貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ

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6話

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 あぁ、もう寮に帰るんだな。
 1日中、千明さんと過ごせて楽しかったな。
 デートみたいだったし。

 店から出て、そんな喜びと寂しさを噛み締めていると、

「ちょっと歩かない?」

 夜空を見上げた千明さんがそう言った。
 好きな人と過ごせる時間が増える、そんな誘いを断るわけもなく、俺たちは夜の街を歩き出した。
 駅と反対方向へ少し歩くと、こじんまりとした公園が現れる。
 どちらから言うわけでもなく公園に入り、千明さんがベンチへと腰かけたので俺も隣に座った。
 好きな人と夜の公園に寄るなんて、背伸びした高校生みたいで少しこそばゆさを感じる。

「巡ってコーラ好きなの?」

 少しの間、また夜空を見上げていた千明さんが俺に視線を移した。

「え?なんでですか」
「メニューも見ずにコーラ頼んでたから」

 さっきの場違いなオーダーのことかと再び甦る羞恥に顔が熱くなる。

「いや、そんな好物ではないっす。でも今日千明さんが買ってきてくれたし、それで何となく……」

 言いかけてから、なんかこの発言気持ち悪いなと思って口をつぐんだが、つぐむのが遅かった。

「俺が買ってきたら……」

 顎をさすりながら、千明さんが反芻するようにつぶやく。

「すいません、キモいこと言って……!気にしないでください!」
「いや、そういうこと思ってくれるの良いなと思って。巡と付き合ったら楽しそうだよね」

 『巡と付き合ったら楽しそうだよね』
 冗談めかした言い方だったが、そんなことは関係なかった。
 千明さんの口からそんな言葉が出たことで、俺の頭は一瞬真っ白になった。

「は、はは!いや~俺と付き合っても楽しいかはわからないっすよ。千明さんと付き合った方が絶対楽しいですよ」

 何言ってんだ俺は。

「巡は俺と付き合いたいと思う?」
「は、え?」

 何言ってんだこの人は。

「社畜で趣味がゲームの陰キャだよ、俺。理想的なのは外面だけっていうか。それでも付き合ったら楽しいと思う?」
「え、えーっと、その、俺は楽しいと思い、ます」
「今日みたいな俺じゃなくても、付き合ったら楽しいって思うの?部屋に引き込もってゲームしてる俺でも?」
「俺はゲームしてる千明さんも、千明さんだと思いますし、一緒にゲームするのは楽しいですし……」

 千明さんが何を言ってるのか、自分が何を言ってるのか、俺にはもうよくわからなかった。
 それでも千明さんが冗談で聞いているわけではないことは何となくわかっていた。
 綺麗な両目に見つめられ、俺の心臓は今だかつてないほどの早鐘を打っている。

(何か言わないと、何か)

 俺が考えあぐねているうちに、

「そっか」

 ぽつりと呟いて、千明さんは手を重ねた。
 俺の手の上に、千明さんが手を重ねたのだ。
 何が起きたのか理解が遅れて、俺はただその重ねられた手を凝視した。

「ち、千明さん……?」
「ホントはね、あと何回かデートしてから言おうと思ってたんだ」
「千明さん、あの」
「なんか俺、飲み物も奢らないような課金野郎だと思われてたし。いや課金野郎なのは本当だけど」

 重なった手が熱くて、顔も熱い。
 千明さんが何を言いたいのか、考えたいのに考えられない。

「何でもしてあげるって言ったのに、ろくな願いも言わずに出ていくから、ぶっちゃけ嫌われてるのかと思ったし」

 それはあの、一緒にマリカをしたときのことだろうか。

「さっさと部屋出ていかれたの、結構ショックで、一晩中何がダメだったのか考えてたんだよね」

 だから次の日、午前休を取ってたのだろうか。

「それで、仕事とゲームばっかりしてるやつのこと好きにならないかって思って」

 はぁ、とため息をついた千明さんは一旦言葉を切った。

「……だから、連れて歩いたらステータスになりそうな俺をアピールしようと思って」

(そんなことしてもらわなくても、俺はずっと好きですよ、ははは)

 さっきから何を思い付いても、全く口から出て来ない。

「あと何回か、ハイステ男をアピール出来てから、巡に言おうと思ってた。勝率上げないと不安な性分だから」

 千明さんは深呼吸をすると、俺により一層顔を近づける。

「でもね、今日一緒に過ごしたら、我慢できなくて」

 あぁ、顔が近い。
 顔が近くてドキドキする。
 千明さん、やっぱカッコいいな。

 俺にはそんなことしか考えられなかった。

「……俺は、巡が好き。俺と付き合ってほしい」

 一息で告げられたその言葉に、俺は息を詰まらせ返す言葉を失った。

 今、何て言った?
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