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9話
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「はぁ~……」
午前10時半、共有リビング。
1人でシリアルをかき混ぜながら、俺は深いため息を吐いていた。
結局昨晩はそのまま部屋に帰り、高ぶっていた熱はトイレで1人寂しく処理した。賢者タイムが尋常ではなく、翌朝の今でさえ賢者タイムの最中のようだ。
自分がおかしいのだろうか。
自分が欲に塗れているのだろうか。
それとも、自分には魅力が無いのかもしれない。
だから、キスしかされないのかもしれない。
(俺ってイケメンじゃないし、金もないし、オシャレでもないし、色気もないもんな……)
ネガティブな自己分析で頭が一杯になる。
「あ~~もう!」
「メグル、悩みごとデスカ?」
「うっわ!」
真横の間近に彫りの深い白人男性が現れて、俺は思わず叫んだ。
「ら、ランドンさん……」
「ランドンでイイっていつもいってるのに」
彼はアメリカから来た留学生で、シェアハウスの住人だ。元々アメリカで起業家をやっていて、投資繋がりで七海さんと知り合い、家を貸すと言われたので人生経験として日本にやってきたらしい。
(なんかこのシェアハウス、エリートが多いな……それに比べて俺は……)
俺がまたネガティブ思考を深めていると、ランドンさんは肩をすくめながら俺の前の席に座った。
「さっきからシリアルかき混ぜてるだけ。なに悩んでるですカ?」
「いや、別に……」
「ウソはダメ、ドロブネの始まりですネ」
「ウソは泥棒の始まりッスよ」
適当に茶化してごまかそうかと思ったが、「恋の悩み、ですネ~?」とズバリ言い当てられてシリアルをかき混ぜる手を止めてしまった。
「ワタシ、結構得意ですよ!Love advice!」
「あー、いや、うーん……」
ランドンさんに聞いてどうなるのかという気持ちはあったが、しかし逆に異国の人に相談することで心が軽くなるかもしれない。
1人で考え込んでいてもいい結果は得られないのは分かっていた。
「……好きな人と、関係が進展しないときって……どうしたらいいですかね」
「それってコイビト?」
「まぁ一応、付き合って1か月くらい……ですね」
「メグルにも春が来てたんですネ」と楽しそうなランドンさんを横目に、もう1か月か、と自分の発言を噛み締める。まだ1か月じゃん悩み過ぎ、と呆れる自分もいるが大学生なんて恋をしたら頭の中はソレばっかりなのだ。
「愛がタリナイって感じてるんですか?」
「愛は……足りてないわけではないんすけど」
愛されているか、愛されていないかの二択なら、俺ははっきり言って愛されている。
俺が照れて閉口するくらいには、千明さんは愛の言葉を囁くタイプだった。キスを筆頭にスキンシップも多いし、ふたりきりの時は想像を超える愛情表現をしてくる。
だからこそ、それ以上は何もないと言うのが不思議で不安になっているのだ。
「てことは、もっとイチャイチャしたいんですネ」
「ぐっ……は、はい……」
図星を突いてくるランドンさんに、俺はやっと口に入れたシリアルを喉に詰まらせた。
「コイビトなら、メグルが男らしくリードしたら?」
「うーん、リード……」
相手が同年代の女の子ならまだしも、千明さんは5歳上のイケメンエリートサラリーマンだ。
家ではゲーマーをやっているがそれは隠された一面であり、基本は優しくて紳士的でスマートな上に顔はずっとイケメンで、モテる要素しかない。勝手な憶測だけど、千明さんの恋愛遍歴は正式なお付き合いよりワンナイトラブの経験の方が多そうに思える。
とにかく、初めて恋人が出来た俺の経験値では、千明さんに太刀打ちできないことは明白だった。
「年上なんですよね、だからあんま俺からリードするとかは」
「年上なら積極的にアピールするだけで犬っころですよ!」
「それを言うならイチコロじゃないすか」
「イチャイチャしたいならユウワクすること大事です。誘われて喜ばない人、コイビトとは言えない」
俺は千明さんに自らアピールをしたことはない。
誘惑なんて仕方が分からないということも勿論あるが、もし拒否されたらと思うと怖いのだ。
欲まみれだと思われたくない。でも、一緒に欲にまみれたい。
そんなワガママな思考が頭を回り続けて、結局何も言い出せないまま1か月が経ったのだ。
「誘惑か……」
そろそろ悩んでいないで行動する時なのかもしれない。
千明さんが本気なら、多少なりとも何らかの反応が返ってくるはずだ。その反応が拒否なら、そもそも長くは付き合えない関係だったということになる。
何にせよ行動しなければ答えは出ない。
「有効な誘惑方法って……何かありますか?」
