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1章 断罪回避
49 大団円だけど彼が気になる
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「私もアーサーも、お前たちのことを諦めていた。聖女のペンダントを欲するなど、正気の沙汰ではない。強欲に取り憑かれているのだと決めつけた。だが……」
ふと、父の笑みが消える。
「お前たちが欲しがっていたのはペンダントだけ。宝石の一つでさえ、ねだられたことはなかった。本物の聖女である可能性を考えるべきだった……すまない、アナベル」
頭を下げる父に、私の不信感が消えていく。
「……私も、今までお父様やお兄様を無視して、すみませんでした」
私は頭を下げた。
元のアナベルも、きっとそうすると思ったから。
「これからは、監視付きで外へ出られるからな。時々帰ってこい」
「はい。便宜を図ってくださり、ありがとうございます」
素直にお礼が言えたことに自分で驚きながら、私はエントランスへ戻った。
屋敷を出たところで、
「アナベルちゃん」
と、呼び止められた。
振り返ると、ルイーザさんがぽてぽてと近付いてくるところだった。
「ルイーザさん、お邪魔しました」
「もう帰っちゃうの?また来るわよね?」
「まあ、時々は。でも、すぐ帰ります。兄が嫌がりそうなので」
肩をすくめてみせると、ルイーザさんは、しゅんと眉尻を下げてしまった。
「そんなぁ……じゃあ、せめてこの子が産まれたらゆっくり顔を見に来てやって?」
ルイーザさんが、自分のお腹を優しくなでる。
「この子って……えっ、そうなんですか?おめでとうございます!出産祝い、考えておきます!」
「……お前、本当はアナベルじゃないだろ」
嫌味な声が聞こえて、私のテンションが一気に落ちた。
「また出た……」
「何だ、その言い方は。見送りぐらいはしてやろうと思ったのに」
玄関から出てきたアーサーが、思い切り顔をしかめる。
「あ、そうですか。どうもありがとうございます。でも急いでるんで、それじゃ」
「アナベルちゃん、お約束でもあるの?」
「約束はしてないんですけど、会いたい人がいるんです」
そう答えると、アーサーは雷に打たれたような顔で目を剥いた。
ルイーザさんは、光り輝く笑みを浮かべる。
「まあ!それって恋人──」
「違います!お見舞いです、お見舞い!」
すでに微妙に意識しているから、余計なことを言わないでほしい。
食い気味に叫ぶ私を、アーサーはまじまじと見つめてくる。
「見舞い?お前が?」
「いけませんか?」
聞き返すと、アーサーは「う」と声を詰まらせた。
それから、気まずそうに目を泳がせて、
「その……父上がお前を晩餐に呼んだら、まあ、付き合ってやる」
と、ボソボソと言った。
「ふーん……どうもありがとうございます、優しいお兄様」
私はニヤッと笑ってみせた。
アーサーが──兄が何か言い返そうとしてきたが、その前に走って逃げる。
前庭から門を出た私は、勢い余って転びそうになった。
見知った顔が並んでいたからだ。
「アナベル!」
リリィが私に駆け寄ってくる。
その後ろにいるのは、レオナルドを始めとする男性陣。
なぜかフィンとルーシーもいる。
「な、なんでここに?」
「レオから聞いたの。アナベルが今日お屋敷に戻るって。だから、食事に誘いに来たの」
「私を、食事に?」
ぽかんとすると、リリィは恥ずかしそうに両手を揉み合わせた。
「う、うん。私のこと助けてくれたし。お礼がしたくて……」
その背後から、フィンがコソッと付け加えた。
「リリィ様は、アナベル様のことをお姉様のようだとおっしゃったのですよ」
「もう、フィン!」
リリィが頬を染めて怒り出す。
しばらく落ち込んでいるんじゃないかと気になっていたけど、立ち直ったようで何よりだ。
レオナルドも同じなのか、安心したように微笑んでいる。
「まあまあ。でも、僕らもアナベルを頼りにしてるよ」
「ええ。私たちも食事に誘われましたので、全員でエルディリス邸へ参りませんか?」
エリオットが、ゲームでも見たことのない穏やかな笑みを浮かべる。
「えっと、私も参加したいんだけど……ごめん!どうしても今から行きたいところがあって」
罪悪感を誤魔化すように、私はバチンと手を合わせた。
みんなのテンションが急降下する。
ますます胸が痛い。
「それで、さらに申し訳ないんだけど……リリィ、ちょっとだけペンダント借りていい?今日中には返すから」
「いいわ。でも、返すのはうちへ遊びに来る時ね。そうしたら、早く来てくれるでしょ?」
リリィはいたずらっぽく笑うと、ペンダントを外した。
「ほ、本当にいいの?返すの、来週になっちゃうよ?」
「ええ。魔物が来たら、どのみちアナベルに渡さなくちゃいけないし」
「でも、そんなあっさり……」
「もう、お母様の顔色を窺わなくていいから。お母様は……もういないんだもの」
リリィは沈んだ声で、しかしきっぱりと言い切ると、私の首にペンダントをかけてくれた。
途端に宝石から、「聖女様だ!」という小騒ぎが聞こえる。
特に火の精霊のヒナがはしゃいでいるのか、ペンダントからピヨッと赤い羽根が飛び出した。
「みんな、落ち着いてよ。リリィ、ごめんね」
「ううん。急ぐんでしょう?気をつけて。またね、アナベル」
「ありがとう、また来週!」
私が駆け出すと、後ろからルークの呟きが聞こえた。
「アナベルさん、男の人のところに行くんだったらどうしよう……?」
その瞬間、後方から悲壮な空気が漂ってきた。
私が男性と会ったら、どうして駄目なんだろう。
よくわからないけど、リリィが元気そうでよかった。
レオナルドも、ギデオンも、たくさん辛いことがあったけど、みんな一緒ならきっと大丈夫。
だから、一人ぼっちのイザークが余計に心配になる。
角を曲がると、乗ってきた馬車が停まっている。
馬をなでるジョルジュさんが、私に気付いた。
「アナベル様!もうお部屋へ戻られますか?」
「その前に、イザークの家に行きたいの。時間、あるかな?」
「まだ二時間はありますが……あの、イザークというのは処刑人では?」
「そうだよ。無理そう?」
「少し急げば、間に合うかと……しかし、本当によろしいのですか……?」
「うん。なんで?」
「……いえ、何でもありません」
ジョルジュさんは肩を縮こめつつも、「ご案内します」と馬車の扉を開けてくれた。
ふと、父の笑みが消える。
「お前たちが欲しがっていたのはペンダントだけ。宝石の一つでさえ、ねだられたことはなかった。本物の聖女である可能性を考えるべきだった……すまない、アナベル」
頭を下げる父に、私の不信感が消えていく。
「……私も、今までお父様やお兄様を無視して、すみませんでした」
私は頭を下げた。
元のアナベルも、きっとそうすると思ったから。
「これからは、監視付きで外へ出られるからな。時々帰ってこい」
「はい。便宜を図ってくださり、ありがとうございます」
素直にお礼が言えたことに自分で驚きながら、私はエントランスへ戻った。
屋敷を出たところで、
「アナベルちゃん」
と、呼び止められた。
振り返ると、ルイーザさんがぽてぽてと近付いてくるところだった。
「ルイーザさん、お邪魔しました」
「もう帰っちゃうの?また来るわよね?」
「まあ、時々は。でも、すぐ帰ります。兄が嫌がりそうなので」
肩をすくめてみせると、ルイーザさんは、しゅんと眉尻を下げてしまった。
「そんなぁ……じゃあ、せめてこの子が産まれたらゆっくり顔を見に来てやって?」
ルイーザさんが、自分のお腹を優しくなでる。
「この子って……えっ、そうなんですか?おめでとうございます!出産祝い、考えておきます!」
「……お前、本当はアナベルじゃないだろ」
嫌味な声が聞こえて、私のテンションが一気に落ちた。
「また出た……」
「何だ、その言い方は。見送りぐらいはしてやろうと思ったのに」
玄関から出てきたアーサーが、思い切り顔をしかめる。
「あ、そうですか。どうもありがとうございます。でも急いでるんで、それじゃ」
「アナベルちゃん、お約束でもあるの?」
「約束はしてないんですけど、会いたい人がいるんです」
