11 / 17
11話
しおりを挟む
ベッドに上がった千明さんは、端で膝を抱えている俺に近づく。
膝を抱く俺の腕を優しく解くと、そのまま千明さんは首元に顔を埋めた。俺はそのくすぐったさと恥ずかしさにビクッと肩を跳ねさせる。
「……いい匂いするし」
「首で喋らないでください……!」
「なんの香り?これ」
俺の言葉を無視して千明さんは首元で喋り続ける。
「バ、バラです。ボディソープ変えたんで」
「へぇ~いいねこれ」
やっと顔上げた千明さんは俺から離れることはなく、そのまま顔を近づけて唇を塞いだ。緊張していた体がだんだんとほぐれていくのがわかる。
されるがまま、口内を千明さんに蹂躙されている俺の脳内に、ランドンさんとの会話がフラッシュバックする。
積極的。そうだ、積極的にならないと。
「ん……」
俺が自分から舌を絡ませに行くと、一瞬千明さんは動きを止めたがすぐに俺の後頭部を押さえ更に深く口付けてくる。少し荒々しいその刺激に、俺はすっかり高まってしまっていた。このまま行けば、きっと。千明さんだってキス以上のことをしてくれるはず。そう思ってシャツを掴む。
すると、千明さんは突然キスを止めた。
「ごめん、ちょっとやり過ぎた」
眉尻を下げた千明さんは、そう言って俺から離れようとする。
俺は何が『ごめん』なのか全く分からなかった。咄嗟に千明さんの腕を掴んでしまっていた。
「ま、待ってください!なんで……」
想像以上に情けない声が出たが、気にしている余裕はなかった。
「千明さん、やっぱ俺じゃダメなんすか……?」
やはり千明さんにとって俺は一線を越えられない存在なのかもしれない。
盛り上がっているのは俺だけなのかもしれない。思考がフリーズして、ついさっきまでは怖くて聞けないと思っていたことがどんどん口から出て行った。
「千明さんモテるから、俺じゃなくても相手いるんですか?」
「え?なに?」
「俺みたいな男より、やっぱり女性の方がいいんですか?」
「巡、ちょっと待って」
「でも、俺は千明さんしか、千明さんにしか…」
興奮しないんです。
最後の言葉は本当に小さくて、自分の口の中でつぶやいただけだった。爪が白くなるくらいの強さで千明さんの腕を掴んだまま、俺は深く息を吐いた。
言ってしまった。
あぁ、言わなくてもいいことを言ってしまった。
何してんだ俺は。馬鹿なのか。
もう千明さんの顔を見ることが出来ず、頭を垂れた体勢で動けなかった。何も言わない千明さんが怖かった。
「……巡」
しばらく経って、いや、実際には数秒かもしれないのだが、とにかく先に沈黙を破ったのは千明さんだった。千明さんは腕にしがみつく俺の手をそっと掴んで離させる。
「巡、あのさ」
「いえ、大丈夫です。変なこと言ってすみませんでした」
千明さんが何か言い始めれば、それはそれで何を言われるのか恐ろしく、俺は早口で謝ってベッドから下りようとした。しかし、それは目の前にいる千明さんに制される。
「待った。俺にも言いたいことがある」
その声音が低くて、俺はびくっと止まった。浮きかけた腰を再びベッドに沈めると、千明さんは俺の顎に手を添えて顔を上げさせた。
「あのさ、俺巡以外に男も女もいないよ。それから、巡のことを女性と比べたりもしてない。俺は巡のことが好きだから、付き合ってるんだよ。俺ってそんなに信用ない?」
千明さんは怒っているような悲しんでいるような、感情を読み取れない目をしていた。俺は、ぶんぶんと勢いよく頭を横に振る。
「信用ないなんてそんな……!そういうことではないんですホントに!さっき言ったことは忘れてください!」
「俺のこと、好きじゃなくなった?」
振り回していた顔を両手で挟まれて、俺はぴたりと動きを止めた。
千明さんの綺麗な顔が至近近距離にあった。その表情にははっきりとした憂いが見え、胸がぎゅっと締まる。
「俺は、千明さん、すきです」
片言のような返答しか出来ない自分を殴りたくなりながら俺が見返すと、「よかった。俺も好きだよ」と顔を緩ませた千明さんは、またすぐに真剣な顔に戻った。
「不安にさせた原因が俺にあるなら謝るから、何が原因なのか教えて」
「そ、それは……その」
本人を目の前にして、『もっとエロいことがしたい』なんて言うのも恥ずかしいが「俺には言えないこと?」と瞳を揺らされて俺の罪悪感はピークに達した。
千明さんを不安にさせる訳にはいかない、その気持ちだけで俺は口を開いた。
「あの……引かずに聞いてほしいんすけど……」
「うん。平気だから、言ってみて」
真剣に見つめてくる千明さんの目を、見たりそらしたり見たりを繰り返してから、俺は自分の手元に視線を落とした。
「……そのですね、キス以上の……ことがしたくて……」
「え?」
膝を抱く俺の腕を優しく解くと、そのまま千明さんは首元に顔を埋めた。俺はそのくすぐったさと恥ずかしさにビクッと肩を跳ねさせる。
「……いい匂いするし」
「首で喋らないでください……!」
「なんの香り?これ」
俺の言葉を無視して千明さんは首元で喋り続ける。
「バ、バラです。ボディソープ変えたんで」
「へぇ~いいねこれ」
やっと顔上げた千明さんは俺から離れることはなく、そのまま顔を近づけて唇を塞いだ。緊張していた体がだんだんとほぐれていくのがわかる。
されるがまま、口内を千明さんに蹂躙されている俺の脳内に、ランドンさんとの会話がフラッシュバックする。
