ドクターダーリン【完結】

桃華れい

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第2部

フェーズ7.9-24

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 外は小雨がちらついている。日差しがないため、下見で訪れたときよりもステンドグラスがくっきりと濃く見える。六月、雨の中の教会だ。
「伊吹彩さん、あなたは神河涼さんを夫とし、健やかなるときも病めるときも、彼を愛しなぐさめ、命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
 純白のウェディングドレスに身を包んだ私は、祭壇の前で涼と並んでいる。白いタキシードが涼にとてもよく似合っている。白衣とどっちがかっこいいだろう。どっちもよくて比べられないな。
 二人だけで結婚式を挙げるつもりだったのが、結局、両家の家族にだけ列席してもらうことになった。涼に説得されて、両親に花嫁姿を見せようと考え直したからだ。それぞれの両親と、私の妹の花、涼のお兄さんのけいさん。最小限の人数だし、披露宴は行わず挙式のみだからいいと思って。
 みんなに見守られながら、神様と神父さんの前で永遠の愛を誓った。交換し合った結婚指輪は、挙式の前に丁寧に磨いた。新品のようにピカピカになって、お互いの薬指で輝いている。
 涼の手が優しく私のベールを持ち上げた。涼の顔が近づいてきて、私は目を閉じた。キスをしてもらう箇所は、当初の予定通り二人きりの挙式ならば唇でもよかったかもしれないけど、両親も見ている前では恥ずかしい。直前で頬にしてもらうように変更した。
 変更したはずだが、きわどい位置だ。唇ではないが、頬でもないような。唇にすれすれの微妙な位置だ。はたから見れば唇にしているように見えるかもしれない。一、二、三……ゆっくりめのカウントでたっぷりと五秒間は涼の唇が触れていた。

 感動的な結婚式の余韻はマンションに帰ってからも続き、私は夢心地でソファに座っていた。
「やってよかったろ?」
 涼がコーヒーを淹れたカップを差し出しながら隣に座る。
「うん。雨の教会も、誓いの言葉も、みんなに祝福してもらったことも、全部素敵だった」
「そうだな」
「涼もかっこよかった」
 思い出してうっとりする。私のウェディングドレスと同様に涼の白いタキシードも、もう着る機会はないだろう。しっかりと目に焼きつけておいて、忘れないんだ。
「彩もきれいだったよ。思った通り天使だった」
「ありがとう」
 天使だなんて、また言ってるから大げさというわけではなく本当にそう思ってくれているのかもしれない。
「アルバム、早くできないかな」
「彩のお父さんも撮ってくれてたな」
「うん、すごくいっぱい。ファインダーばかり覗いてて、自分の目では一切見てないんじゃないかってくらい」
 プロのカメラマンにも撮影をお願いしたのだけど、カメラが趣味の父も終始負けじとシャッターを切っていた。
「早めに実家に行って写真データもらってくるね」
 父は式のあと、自宅に帰ってから慌ただしく赴任先に戻ったはずだ。データだけもらってプリントアウトして飾ろう。
 そういえば涼のお兄さんも早くに帰ってしまって、ろくに挨拶ができなかった。勤務先の病院から呼び出されたらしい。みんな忙しい中、私たちのためにわざわざ集まってくれた。感謝の気持ちでいっぱいだ。もちろん、涼にも感謝してる。
「いろいろ、ありがとう。結婚式やろうって言ってくれたことも、家族を呼ぶことにしてくれたのも」
「正直言うと独り占めしたい気持ちもあったけど、いつも独り占めしてるから、いいよな」
 最初は恥ずかしいからと私は結婚式そのものを拒否していた。涼の言う通りにしてよかった。一生に一度の機会でもあるのだから。家族にも改めて報告できたように思う。準備を進めていく中で、式は自分たちのためというより、あたたかく見守ってくれた両親への親孝行のためと思うようになった。
「ずっと一緒にいようね」
 微笑み合い、キスを交わす。今はこんなに大好きでも、十年や二十年も経ったら、飽きたり冷めたりしてしまうのだろうか。いずれ恋愛感情から家族愛になり、お互いが空気のような存在になってしまうのかも。それはそれでいいのかもしれないけれど、できればずっと恋人同士のような夫婦でいたい。歳を取っても仲よく手を繋いで歩くような。


 実家のリビングの一角にはパソコンスペースがある。そのパソコンを私と母と花の三人で囲み、父が撮影した写真データを読み込んだ。
「おおー!」
 画面に写真が表示されると、一同で歓声の声を上げた。
「よく撮れてるじゃない」
 母が感心する。父と腕を組んで礼拝堂に入場したため、撮影されたのはそのあとの場面からだ。神父さんの前に立つ涼と私の後ろ姿、誓いの言葉に指輪交換、どの写真もよく撮れていて、教会の神聖な空気が伝わってくるかのようだ。
「お姉ちゃん、きれい。先生もかっこいい」
「馬子にも衣裳よねえ」
 涼は「天使」って言ってくれたもん。
 マウスを操作して次々と写真を表示させていく。そしてついに誓いのキスの場面だ。これを母や妹と一緒に見るのは気まずい。
「誓いのチューって口だった? それともほっぺ?」
 ほら、やっぱり言われてる。
「ほっぺだよ」
 頬にしてと伝えたのだから、涼的にはあれは頬なのだ。
「けっこう長かったよね」
 確かにちょっと長かった。
「カメラマンさんから、『長めにしてください』ってお願いされたの」
 本当は「三秒以上」だったのだけど、照れくさいからそういうことにしておく。
 さらに結婚証明書の披露、そして退場まで、一連の流れがしっかりとカメラに収められていた。カメラマン・父に感謝だ。挙式は時間にして三十分ほどだったけれど、こうして写真で見るとその瞬間は時が止まっているかのようだ。
「本当は二人だけで結婚式するつもりだったのを、先生が彩を説得して家族も参列できるようにしてくれたんでしょう? 本当、いい男。先生の株がまた上がっちゃったわよ」
「非の打ち所がないよね。ドン引きするようなヤバい好みとか習性とか何かないの?」
 基準が涼しかない。何が普通で何がそうでないのかわからない。
「強いて言えば、やきもち焼きかなあ」
 前に涼が私に対して言っていたことだ。涼だって負けてないと思う。
「それ、ただののろけじゃん」
 花が呆れた眼差しで突っ込みを入れた。
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