貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ

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4話

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 結局、最初に着ようと思った服に決めた時には、既に12時45分だった。

「やっば」

 急いで服を着て、超特急で髪を整える。
 この日のために買ったデパートの香水を慣れない手付きで馴染ませ、いざ行こうとドアを開けると、丁度湊が立っていた。

「うわ!」

 俺のリアクションに「……うざ」とこぼした湊だが、素通りしかけたところで横目でこちらを見た。

「千明さん、もう玄関にいたけど」
「え、マジ?はや」 

 さらりと告げられた言葉に思わず返してしまったが、映画を誰と行くかなんて湊に話したことはなかったはずだ。

「てか、え?なんで」
「驚いてる暇あるならさっさと行け」

 興味はないとばかりに、湊は振り返らないまま自室に消えていった。
 湊の言葉は引っ掛かったが、千明さんを待たせるわけには行かない。はやる気持ちを抑えて玄関へ急ぐと、スマホを片手に千明さんが立っていた。

「千明さん!すみません、お待たせして」
「いや、俺が早く来ちゃっただけだから気にしないで」

 千明さんに微笑まれると、俺は胸の奥がムズムズして顔が緩む。

「じゃ、行こっか」
「はい!」

 緩んだ頬を隠すことも忘れて、俺は靴を履いた。







 シェアハウスの最寄りから、2駅。そこから徒歩5分。
 他愛のない会話をしていたら、あっという間に映画館に着いた。

「あ、そうだ。お昼ご飯食べた?」

 上映まで少し時間があるし、グッズコーナーでも眺めようかな、と思ったところで、千明さんが顔を覗き込んできた。
 近い視線に心臓がびっくりしたが、俺はどうにか平常心を保つ。

「えーと、軽く食べました」

 本当は準備で時間を取られて、ガムを噛んだだけだったが、千明さんに気を使わせるのは嫌だった。

「そっか。ポップコーンくらいなら食べられる?」

 そう言った千明さんは、売店を指差している。

「あ、はい。買ってきましょうか」
「いいよ、俺が食べたいんだから。そこで待ってて」

 売店に向かう後ろ姿を、つい見つめてしまう。
 こうやって優しい扱いを受けると、なんだか本当に千明さんと付き合っているような錯覚を覚えて、嬉しいような、悲しいような。

(いいなぁ、千明さんの恋人。歴代の恋人たち。うらやましい)

 知りもしない千明さんの元恋人たちを羨ましがっていると、千明さんがトレーを抱えて戻って来た。

「飲み物勝手に選んじゃった。コーラと烏龍茶、どっちがいい?」
「あ、どちらでも。というか、飲み物まですみません。お金払います」

 俺が財布を出そうとすると、

「いらないよ。社会人が学生からお金取るわけないでしょ。はい、コーラどうぞ」

 問答無用でコーラを渡されてしまった。

「でもガチャ1回くらいできませんか?」
「え?」
「ゲームのガチャ、1回分くらいにはなるんじゃないかなって」

 千明さんは仕事のストレスをいろんなゲームで発散している。特にアプリゲームのガチャは一番手軽にストレス発散できると言っていたのを、俺はしっかり覚えていた。だから俺は気遣いとして言ってみたのだけど、「……え~……?」と千明さんは心底傷付いた顔をした。

「俺何か変なこと言いました……?」
「ううん、変じゃない。悪いのは俺。一応、言っておくけど、俺が自分から使う金は、ゲーム用じゃない。そういう線引きは出来てるつもりだし……いやなんか全部言い訳っぽく聞こえる……ダメだ……」

 うーん、と眉間にシワを作った千明さんは、

「とりあえず、俺が巡に使う金はゲーム用じゃないから。それだけは覚えておいて」

 真剣な顔でそう告げると、「ほらポップコーンも食べて」と無理矢理渡してきた。

「千明さんも食べましょうよ」
「いい、全部巡にあげる」

 なんて、やりとりをしているうちに入場開始のアナウンスが流れた。

「もう入れるみたいだね」
「そうですね、行きましょうか」

 俺は笑顔で先陣を切る。
 千明さんが何を気にしていたのかはよくわからなかったが、買ってもらえたコーラとポップコーンは美味しくて、俺は幸せだった。

「……俺ってあんなに印象悪いんだ……やべぇ……」

 千明さんが背後で呟いた低い独り言は、全く聞こえないまま、幸せを噛み締めていた。
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