとしても、私が涼の両親から責められることがないように、私を守るためだったんだ。
「まあ、高校生で結婚なんて現実的じゃないし、ちょうどよかったよな」
「婚約指輪は? そんな状況で、なんであんな高いのを……」
「それは、言った通り未成年に手を出すからって理由が大きいけど、もし彩があの指輪を重たく感じるようなら、婚約を考え直さなきゃならないと思った。でも感動して泣いてたし、『一生大事にする』って言ってくれてうれしかったよ」
 苦しいほどにせつなくて、ぽろぽろと泣き出した。涼がぎょっとする。
「なにいきなり号泣してんの」
「婚約期間中は私がいつ心変わりしてもおかしくないって思ってたんでしょ? そんなの涼がつらいよ。私の気持ちが変わるはずないのに。プロポーズも指輪も、すごくうれしかったのに……」
「婚約期間中と言っても、わりと早い段階で解決してたけどな」
「その前に、なんで今ごろになって暴露してるの!?」
 泣いても怒っても、涼は私の胸を触るのを止めない。さっきからブラジャーを上にずらして直接揉まれてるから、ときどき声が出そうになる。
「話の流れでなんとなく」
「今の今まで私だけ何も知らなかったなんて馬鹿みたい――あっ!」
 胸に触れていたはずの涼の手が、いつの間にかパンツの中に滑り込み、割れ目を撫でた。
「もう、ずるい……」
 感じさせて私を黙らせる作戦なのはわかっている。
「生で入れていい?」
 卒業旅行で泊まった温泉旅館での思い出が蘇る。思い出すとしたくなってしまうから記憶に蓋をしたのだ。
「ダメ……」
「本当は欲しそうな顔してるけど」
 唇が塞がれ、同時に表面を撫でていた指が胎内に進入してきた。
「んぁっ……」
 たっぷりと指で弄られてから、ベッドに連れていかれた。ベッドではちゃんと避妊してくれた。繋がりながら、キスの合間に私は涼に伝えた。
「本当に好きだから……愛してるから……」
「わかってるよ」
 最初はもしかしたら憧れだったのかもしれない。でも今は、一ミリの疑う余地もなく、偽りなく、涼を愛してる。こんなにも私の中はあなたでいっぱいなの。

------------------------------------------------------------
よろしければご参照ください。
※電話での大好き→「フェーズ3-10」
※体触っても嫌がるどころか→「フェーズ3-1」
※濃いキスをねだった→「フェーズ3-9」
※襲おうとしたら即OK→「フェーズ4-1」
※最後までして→「フェーズ6-1」
※ファーストキス→「(回想)フェーズ0-1」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

毎週金曜日、午後9時にホテルで

狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。 同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…? 不定期更新です。 こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...