積極的。そうだ、積極的にならないと。
「ん……」
俺が自分から舌を絡ませに行くと、一瞬千明さんは動きを止めたがすぐに俺の後頭部を押さえ更に深く口付けてくる。少し荒々しいその刺激に、俺はすっかり高まってしまっていた。このまま行けば、きっと。千明さんだってキス以上のことをしてくれるはず。そう思ってシャツを掴む。
すると、千明さんは突然キスを止めた。
「ごめん、ちょっとやり過ぎた」
眉尻を下げた千明さんは、そう言って俺から離れようとする。
俺は何が『ごめん』なのか全く分からなかった。咄嗟に千明さんの腕を掴んでしまっていた。
「ま、待ってください!なんで……」
想像以上に情けない声が出たが、気にしている余裕はなかった。
「千明さん、やっぱ俺じゃダメなんすか……?」
やはり千明さんにとって俺は一線を越えられない存在なのかもしれない。
盛り上がっているのは俺だけなのかもしれない。思考がフリーズして、ついさっきまでは怖くて聞けないと思っていたことがどんどん口から出て行った。
「千明さんモテるから、俺じゃなくても相手いるんですか?」
「え?なに?」
「俺みたいな男より、やっぱり女性の方がいいんですか?」
「巡、ちょっと待って」
「でも、俺は千明さんしか、千明さんにしか…」
興奮しないんです。
最後の言葉は本当に小さくて、自分の口の中でつぶやいただけだった。爪が白くなるくらいの強さで千明さんの腕を掴んだまま、俺は深く息を吐いた。
言ってしまった。
あぁ、言わなくてもいいことを言ってしまった。
何してんだ俺は。馬鹿なのか。
もう千明さんの顔を見ることが出来ず、頭を垂れた体勢で動けなかった。何も言わない千明さんが怖かった。
「……巡」
しばらく経って、いや、実際には数秒かもしれないのだが、とにかく先に沈黙を破ったのは千明さんだった。千明さんは腕にしがみつく俺の手をそっと掴んで離させる。
「巡、あのさ」
「いえ、大丈夫です。変なこと言ってすみませんでした」
千明さんが何か言い始めれば、それはそれで何を言われるのか恐ろしく、俺は早口で謝ってベッドから下りようとした。しかし、それは目の前にいる千明さんに制される。
「待った。俺にも言いたいことがある」
その声音が低くて、俺はびくっと止まった。浮きかけた腰を再びベッドに沈めると、千明さんは俺の顎に手を添えて顔を上げさせた。
「あのさ、俺巡以外に男も女もいないよ。それから、巡のことを女性と比べたりもしてない。俺は巡のことが好きだから、付き合ってるんだよ。俺ってそんなに信用ない?」
千明さんは怒っているような悲しんでいるような、感情を読み取れない目をしていた。俺は、ぶんぶんと勢いよく頭を横に振る。
「信用ないなんてそんな……!そういうことではないんですホントに!さっき言ったことは忘れてください!」
「俺のこと、好きじゃなくなった?」
振り回していた顔を両手で挟まれて、俺はぴたりと動きを止めた。
千明さんの綺麗な顔が至近近距離にあった。その表情にははっきりとした憂いが見え、胸がぎゅっと締まる。
「俺は、千明さん、すきです」
片言のような返答しか出来ない自分を殴りたくなりながら俺が見返すと、「よかった。俺も好きだよ」と顔を緩ませた千明さんは、またすぐに真剣な顔に戻った。
「不安にさせた原因が俺にあるなら謝るから、何が原因なのか教えて」
「そ、それは……その」
本人を目の前にして、『もっとエロいことがしたい』なんて言うのも恥ずかしいが「俺には言えないこと?」と瞳を揺らされて俺の罪悪感はピークに達した。
千明さんを不安にさせる訳にはいかない、その気持ちだけで俺は口を開いた。
「あの……引かずに聞いてほしいんすけど……」
「うん。平気だから、言ってみて」
真剣に見つめてくる千明さんの目を、見たりそらしたり見たりを繰り返してから、俺は自分の手元に視線を落とした。
「……そのですね、キス以上の……ことがしたくて……」
「え?」
214
あなたにおすすめの小説
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
息の合うゲーム友達とリア凸した結果プロポーズされました。
ふわりんしず。
BL
“じゃあ会ってみる?今度の日曜日”
ゲーム内で1番気の合う相棒に突然誘われた。リアルで会ったことはなく、
ただゲーム中にボイスを付けて遊ぶ仲だった
一瞬の葛藤とほんの少しのワクワク。
結局俺が選んだのは、
“いいね!あそぼーよ”
もし人生の分岐点があるのなら、きっとこと時だったのかもしれないと
後から思うのだった。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました
天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。
そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。
はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。
優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。
「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる