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EP1
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シャワーの音が聞こえる。
俺は何をするでもなく、ただその音を聴いていた。部屋に入ってから、テレビも付けずにベッドに腰かけている。いや正確には一度テレビは付けてみたのだが、いきなりセクシー女優の喘ぎ声と共にAVが流れ始め、俺はリモコンを落としそうになりながらすぐにテレビを消した。それが15分くらい前のことだ。
シャワールームにいる恋人がいつ出てくるのかと思うと全く気持ちが落ち着かない。早く出てきて欲しい気持ちと、このまま永遠にシャワーの音を聴いていたい気持ちが葛藤している。
(なんで俺、先にシャワー浴びちゃったんだろ。やっぱり後からにすればよかった)
どちらが先に浴びても何が変わるわけでもないのに、俺はさっきからずっと同じ事を後悔しながら、真っ黒なテレビ画面を見つめている。
夏の始まりを感じる少し蒸し暑い部屋。俺は人生初のラブホテルで、吐きそうな緊張感に襲われていた。
++
「巡、起きてる?」
大学のレジュメを読みつつベッドでゴロゴロしていると、千明さんが顔を覗き込んだ。交際が始まった頃は千明さんの部屋にいるだけで落ち着かなかった俺も、今となっては千明さんのゲーム時間が終わるまでベッドで好きなことをして待つのが日常になっている。
「あれ、ゲーム終わったんですか」
「うん。てか、やっぱ巡来てるのにゲームばっかしてらんないし」
言いながら千明さんは、スマホでゲームを開いてから俺の隣へと寝そべる。
「結局ゲームしてるじゃないッスか」
「これはログボを貰うだけだから」
『ログボを貰う』という行為がすぐに終わるのかよくわからないので、俺は明日までに読んでおかなければならないレジュメに再び目を移した。1週間後には定期試験があるのだ。
さっきまで遠かった体温がすぐ近くにあることは嬉しいが、それと同時に心拍数も上がる。急にレジュメの内容が頭に入って来なくなり、字の上で目が滑りだした。付き合いだして一緒にいることに慣れても、体温を感じるほどの距離にいることにはなかなか慣れない。
俺の目がレジュメの同じ行を繰り返しなぞっていると、スマホを見たまま千明さんが「てかさ、今度ホテル行ってみない?」と身を寄せてきたので、俺の目線は一気に横にスライドした。
「え?」
「結構可愛いとこ見つけたんだよ」
「え、あ、ホテルって?」
急な提案に声を裏返す俺とは対照的に、千明さんはなに食わぬ顔で「こことかどう?」とスマホを見せてくる。その画面には確かに可愛らしい内装をした、しかし明らかに普通の宿泊施設ではないホテルの画像が写し出されていた。
「可愛い……ですけど……」
画面から漂うピンク臭から目を離して千明さんに視線を移す。彼はゲーム画面を見ているときと変わらない表情で画面をフリックし始めた。
「ここもオシャレじゃない?最近はラブホもセンスいいの増えたよね」
「は、はぁ……」
「巡はどこがいい?」
やっぱりラブホに誘われてるんだよなと自覚し、俺は目を泳がせる。性行為に関して、俺は千明さんに任せっぱなしだ。千明さんが長めのキスをしてきたら、なんとなくそのまま流されてお互い欲を吐き出す行為をしていた。しかし内容はいわゆる擬似セックスまでで、挿入までしたことはない。
今、ホテルに誘われているということは、つまり、次のステップである挿入までするということに違いない。そう思うと、確認せずにはいられなかった。聞く恥ずかしさより、いきなり本番が始まって俺のせいで失敗したらどうしようという怖さが勝った。
「あの、つまり、その、最後まで全部やるってことですか……?」
顔が熱くなるのを感じながら歯切れ悪くそう尋ねると、千明さんの涼しい目元に驚きの色が出て、すぐに笑みへと変わった。
