【完結】異世界行ったら龍認定されました

北川晶

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109 二度と離さない

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     ◆二度と離さない

 話は少しさかのぼる。一月十九日。
 銀杏を捕縛したと、ライラを通じて、天誠に報告した紫輝は。前線で大規模戦闘が開始されたことを知らされた。
 通信を切ったあと。紫輝は大和を伴って、宿舎と同じ敷地内にある、大隊長専用屋敷を訪れた。
 千夜に出迎えられ、廣伊がいるという居間に通される。

「こんな夜更けに、どうした?」
 居間でくつろいでいる…と思われた廣伊は。あの、いつもの緑の軍服だった。
 ま、紫輝も。簡易のインナーに軍服を引っかけた、楽なスタイルだけど。
 一応、軍服って感じ。廣伊のは、完璧版、みたいな。

「廣伊ぃ、なんでかっちり軍服着てんの? 自宅だよ? 楽にすれば?」
「私は、いつも、誰かに狙われている。いつ襲われても大丈夫なようにしているだけだ」
 エメラルドグリーンの瞳は美しいのに、どこか殺伐とした色なのが、悲しい。
 早く龍鬼の自分たちが、心から安心して過ごせるようにしたいねぇ。

「今は、千夜もいるだろ? それに、差別禁止の声明も出たんだし。夜這い? じゃない。暗殺? とかないんじゃね?」
「大丈夫、とは言い切れない」
 まぁ、紫輝も。
 今はまだ、大丈夫と無責任には言えない。
 よし、わかった。本題に入ろう。

「今、天誠と連絡を取ったんだけど。開戦したって。前線で、大規模戦闘だ。しかも仕掛けたのは、将堂だって」
「…は?」
 廣伊は、言葉が通じていないような顔をした。
 紫輝はアワアワと手を振って、言い直す。

「だから、開戦して…」
「将堂が仕掛けたというのは、考えられないことだ。なにかの間違いでは? 安曇が、自分から仕掛けたって言ったら、紫輝が怒るから、嘘をついたとか」
 廣伊は、それほど天誠と話したことがないはずなのだが。やけに天誠の、普通でない部分の特徴を掴んでいる。
 普通というのは。天誠は、真面目な優等生で正統派美男子、という表面特徴から、くだらない嘘などつかないと思われがち。
 でも、紫輝を怒らせないよう行動するのは、天誠の基本である。
 だがそれは、天誠の裏面特徴なのだ。

 それを廣伊が知るというのは…千夜情報だろうか?

「そんなくだらない嘘は…たまにつくけど。これは本当だよ…たぶん。あ、天幕の中で話しているからって、小声で話してたし。やっぱ、嘘じゃない」
「安曇なら、それくらいの小芝居は、うちそうだ」
 なんでわかるのぉ? と、紫輝はおののく。
 そう言われてしまうと。自信ない。
 なんでこんなに、天誠は信用がないのだろうかと、紫輝は眉を八の字にした。

 すると、大和が救いの手を差し出してくれた。
「安曇様は、確かに、紫輝様のためなら真顔で大嘘をつけると思いますが。ここは、嘘ではないという前提で、話を進めましょう。俺の方で、隠密に裏を取らせますから」
 なんか、あんまりフォローになっていないけど。
 廣伊が『そうだな、話が進まない』と言ったので。まぁ、いいでしょう。

「これって、誰かに知らせた方がいいのか? 天誠情報だから。言わない方がいいのか?」
「それは、すみやかに上に報告をあげるべきだが。大和が裏を取ると言っているし。安曇ではなく隠密情報ということにすれば、誰にも怪しまれることはない。すでに幹部は、おまえが安曇と通じていることは知っているし。暗黙の了解になるだろう」
「じゃあ、今から?」

「明日、朝一番でいい。戦場から先触れが来たら、それはそれでいいし。あと、将堂が仕掛けたということは、言わない方がいい。それが事実であれ。将堂の根幹を揺るがす、大変革だ。この話は慎重に、情報を集めた上で、言うべき。もしくは言わないでいるべき」