俺は真剣な眼差しでランドンさんを見つめた。
午前10時半、共有リビング。
1人でシリアルをかき混ぜながら、俺は深いため息を吐いていた。
結局昨晩はそのまま部屋に帰り、高ぶっていた熱はトイレで1人寂しく処理した。賢者タイムが尋常ではなく、翌朝の今でさえ賢者タイムの最中のようだ。
自分がおかしいのだろうか。
自分が欲に塗れているのだろうか。
それとも、自分には魅力が無いのかもしれない。
だから、キスしかされないのかもしれない。
(俺ってイケメンじゃないし、金もないし、オシャレでもないし、色気もないもんな……)
ネガティブな自己分析で頭が一杯になる。
「あ~~もう!」
「メグル、悩みごとデスカ?」
「うっわ!」
真横の間近に彫りの深い白人男性が現れて、俺は思わず叫んだ。
「ら、ランドンさん……」
「ランドンでイイっていつもいってるのに」
彼はアメリカから来た留学生で、シェアハウスの住人だ。元々アメリカで起業家をやっていて、投資繋がりで七海さんと知り合い、家を貸すと言われたので人生経験として日本にやってきたらしい。
(なんかこのシェアハウス、エリートが多いな……それに比べて俺は……)
俺がまたネガティブ思考を深めていると、ランドンさんは肩をすくめながら俺の前の席に座った。
「さっきからシリアルかき混ぜてるだけ。なに悩んでるですカ?」
「いや、別に……」
「ウソはダメ、ドロブネの始まりですネ」
「ウソは泥棒の始まりッスよ」
適当に茶化してごまかそうかと思ったが、「恋の悩み、ですネ~?」とズバリ言い当てられてシリアルをかき混ぜる手を止めてしまった。
「ワタシ、結構得意ですよ!Love advice!」
「あー、いや、うーん……」
ランドンさんに聞いてどうなるのかという気持ちはあったが、しかし逆に異国の人に相談することで心が軽くなるかもしれない。
1人で考え込んでいてもいい結果は得られないのは分かっていた。
「……好きな人と、関係が進展しないときって……どうしたらいいですかね」
「それってコイビト?」
「まぁ一応、付き合って1か月くらい……ですね」
「メグルにも春が来てたんですネ」と楽しそうなランドンさんを横目に、もう1か月か、と自分の発言を噛み締める。まだ1か月じゃん悩み過ぎ、と呆れる自分もいるが大学生なんて恋をしたら頭の中はソレばっかりなのだ。
「愛がタリナイって感じてるんですか?」
「愛は……足りてないわけではないんすけど」
愛されているか、愛されていないかの二択なら、俺ははっきり言って愛されている。
俺が照れて閉口するくらいには、千明さんは愛の言葉を囁くタイプだった。キスを筆頭にスキンシップも多いし、ふたりきりの時は想像を超える愛情表現をしてくる。
だからこそ、それ以上は何もないと言うのが不思議で不安になっているのだ。
「てことは、もっとイチャイチャしたいんですネ」
「ぐっ……は、はい……」
図星を突いてくるランドンさんに、俺はやっと口に入れたシリアルを喉に詰まらせた。
「コイビトなら、メグルが男らしくリードしたら?」
「うーん、リード……」
相手が同年代の女の子ならまだしも、千明さんは5歳上のイケメンエリートサラリーマンだ。
家ではゲーマーをやっているがそれは隠された一面であり、基本は優しくて紳士的でスマートな上に顔はずっとイケメンで、モテる要素しかない。勝手な憶測だけど、千明さんの恋愛遍歴は正式なお付き合いよりワンナイトラブの経験の方が多そうに思える。
とにかく、初めて恋人が出来た俺の経験値では、千明さんに太刀打ちできないことは明白だった。
「年上なんですよね、だからあんま俺からリードするとかは」
「年上なら積極的にアピールするだけで犬っころですよ!」
「それを言うならイチコロじゃないすか」
「イチャイチャしたいならユウワクすること大事です。誘われて喜ばない人、コイビトとは言えない」
俺は千明さんに自らアピールをしたことはない。
誘惑なんて仕方が分からないということも勿論あるが、もし拒否されたらと思うと怖いのだ。
欲まみれだと思われたくない。でも、一緒に欲にまみれたい。
そんなワガママな思考が頭を回り続けて、結局何も言い出せないまま1か月が経ったのだ。
「誘惑か……」
そろそろ悩んでいないで行動する時なのかもしれない。
千明さんが本気なら、多少なりとも何らかの反応が返ってくるはずだ。その反応が拒否なら、そもそも長くは付き合えない関係だったということになる。
何にせよ行動しなければ答えは出ない。
「有効な誘惑方法って……何かありますか?」
俺は真剣な眼差しでランドンさんを見つめた。
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