10 / 17
10話
その晩。
大学から帰ってきた俺は、風呂に直行し体を隅々まで丁寧に洗った。帰り際に買った香りの良いボディソープを惜しみなく使う。
(この香り、千明さん好きかな)
昨晩ランドンさんが「ユウワクと言えば香りです。特にRoseは最強のフレグランス!催淫効果もあるです!」とおすすめしてきたのだ。催淫効果なんて日本語を知っているランドンさんに苦笑しつつも、検索してみると本当にバラの香りにはそういう効果があるらしい。
好きな香りくらい千明さんに聞いておけばよかったかもしれないと思いながら、催淫効果という言葉につられてバラの香りのボディソープを買ってしまった。短絡的であることはさすがに自覚しているが、今の俺はこんなことに頼ることくらいしか思いつかなかった。
「……よし」
ドライヤーで髪を乾かし、俺は小さく意気込んで、まだ仕事で帰ってきていない千明さんにLINEを送る。
『帰宅、何時ごろになりそうですか?』
こんなことをわざわざ聞くのは初めてで、緊張しながら送った文面を眺める。すると想像よりずっと早く既読が付いた。
「はやっ」
このまま返信が来たら画面ずっと見てたってバレる。そんなことバレても何がどうなるわけではないが、妙な気恥ずかしさに襲われ、俺は慌てて画面を閉じた。
閉じたと同時に千明さんからの返信がポップアップで表示される。
『10時は過ぎると思う。何かあった?』
変に心配されても困るので、
『いえ、特に何があったというわけではないです!ただ千明さんの部屋にいてもいいか聞きたくて』
と返信し、すぐ画面を閉じる。ちょっとの間、ホーム画面を眺めているとまたすぐに千明さんからのポップアップが表示された。
『全然いいよ。なる早で帰るね』
その返信にホッとしながら、俺はスタンプを返した。
とりあえずは第一関門突破だ。
ランドンさんの教えに従うなら『バラの香りを纏って相手のベッドの上に寝転んでおく。その時の服装は少しだけ肌が見えるものにする』ということを実行しなければならなかった。その内容は女性用の誘惑方法なんじゃないかとは思ったが、他に方法も思いつかないので仕方ない。
襟ぐりの広い緩めの部屋着を着て、準備はOK。俺はコンビニで買った軽食を片手に、千明さんの部屋へと向かった。
「おっ」
10時も近づく中、俺は千明さんに借りているゲームのボス撃破に成功していた。
千明さんを待つ間に暇つぶしのつもりでやり始めたのだが、ついついのめり込みコンティニューを5回繰り返しスマホで攻略を調べてやっとクリア出来た。
千明さんがいたら褒めてくれたかな、なんておめでたいことを考えているとスマホのアラームが鳴った。ゲームを始める前に、9時45分にセットしておいたアラームを止めながら、俺はロフトベッドへと梯子をのぼる。
しかしいざ誘惑目的でベッドまで来ると、どういう風に寝ていればいいのか分からない。
(くつろいでいる様に?それともゲームでもしていた方が自然?)
布団を被ったり剥いだり、起き上がったり寝てみたり、ゴロゴロと寝返りを打ったり。
とにかく忙しなく動いていると、
「ただいま」
仕事から帰ってきた千明さんが部屋に入ってきてしまった。
「お、おかえりなさい!」
焦った俺は思い切り起き上がって元気に挨拶をしてから、色気も何にもない自分の対応に頭を抱えた。
「どうしたの?頭痛?」
「いや、全然元気ッス……」
「あんまり元気そうには見えないけど……」
ちょっと困ったように笑った千明さんは、脱いだジャケットをソファに投げ、ネクタイを緩めながら髪をかき上げた。
その仕草は全編通して色っぽく、俺は更に頭を抱えた。
「全部が勝てねぇ……」
「え?」
「いや、何でもないッス」
「あ、ゲームの話?……って初期ボスクリアしてるじゃん」
いつの間にか千明さんはテーブルに置いてあったswitchを操作している。
「さっきやっと倒せたんです」
「へぇおめでとう。これやりたかったならゲーム機ごと貸すのに」
千明さんは俺がゲームをやりたくて、部屋に行きたがったと思っているようだ。
「次のステージは可愛いヒロイン出てくるよ」
ソファに寝転んだ千明さんはそのままテレビを付け、片手にスマホを持っている。完全にゲームを始める体勢だ。これではいつも通り部屋でゴロゴロして解散になってしまう。
何かいい雰囲気になりそうなことを言わなければ。
「俺は別にゲームしたくて来たわけじゃないんです」
(素直になれ。素直に言え)
俺は己に言い聞かせ、膝を抱える手に力を入れた。
「俺は千明さんに会いたかっただけです」
恥ずかしくて小声な上に早口になってしまったが、千明さんにはしっかり聞こえたようで、ソファから体を起き上げてこちらを見上げる瞳と視線がかち合った。
やっぱり恥ずかしくて、勢いよく視線をそらす。
「なんか今日……」
テーブルにスマホを置いた千明さんは何かつぶやくと、おもむろに立ち上がりベッドへの梯子を上ってきた。
梯子の軋む音に、俺の心臓はバクバクだった。
「なんか今日、いつもと違くない?」
大学から帰ってきた俺は、風呂に直行し体を隅々まで丁寧に洗った。帰り際に買った香りの良いボディソープを惜しみなく使う。
(この香り、千明さん好きかな)
昨晩ランドンさんが「ユウワクと言えば香りです。特にRoseは最強のフレグランス!催淫効果もあるです!」とおすすめしてきたのだ。催淫効果なんて日本語を知っているランドンさんに苦笑しつつも、検索してみると本当にバラの香りにはそういう効果があるらしい。
好きな香りくらい千明さんに聞いておけばよかったかもしれないと思いながら、催淫効果という言葉につられてバラの香りのボディソープを買ってしまった。短絡的であることはさすがに自覚しているが、今の俺はこんなことに頼ることくらいしか思いつかなかった。
「……よし」
