貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ

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7話

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『巡が好き』

 千明さんの声が頭で復唱される。

 そんなバカな。
 そんなことがあるか。
 千明さんが、俺を好きだって?
 夢にしたって、自分に都合が良すぎるだろ。

「巡……?」

 余裕の無さそうな千明さんに見つめられて、俺はやっと息を吸った。

「うそ……」

 そして吐いた息と一緒に出たのはそんな言葉だった。

「嘘じゃないよ」
「いやでも、だってそんなわけ」

 そんなわけが。

「巡は俺のこと、嫌い?」

 その問いに、俺は目を見開いた。

「き、嫌いなわけないじゃないっすか!俺は、ずっと好きでしたよ!ずっと、前から……っ」

 大声でそう言った。
 1度口を開けば、想いは次々と勝手に出ていった。

「本当に?」

 千明さんの目に熱が灯ったように見えて、俺はただ頷く。

「最近、一緒にゲームできたり、それに今日は一緒に出掛けられて、それだけでも俺にとっては十分すごい出来事で」

 うまく言葉になっていない。
 意味のわからない文章になっているだろうに、千明さんは俺の手を優しく握り直してくれた。

「俺、片想いが成就したことないんです。だから今回も片想いで終わらせようと思ってて……だって、まさか千明さんが、俺のこと」

 好きだなんて。
 そんなこと、現実に起こりうるのだろうか。

「好きだよ。本当に好き」

 至近距離で囁かれて、俺はついに涙をこぼしてしまった。
 涙は1度こぼれると、もう止まる気配を見せなかった。

「片想いなんかで終わらせないで。……俺の恋人になって?」
「っ……は、はい……」

 涙を溢れさせる俺を、千明さんは優しく抱き締めた。
 その後、千明さんの胸で泣いたことは覚えている。
 でも何を話しながら帰って来たのかは全く思い出せない。
 気がつけば、シェアハウスの前にいた。

「うわ、もう家だ……」
「そうだね」

 隣でくすりと笑う千明さんが、今では恋人だなんて、いまだに信じがたい。

「俺たち、本当に付き合ってるんですか?」

 なんだか不安で確認してしまう。
 付き合ってるなんて、夢じゃないか?
 夢なら覚めないでほしいなと思いながら顔をつねったりしていると

「付き合ってないとは言わせないよ」

 千明さんは流れるような動作で、俺の顎を引き寄せた。
 何事かと目を見開いていると、千明さんは少し微笑んでから唇を重ねる。
 ほんの一瞬、触れるだけのものだったが、俺にはそれでも刺激が強すぎた。

「あっ、今、ちょっと……え……?」
「もう1回、しとく?」
「え!?あのっ」

 動揺している俺に、千明さんがもう1度顔を近づけたとき、ガチャリとシェアハウスの玄関が開いた。
 咄嗟に千明さんから距離を取った俺は、玄関から出てくる湊と目がかち合う。

「み、湊!久しぶりだな」
「……は?」

 俺が変な挨拶をかますと、湊は俺から目をそらし隣に立つ千明さんを見据えた。
 千明さんは湊にひらりと手を振る。

「……付き合うのは勝手だけど、こんなとこでいちゃつくなよ」

 そう言って湊は門から出ていこうとする。
 その自然な、いつもと変わらない湊の姿に俺は一瞬判断を遅らせたが、ハッとしてすぐにその背中を追った。

「ちょっと待て!なんで俺達がっ……」

 なんで、湊にバレてるんだ。
 勢い余って肩を掴むと、ギロリと睨まれる。

「分かりやす過ぎるんだよ。どっちも」

 湊が無下に払った俺の手を、千明さんが優しく掴む。

「巡に乱暴しないでよ」
「……はぁ~」

 心底面倒くさそうにため息を吐いた湊が、再び俺を睨み付けた。

「お前と絡むと千明さんがうざいから、どうにかしろ。どうにかならないなら、七海さんに言い付ける」
「え!?おい、待てって!」

 そのまま湊は、今度こそ門から出ていってしまった。
 本当に七海さんに言われてしまったらどうしよう。彼女の方針で、このシェアハウスは恋人を連れ込むのが禁じられている。

(俺か千明さんが出ていかないとになったりしたら……)

「別に言ってくれてもいいのにね」
「っ!」

 俺が頭を悩ませている中、千明さんが後ろから自然に抱き付いてくる。
 付き合うとこんなにスキンシップが増えるものなのだろうか。ろくに付き合った経験がない俺には、これが当たり前なのか、千明さんが珍しいのかわからない。
 何にせよ、このままだとギャップに殺されそうだ。
 千明さんといると、さっきから心臓が持たない。

「ま、待ってください。ここ外だし……!」
「え~じゃあ、最後に1回だけして」
「いや、だから……!」

 くいっと顎を後ろに向けられる。
 抵抗しようと思えば十分出来たが、結局俺が本気で嫌がれるわけもなかった。

「好きだよ、巡」
「ん……」

 明日からはちゃんと、キスをする場所を話し合わなければ。
 そう頭の片隅で思っても、千明さんに唇を塞がれるともう何も考えられず、俺は喜びが溢れてしまうのを感じた。
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