「そんなに、重要なことなのか?」
 紫輝には、よくわからなかったが。
 廣伊は、あまり動かない表情ながら、神妙にうなずく。

「将堂は。自分から領土は広げない。だが、立ち入らせない。戦は話し合いで解決したい、という信念でやってきた。万民の意志を集め、多数決で平和的に政治を行う。意見や対話や会議によって、将堂は動くのだ。しかし、こちらから戦を仕掛けたとなれば、基本理念が崩れる。私事で兵を動かしたとみなされかねない」

「領土を守ることは、みんなの了解があったけど。戦を仕掛けることは了解がない、ってこと?」
「そうだ。だから将堂は、今までも富士のふもとから動いていないのだ。それが総意だからだ」

 なるほど、と紫輝は思い。
 終戦に向かっているとはいえ、まだまだ知らないことは多いな、と考えさせられる。
 難しいことは大人に丸投げ、というのは良くないとわかっているけれど。人生経験が浅いし、政治なんて、全然興味もなかったものだから。わからないことだらけなのだ。

 将堂の、万民の意見を聞くという姿勢は、民主主義に通じていて、決して悪くないと思う。
 でも、差別的なものが多いのが、将堂の欠点なのだ。

 手裏の、強い者が民を率いていくというやり方も、リーダーシップであるから悪くない。
 ただ、ヘタをすると独裁や圧政になるから、そこが欠点。

 ふたつの良いとこ取りができたら最高なんだけどね?
「じゃあ、明日、一番で。青桐に報告する。将堂が仕掛けた話は、ナシで」
「私も一緒に行く。おそらく戦闘配備になるだろうからな」

 廣伊と意見交換を終え、その日はおとなしく自室で休んだ。

     ★★★★★

 翌日、廣伊とともに、紫輝は指令本部を訪れた。
 傷を負った幸直と巴が、まだ帰ってきていないので、書類仕事を青桐と堺がやっているのだ。
 新婚的なふたりが、新居に移って、ラブラブを満喫したいところだろうに。仕事漬けで、ちょっと可哀想な気がします。

「青桐、俺の隠密の情報なのだが。富士のふもとで大規模戦闘が始まったようだ。開戦したんだ」
「えっ? 冬は基本、戦闘しないって聞いていたが?」
「なんでか知らないけど、起きたんだ」

「どうしたらいい? 堺」
 青桐は、記憶喪失という前提だが、記憶はある。
 しかし元はきこりで、戦闘経験などない。だから、狼狽うろたえてしまうのも仕方がないことだ。

 本来は、金蓮なり、側近の瀬間が、采配や指示をするべきところで。
 彼らがそばにいない今は、堺を頼るしかない。

「今は、金蓮様が主導で左軍を采配しているので。まずは左軍に報告をします。援軍を出すにしても、左の四つの大隊が本拠地に残っているので、そちらが先に出動することになるでしょう。あと、瀬間を呼び戻しましょう。幸直と巴が欠席の状態で、右の指示を出すのは。少々、人手不足ですから」

 堺は冷静に的確に、これからなすべきことを告げていった。
「左への報告は、俺がしてきます。龍鬼は左と相性が悪いでしょう?」

 大和が言い、紫輝は周りを見やる。
 青桐と大和以外は、みんな龍鬼だ。それでなくても、つい最近紫輝が、指令本部で大立ち回りをしたことで。左の、龍鬼への恐れ具合が増している。

 差別しちゃ、駄目なんだからねぇ?

