貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ

文字の大きさ
5 / 17

5話

しおりを挟む
 『ただ、愛させて』の観客はやはり圧倒的に女性が多く、次いで男女のカップルの割合が高かった。
 男同士の自分達は目立っているのではないかと気になったが、映画が始まってしまえばそんなことは関係なかった。
 許されない恋をした女性の片想いが描かれたストーリーは、今の自分と重なるようで、想像の何倍も感情移入し、最後の最後でふたりが結ばれた時は思わず泣いてしまうほどだった。

「巡、泣いてたね」

 劇場が明るくなったときに、千明さんに微笑まれた。

「うわ、バレましたか。恥ずかしい……」
「恥ずかしくなんてないよ。実際いい映画だったし」

 千明さんも満足している様子に、俺は安心する。
 とんでもない駄作だったらどうしようかと心配していた気持ちも、もうどこかに行ってしまった。

「お腹すかない?夕飯食べて帰ろうよ」
「え、いいんですか?」
「うん。この辺に美味しいイタリアンあるんだ」

 あっさり帰るのかと思っていた俺は、千明さんの提案に喜んで賛同した。
 まだ一緒に過ごせるなんて、今日は本当に良い日だ。


 千明さんに連れてこられた店は、隠れ家的でお洒落な、まさに『大人が知っている店』といった風体だった。
 そして、当たり前のように料理も『大人の値段』である。

(えっ、パスタが3000円!?うそ、水が800円……)

 店員から渡されたメニューを見ながら俺は絶句した。
 普段大衆店でしかイタリアンを食べない俺には、想像を越えた値段設定だ。
 水すらタダでは出てこないなんて。
 1番安い料理は何なんだと探しまくっていると、目の前の千明さんが軽く笑った。

「そんなに悩まなくても。決まらないなら頼んじゃおうか?」
「え、あ、お願いします……」

 これ以上千明さんを待たせたくない。折角誘ってもらったのだ、千明さんがオススメする料理を食べてみたい気持ちも強かった。
 今日財布には5000円くらい入っている。

(たぶん、なんとかなる。明日からの食費は、どうにかしよう……)

「あと赤ワインで。巡は飲み物どうする?」

 お金のことを気にしている間に、千明さんは注文をほぼ終えていた。

「え、あーコーラ、ありますか……?」
「ふふ、じゃあコーラで」

 かしこまりました、と店員も少し微笑んで離席する。
 なんでこの店でコーラなんて言ってしまったのか、もっと大人っぽいものを頼むべきだったと、俺はすぐ羞恥に見舞われた。
 少しすると千明さんが頼んだ料理が次々とテーブルに運ばれてきた。
 どれもこれもお洒落で、俺が今まで食べてきたイタリアンとは何だったのか疑問に思うような味だった。

「美味しい?」
「はい!こんなに美味しいもの初めて食べました……!」
「言い過ぎだよ。でも良かった、気に入ってくれたなら」

 そう言ってワインのグラスを傾ける千明さんは、完璧な大人の男性に見えた。
 今日だけで何回カッコいいと思ったことか。

(やっぱり、大好きだなぁ……)

 俺は言えない気持ちをパスタと一緒に飲み込んだ。


 最後に出たデザートを食べていると、千明さんが「トイレ行ってくるね」とおもむろに立ち上がる。千明さんの姿が見えなくなるのを見届け、フォークに刺していた苺を飲み込んでから急いで店員を呼んだ。
 どうしても自分がいくら払わないとなのか知りたかった。これだけの料理だ、たぶんもう手持ちでは足りない。

「すみません、ここの会計って…」
「あぁ、それでしたら既にお済みですので」
「え?」
「お連れ様に先程お支払いただきました」

 俺の疑問を制するように、店員は「ごゆっくり」と頭を下げた。
 まさか、またお金を払ってもらってしまうとは。
 どうやってお礼をしたらいいんだと悩む暇もなく、店員と入れ替わりで千明さんが戻ってくる。

「あの、お金払っていただいてしまって、すみません!」
「あぁ、全然。俺が使う金は俺が使いたい金だって言ったでしょ」
「でも俺ばっかり…」

 本当に申し訳ないと思って「すみません……」と言うと、千明さんは少し驚いたように目をしばたいてから笑った。

「じゃ、この間の約束をこれでチャラってことにしよう。俺がなんでもするって言ったやつ」
「え、あれまだ有効なんすか?」
「いいじゃん、そういうことで。ね?」

 千明さんの有無を言わせぬ笑顔に、俺はただ頷くしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

インテリヤクザは子守りができない

タタミ
BL
とある事件で大学を中退した初瀬岳は、極道の道へ進みわずか5年で兼城組の若頭にまで上り詰めていた。 冷酷非道なやり口で出世したものの不必要に凄惨な報復を繰り返した結果、組長から『人間味を学べ』という名目で組のシマで立ちんぼをしていた少年・皆木冬馬の教育を任されてしまう。 なんでも性接待で物事を進めようとするバカな冬馬を煙たがっていたが、小学生の頃に親に捨てられ字もろくに読めないとわかると、徐々に同情という名の情を抱くようになり……──

処理中です...