「ははっ、そんな事ちゃんと聞かれると思わなかった」
スマホをヘッドボードに置いた千明さんは、頬杖をついて俺に微笑む。
「ラブホは気分転換みたいな感じで行こうかなって。巡に無理させたいわけじゃないから、今まで通りの感じでさ」
千明さんだって本当はまともなセックスをしたいはずだ。昔女性と付き合っていたことは知っている。体目当てじゃないから気にするなと言ってくれているが、別れる原因の多くは体の相性だったりするのが世の中だ。
それに、口にしたことはないが挿入への興味はそれなりあった。俺だって健全な性欲のある男子大学生で、アナルに慣れれば相当気持ちが良いということも調べていた。そして優しい千明さんは、俺から言わない限り挿入をけしかけないのも知っていた。何もかも受け身で来たが、この事に関しては俺から言わない限り進まないのだ。
今この流れはチャンスだ、言ってしまえ!と心の中で自分を鼓舞すると、短く息を吸う。
「お、俺だって……千明さんと、その……えっと、最後までするのが嫌だとか、興味ないわけじゃなくて……」
ひどい手汗を感じながら遠回りな言い回ししか出てこない自分が嫌になっていると、千明さんが一瞬真顔になるのがわかった。
「それホント?」
「え、ほ、ホントです。……千明さんとなら、やってみたいと思ってます」
恥ずかしくて小さい声で言うと、千明さんに顔を引き寄せられた。すぐに唇に柔らかいものが当たり、それをキスだと思う間もなく、抱き締められる。
「も~、巡しんどいね……」
「な、なんすか、しんどいて」
「しんどいもんはしんどいんだよ。可愛くてつらい……」
ネガティブなような誉めているような言葉を並べられ、俺が微妙な顔をしていると、千明さんはもう一度唇を重ねる。
「よし、じゃあさ。巡の試験終わったら行こうね」
頭を撫でる千明さんの手と優しい視線に気恥ずかしさを感じてしまい、聞こえるかわからない音量で「……はい」と呟いて、俺はそのまま目線をレジュメに戻した。
俺は何をするでもなく、ただその音を聴いていた。部屋に入ってから、テレビも付けずにベッドに腰かけている。いや正確には一度テレビは付けてみたのだが、いきなりセクシー女優の喘ぎ声と共にAVが流れ始め、俺はリモコンを落としそうになりながらすぐにテレビを消した。それが15分くらい前のことだ。
シャワールームにいる恋人がいつ出てくるのかと思うと全く気持ちが落ち着かない。早く出てきて欲しい気持ちと、このまま永遠にシャワーの音を聴いていたい気持ちが葛藤している。
(なんで俺、先にシャワー浴びちゃったんだろ。やっぱり後からにすればよかった)
どちらが先に浴びても何が変わるわけでもないのに、俺はさっきからずっと同じ事を後悔しながら、真っ黒なテレビ画面を見つめている。
夏の始まりを感じる少し蒸し暑い部屋。俺は人生初のラブホテルで、吐きそうな緊張感に襲われていた。
++
「巡、起きてる?」
大学のレジュメを読みつつベッドでゴロゴロしていると、千明さんが顔を覗き込んだ。交際が始まった頃は千明さんの部屋にいるだけで落ち着かなかった俺も、今となっては千明さんのゲーム時間が終わるまでベッドで好きなことをして待つのが日常になっている。
「あれ、ゲーム終わったんですか」
「うん。てか、やっぱ巡来てるのにゲームばっかしてらんないし」
言いながら千明さんは、スマホでゲームを開いてから俺の隣へと寝そべる。
「結局ゲームしてるじゃないッスか」
「これはログボを貰うだけだから」
『ログボを貰う』という行為がすぐに終わるのかよくわからないので、俺は明日までに読んでおかなければならないレジュメに再び目を移した。1週間後には定期試験があるのだ。
さっきまで遠かった体温がすぐ近くにあることは嬉しいが、それと同時に心拍数も上がる。急にレジュメの内容が頭に入って来なくなり、字の上で目が滑りだした。付き合いだして一緒にいることに慣れても、体温を感じるほどの距離にいることにはなかなか慣れない。