 ま、いらぬ、いざこざを起こす場合でもないから。大和に行ってもらった。
 代わりに、千夜が紫輝の背後につく。

 そうして、戦場からの知らせが届く前に、開戦したという話が本拠地全体に行き渡り。兵士たちの緊張感は、いや増した。
 左軍は、いつでも出動できるよう準備に余念がない。
 四つの内、ふたつの大隊は、明日出立し。前線近くの山中湖将堂軍支部にて、待機する方策だ。

 右は本拠地にて守りを固める。
 援軍の要請が来たときに備え、第一と第二大隊が出動準備を整えていた。

 慌ただしく、ピリピリとした空気感の中。
 三時過ぎぐらいに、瀬間と巴が指令本部に戻って来た。

「あれぇ? なんでこの組み合わせなんだ? 幸直は?」
 紫輝が巴に聞くと、巴は簡潔に話した。

「帰宅途中に、瀬間と会って。開戦したと聞いたので、とりあえず僕が、こちらに顔を出した。幸直は、まだ傷が癒えていないので、無理をさせられない。それに、子供を連れていたので…」

「子供って?」
「幸直の長男だ。僕らで育てることになった。幸直は美濃の家督を返上したんだ」

「なんだって?」
 紫輝と巴が話していたところに、瀬間が割ってきた。
 瀬間は、一月に入ってからの怒涛の展開を全く知らない。

「瀬間様がいない間に、いろいろあったんだよ。幸直はきっと、家督を返上し、ケジメをつけてから、巴と一緒になると決めたのだろう。な?」
 紫輝が巴に振ると、彼は小さな口をへの字に引き締め、うんと小さくうなずいた。

「一緒になるって、伴侶の名乗りをあげるのか?」
 瀬間の言葉にも、巴はうんと小さくうなずいた。
 巴、もう少し情報プリーズ。

「おい、紫輝。さっきからおまえの剣が、震えているのだが?」
 青桐に指摘され。紫輝はあいまいにうなずく。
 それには、もちろん気づいていた。
 ライラが、天ちゃんが呼んでるぅ、って。何回か言っているので。なんとなく、着信したときのスマホぶるぶるに感覚が似ていて、懐かしい…って。思ってる場合でもないんだけど。
 でも、みんなの前で、ライラ出せないじゃん?

「紫輝様。空き室を借りましょう」
「そうだな。少し席を外します」

 青桐は、この剣がライラだと知っているし、今回の知らせが天誠情報だともわかっているだろうから。訳知り顔で、うなずいた。
 新しい情報、もってこい。って顔をしている。
 三白眼のヤンキー目力め。

 大和が小さい空き室を手配してくれて、そこに入る。
 人払いしてあるって。至れり尽くせり。

 部屋の中で、さっそくライラを出すと。
 すでに天誠が憑依していて。
 だが、キリリライラではなく。目がキラキラライラなのだった。

「紫輝っ、来たぞ来たぞ、チャンス到来だっ!」
 もう、ライラが『うにゃーん』って叫びそうな、アゲアゲテンションだ。

「落ち着いてよ、天誠。どうした? どうなった?」
「開戦の理由は、金蓮が藤王を奪い返すためだったんだ。で、接触してきた金蓮を捕縛した」

 びっくりして、紫輝は目を大きく見開いた。え? は?

「ほ? 捕縛っ? 金蓮、捕まえたの?」
「そうだ。捕まえちゃったんだっ。金蓮の身は、今こちらで預かっている」

 誘拐犯の定番の台詞を、天誠がノリノリで言っているのがわかる。苦笑。
「紫輝、銀杏を持って、こっちにこい。あさって、交換会をするぞ」

「金蓮と銀杏を、交換しちゃうのか? それでいいのか?」
「馬鹿。頭を回せ、紫輝。交換が、メインじゃねぇって。俺らの結婚お披露目会だよ。二千人の前で伴侶の名乗りをババーンとあげるんだ」

 ほえぇぇぇ…と、声が漏れてしまった。あまりにも、大規模な披露宴ではないか?

「伴侶の名乗りをあげたら、二度と離さない。覚悟しろよ? 紫輝っ」
 ライラが目をすがめて、色っぽい視線を向けつつ、そう言った。
 ライラは元より、スペシャルセクシーライラだけど。
 そうではなくて。天誠の、目一杯の、誘惑の眼差しってやつだ。
 紫輝は嬉しくなって。ライラの首、いわゆる天誠に抱きついた。

「望むところだっ」

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