貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ

文字の大きさ
6 / 17

6話

しおりを挟む
 あぁ、もう寮に帰るんだな。
 1日中、千明さんと過ごせて楽しかったな。
 デートみたいだったし。

 店から出て、そんな喜びと寂しさを噛み締めていると、

「ちょっと歩かない?」

 夜空を見上げた千明さんがそう言った。
 好きな人と過ごせる時間が増える、そんな誘いを断るわけもなく、俺たちは夜の街を歩き出した。
 駅と反対方向へ少し歩くと、こじんまりとした公園が現れる。
 どちらから言うわけでもなく公園に入り、千明さんがベンチへと腰かけたので俺も隣に座った。
 好きな人と夜の公園に寄るなんて、背伸びした高校生みたいで少しこそばゆさを感じる。

「巡ってコーラ好きなの?」

 少しの間、また夜空を見上げていた千明さんが俺に視線を移した。

「え?なんでですか」
「メニューも見ずにコーラ頼んでたから」

 さっきの場違いなオーダーのことかと再び甦る羞恥に顔が熱くなる。

「いや、そんな好物ではないっす。でも今日千明さんが買ってきてくれたし、それで何となく……」

 言いかけてから、なんかこの発言気持ち悪いなと思って口をつぐんだが、つぐむのが遅かった。

「俺が買ってきたら……」

 顎をさすりながら、千明さんが反芻するようにつぶやく。

「すいません、キモいこと言って……!気にしないでください!」
「いや、そういうこと思ってくれるの良いなと思って。巡と付き合ったら楽しそうだよね」

 『巡と付き合ったら楽しそうだよね』
 冗談めかした言い方だったが、そんなことは関係なかった。
 千明さんの口からそんな言葉が出たことで、俺の頭は一瞬真っ白になった。

「は、はは!いや~俺と付き合っても楽しいかはわからないっすよ。千明さんと付き合った方が絶対楽しいですよ」

 何言ってんだ俺は。

「巡は俺と付き合いたいと思う?」
「は、え?」

 何言ってんだこの人は。

「社畜で趣味がゲームの陰キャだよ、俺。理想的なのは外面だけっていうか。それでも付き合ったら楽しいと思う?」
「え、えーっと、その、俺は楽しいと思い、ます」
「今日みたいな俺じゃなくても、付き合ったら楽しいって思うの?部屋に引き込もってゲームしてる俺でも?」
「俺はゲームしてる千明さんも、千明さんだと思いますし、一緒にゲームするのは楽しいですし……」

 千明さんが何を言ってるのか、自分が何を言ってるのか、俺にはもうよくわからなかった。
 それでも千明さんが冗談で聞いているわけではないことは何となくわかっていた。
 綺麗な両目に見つめられ、俺の心臓は今だかつてないほどの早鐘を打っている。

(何か言わないと、何か)

 俺が考えあぐねているうちに、

「そっか」

 ぽつりと呟いて、千明さんは手を重ねた。
 俺の手の上に、千明さんが手を重ねたのだ。
 何が起きたのか理解が遅れて、俺はただその重ねられた手を凝視した。

「ち、千明さん……?」
「ホントはね、あと何回かデートしてから言おうと思ってたんだ」
「千明さん、あの」
「なんか俺、飲み物も奢らないような課金野郎だと思われてたし。いや課金野郎なのは本当だけど」

 重なった手が熱くて、顔も熱い。
 千明さんが何を言いたいのか、考えたいのに考えられない。

「何でもしてあげるって言ったのに、ろくな願いも言わずに出ていくから、ぶっちゃけ嫌われてるのかと思ったし」

 それはあの、一緒にマリカをしたときのことだろうか。

「さっさと部屋出ていかれたの、結構ショックで、一晩中何がダメだったのか考えてたんだよね」

 だから次の日、午前休を取ってたのだろうか。

「それで、仕事とゲームばっかりしてるやつのこと好きにならないかって思って」

 はぁ、とため息をついた千明さんは一旦言葉を切った。

「……だから、連れて歩いたらステータスになりそうな俺をアピールしようと思って」

(そんなことしてもらわなくても、俺はずっと好きですよ、ははは)

 さっきから何を思い付いても、全く口から出て来ない。

「あと何回か、ハイステ男をアピール出来てから、巡に言おうと思ってた。勝率上げないと不安な性分だから」

 千明さんは深呼吸をすると、俺により一層顔を近づける。

「でもね、今日一緒に過ごしたら、我慢できなくて」

 あぁ、顔が近い。
 顔が近くてドキドキする。
 千明さん、やっぱカッコいいな。

 俺にはそんなことしか考えられなかった。

「……俺は、巡が好き。俺と付き合ってほしい」

 一息で告げられたその言葉に、俺は息を詰まらせ返す言葉を失った。

 今、何て言った?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...