俺の目がレジュメの同じ行を繰り返しなぞっていると、スマホを見たまま千明さんが「てかさ、今度ホテル行ってみない?」と身を寄せてきたので、俺の目線は一気に横にスライドした。
「え?」
「結構可愛いとこ見つけたんだよ」
「え、あ、ホテルって?」
急な提案に声を裏返す俺とは対照的に、千明さんはなに食わぬ顔で「こことかどう?」とスマホを見せてくる。その画面には確かに可愛らしい内装をした、しかし明らかに普通の宿泊施設ではないホテルの画像が写し出されていた。
「可愛い……ですけど……」
画面から漂うピンク臭から目を離して千明さんに視線を移す。彼はゲーム画面を見ているときと変わらない表情で画面をフリックし始めた。
「ここもオシャレじゃない?最近はラブホもセンスいいの増えたよね」
「は、はぁ……」
「巡はどこがいい?」
やっぱりラブホに誘われてるんだよなと自覚し、俺は目を泳がせる。性行為に関して、俺は千明さんに任せっぱなしだ。千明さんが長めのキスをしてきたら、なんとなくそのまま流されてお互い欲を吐き出す行為をしていた。しかし内容はいわゆる擬似セックスまでで、挿入までしたことはない。
今、ホテルに誘われているということは、つまり、次のステップである挿入までするということに違いない。そう思うと、確認せずにはいられなかった。聞く恥ずかしさより、いきなり本番が始まって俺のせいで失敗したらどうしようという怖さが勝った。
「あの、つまり、その、最後まで全部やるってことですか……?」
顔が熱くなるのを感じながら歯切れ悪くそう尋ねると、千明さんの涼しい目元に驚きの色が出て、すぐに笑みへと変わった。
「ははっ、そんな事ちゃんと聞かれると思わなかった」
スマホをヘッドボードに置いた千明さんは、頬杖をついて俺に微笑む。
「ラブホは気分転換みたいな感じで行こうかなって。巡に無理させたいわけじゃないから、今まで通りの感じでさ」
千明さんだって本当はまともなセックスをしたいはずだ。昔女性と付き合っていたことは知っている。体目当てじゃないから気にするなと言ってくれているが、別れる原因の多くは体の相性だったりするのが世の中だ。
それに、口にしたことはないが挿入への興味はそれなりあった。俺だって健全な性欲のある男子大学生で、アナルに慣れれば相当気持ちが良いということも調べていた。そして優しい千明さんは、俺から言わない限り挿入をけしかけないのも知っていた。何もかも受け身で来たが、この事に関しては俺から言わない限り進まないのだ。
今この流れはチャンスだ、言ってしまえ!と心の中で自分を鼓舞すると、短く息を吸う。
「お、俺だって……千明さんと、その……えっと、最後までするのが嫌だとか、興味ないわけじゃなくて……」
ひどい手汗を感じながら遠回りな言い回ししか出てこない自分が嫌になっていると、千明さんが一瞬真顔になるのがわかった。
「それホント?」
「え、ほ、ホントです。……千明さんとなら、やってみたいと思ってます」
恥ずかしくて小さい声で言うと、千明さんに顔を引き寄せられた。すぐに唇に柔らかいものが当たり、それをキスだと思う間もなく、抱き締められる。
「も~、巡しんどいね……」
「な、なんすか、しんどいて」
「しんどいもんはしんどいんだよ。可愛くてつらい……」
ネガティブなような誉めているような言葉を並べられ、俺が微妙な顔をしていると、千明さんはもう一度唇を重ねる。
「よし、じゃあさ。巡の試験終わったら行こうね」
頭を撫でる千明さんの手と優しい視線に気恥ずかしさを感じてしまい、聞こえるかわからない音量で「……はい」と呟いて、俺はそのまま目線をレジュメに戻した。
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