ドライヤーで髪を乾かし、俺は小さく意気込んで、まだ仕事で帰ってきていない千明さんにLINEを送る。
『帰宅、何時ごろになりそうですか?』
こんなことをわざわざ聞くのは初めてで、緊張しながら送った文面を眺める。すると想像よりずっと早く既読が付いた。
「はやっ」
このまま返信が来たら画面ずっと見てたってバレる。そんなことバレても何がどうなるわけではないが、妙な気恥ずかしさに襲われ、俺は慌てて画面を閉じた。
閉じたと同時に千明さんからの返信がポップアップで表示される。
『10時は過ぎると思う。何かあった?』
変に心配されても困るので、
『いえ、特に何があったというわけではないです!ただ千明さんの部屋にいてもいいか聞きたくて』
と返信し、すぐ画面を閉じる。ちょっとの間、ホーム画面を眺めているとまたすぐに千明さんからのポップアップが表示された。
『全然いいよ。なる早で帰るね』
その返信にホッとしながら、俺はスタンプを返した。
とりあえずは第一関門突破だ。
ランドンさんの教えに従うなら『バラの香りを纏って相手のベッドの上に寝転んでおく。その時の服装は少しだけ肌が見えるものにする』ということを実行しなければならなかった。その内容は女性用の誘惑方法なんじゃないかとは思ったが、他に方法も思いつかないので仕方ない。
襟ぐりの広い緩めの部屋着を着て、準備はOK。俺はコンビニで買った軽食を片手に、千明さんの部屋へと向かった。
「おっ」
10時も近づく中、俺は千明さんに借りているゲームのボス撃破に成功していた。
千明さんを待つ間に暇つぶしのつもりでやり始めたのだが、ついついのめり込みコンティニューを5回繰り返しスマホで攻略を調べてやっとクリア出来た。
千明さんがいたら褒めてくれたかな、なんておめでたいことを考えているとスマホのアラームが鳴った。ゲームを始める前に、9時45分にセットしておいたアラームを止めながら、俺はロフトベッドへと梯子をのぼる。
しかしいざ誘惑目的でベッドまで来ると、どういう風に寝ていればいいのか分からない。
(くつろいでいる様に?それともゲームでもしていた方が自然?)
布団を被ったり剥いだり、起き上がったり寝てみたり、ゴロゴロと寝返りを打ったり。
とにかく忙しなく動いていると、
「ただいま」
仕事から帰ってきた千明さんが部屋に入ってきてしまった。
「お、おかえりなさい!」
焦った俺は思い切り起き上がって元気に挨拶をしてから、色気も何にもない自分の対応に頭を抱えた。
「どうしたの?頭痛?」
「いや、全然元気ッス……」
「あんまり元気そうには見えないけど……」
ちょっと困ったように笑った千明さんは、脱いだジャケットをソファに投げ、ネクタイを緩めながら髪をかき上げた。
その仕草は全編通して色っぽく、俺は更に頭を抱えた。
「全部が勝てねぇ……」
「え?」
「いや、何でもないッス」
「あ、ゲームの話?……って初期ボスクリアしてるじゃん」
いつの間にか千明さんはテーブルに置いてあったswitchを操作している。
「さっきやっと倒せたんです」
「へぇおめでとう。これやりたかったならゲーム機ごと貸すのに」
千明さんは俺がゲームをやりたくて、部屋に行きたがったと思っているようだ。
「次のステージは可愛いヒロイン出てくるよ」
ソファに寝転んだ千明さんはそのままテレビを付け、片手にスマホを持っている。完全にゲームを始める体勢だ。これではいつも通り部屋でゴロゴロして解散になってしまう。
何かいい雰囲気になりそうなことを言わなければ。
「俺は別にゲームしたくて来たわけじゃないんです」
(素直になれ。素直に言え)
俺は己に言い聞かせ、膝を抱える手に力を入れた。
「俺は千明さんに会いたかっただけです」
恥ずかしくて小声な上に早口になってしまったが、千明さんにはしっかり聞こえたようで、ソファから体を起き上げてこちらを見上げる瞳と視線がかち合った。
やっぱり恥ずかしくて、勢いよく視線をそらす。
「なんか今日……」
テーブルにスマホを置いた千明さんは何かつぶやくと、おもむろに立ち上がりベッドへの梯子を上ってきた。
梯子の軋む音に、俺の心臓はバクバクだった。
「なんか今日、いつもと違くない?」
あなたにおすすめの小説
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
隣に住む先輩の愛が重いです。
陽七 葵
BL
主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。
しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。
途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!
まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。
しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。
そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。
隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!
とあるΩ達の試練
如月圭
BL
吉住クレハは私立成城学園に通う中学三年生の男のオメガだった。同じ学園に通う男のオメガの月城真とは、転校して初めてできた同じオメガの友達だった。そんな真には、番のアルファが居て、クレハはうらやましいと思う。しかし、ベータの女子にとある事で目をつけられてしまい……。
この話はフィクションです。更新は、不定期です。
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!