そう答えると、アーサーは雷に打たれたような顔で目を剥いた。
ルイーザさんは、光り輝く笑みを浮かべる。
「まあ!それって恋人──」
「違います!お見舞いです、お見舞い!」
すでに微妙に意識しているから、余計なことを言わないでほしい。
食い気味に叫ぶ私を、アーサーはまじまじと見つめてくる。
「見舞い?お前が?」
「いけませんか?」
聞き返すと、アーサーは「う」と声を詰まらせた。
それから、気まずそうに目を泳がせて、
「その……父上がお前を晩餐に呼んだら、まあ、付き合ってやる」
と、ボソボソと言った。
「ふーん……どうもありがとうございます、優しいお兄様」
私はニヤッと笑ってみせた。
アーサーが──兄が何か言い返そうとしてきたが、その前に走って逃げる。
前庭から門を出た私は、勢い余って転びそうになった。
見知った顔が並んでいたからだ。
「アナベル!」
リリィが私に駆け寄ってくる。
その後ろにいるのは、レオナルドを始めとする男性陣。
なぜかフィンとルーシーもいる。
「な、なんでここに?」
「レオから聞いたの。アナベルが今日お屋敷に戻るって。だから、食事に誘いに来たの」
「私を、食事に?」
ぽかんとすると、リリィは恥ずかしそうに両手を揉み合わせた。
「う、うん。私のこと助けてくれたし。お礼がしたくて……」
その背後から、フィンがコソッと付け加えた。
「リリィ様は、アナベル様のことをお姉様のようだとおっしゃったのですよ」
「もう、フィン!」
リリィが頬を染めて怒り出す。
しばらく落ち込んでいるんじゃないかと気になっていたけど、立ち直ったようで何よりだ。
レオナルドも同じなのか、安心したように微笑んでいる。
「まあまあ。でも、僕らもアナベルを頼りにしてるよ」
「ええ。私たちも食事に誘われましたので、全員でエルディリス邸へ参りませんか?」
エリオットが、ゲームでも見たことのない穏やかな笑みを浮かべる。
「えっと、私も参加したいんだけど……ごめん!どうしても今から行きたいところがあって」
罪悪感を誤魔化すように、私はバチンと手を合わせた。
みんなのテンションが急降下する。
ますます胸が痛い。
「それで、さらに申し訳ないんだけど……リリィ、ちょっとだけペンダント借りていい?今日中には返すから」
「いいわ。でも、返すのはうちへ遊びに来る時ね。そうしたら、早く来てくれるでしょ?」
リリィはいたずらっぽく笑うと、ペンダントを外した。
「ほ、本当にいいの?返すの、来週になっちゃうよ?」
「ええ。魔物が来たら、どのみちアナベルに渡さなくちゃいけないし」
「でも、そんなあっさり……」
「もう、お母様の顔色を窺わなくていいから。お母様は……もういないんだもの」
リリィは沈んだ声で、しかしきっぱりと言い切ると、私の首にペンダントをかけてくれた。
途端に宝石から、「聖女様だ!」という小騒ぎが聞こえる。
特に火の精霊のヒナがはしゃいでいるのか、ペンダントからピヨッと赤い羽根が飛び出した。
「みんな、落ち着いてよ。リリィ、ごめんね」
「ううん。急ぐんでしょう?気をつけて。またね、アナベル」
「ありがとう、また来週!」
私が駆け出すと、後ろからルークの呟きが聞こえた。
「アナベルさん、男の人のところに行くんだったらどうしよう……?」
その瞬間、後方から悲壮な空気が漂ってきた。
私が男性と会ったら、どうして駄目なんだろう。
よくわからないけど、リリィが元気そうでよかった。
レオナルドも、ギデオンも、たくさん辛いことがあったけど、みんな一緒ならきっと大丈夫。
だから、一人ぼっちのイザークが余計に心配になる。
角を曲がると、乗ってきた馬車が停まっている。
馬をなでるジョルジュさんが、私に気付いた。
「アナベル様!もうお部屋へ戻られますか?」
「その前に、イザークの家に行きたいの。時間、あるかな?」
「まだ二時間はありますが……あの、イザークというのは処刑人では?」
「そうだよ。無理そう?」
「少し急げば、間に合うかと……しかし、本当によろしいのですか……?」
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