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1章 断罪回避
34 爆速逆転
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トカゲや蛇の魔物は、水属性に弱かったはず。
「ミゾレ、お願い!」
私は両手で器を作り、目の前を浮遊する水色うさぎをすくった。
ミゾレは私の手にちょこんと収まり、小さな鼻をヒクヒクさせる。
「はぁい、全部氷漬けにします……」
ミゾレの体が、ぼうっと光る。
その周りに雪の結晶が生まれていく。
「なるべく急いで──あ、イザークは凍らせないでよ⁉︎」
「大丈夫ですよー……」
本当だろうか。
この子、ヒナと一緒に森を更地にしてたけど。
私はイザークの無事を祈りつつ、壁越しに彼を見た。
直後、イザークの周りに氷の棘がいくつも生える。
その一つひとつが、キン!と甲高い音を立て、瞬きの間に外側へ伸びた。
花のような形の氷に、魔物たちはすべて閉じ込められた。
アートみたい、と眺める間もなく、それらはサラサラと雪の粉になり、風にさらわれてしまった。
あとに残ったのは、膝をつくイザークだけだ。
「ミゾレ、すごい……!」
「聖女様の力のおかげです……」
ミゾレは私の腕をよじ登り、肩の上で「ぴっ」と鳴いた。
その時、後方でどよめきが湧いた。
「なんと、本当に一掃するとは……」
「ほ、ほら!リリィの力はすごいでしょう?」
そうだ、マチルダたちの防壁も作らなくちゃいけないんだ。
(ついでに私たちの壁も広げよう)
頭でイメージすると、コハクが私の腕の中に収まり、モフモフッと震えた。
その体が光ると同時に、後方に岩の筒が現れる。
「リリィ、何をするの⁉︎」
予想通りの喚き声が飛んでくる。
「可愛いあなたが見えないわ!早くこの囲いを消してちょうだい!」
「マチルダ、落ち着いてくれ。これは安全のためなんだ!」
なだめているのはレオナルドだろう。
王様、頑張れ。
心の中で祈りながら、私とリリィを囲む壁を、それぞれ三倍に広げた。
閉塞感がなくなって、少しホッとする。
ささやかな安らぎもつかの間、すぐに地鳴りのような音が響いてきた。
魔物の群れが、大聖堂の奥から湧いてくる。
今度はコウモリや蔦の魔物もいる。
戦いの音や血の匂いで、人間がいると気付いたらしい。
「イザーク!早く、こっちへ!」
イザークは剣を鞘に収め、少し足を引きずりながら、私の方へ走ってきた。
岩の壁を飛び越え、私の隣に立つ。
それを待つ間に、私は次の行動を考えていた。
「蔦は火、コウモリは風で攻撃して……あ、トカゲもいるから水も使わなくちゃ」
ひとりごとを言っていると、コハクが手足をピコピコと動かす。
「聖女さま、下からもくるよ!」
「そういえばモグラっぽい魔物もいたっけ。モグラは地属性に弱いから……もう、全員でドーンとやっちゃって!」
「わっかりました、聖女様ー!」
ヒナが翼を羽ばたかせる。
四匹の精霊たちが、強烈な光を放つ。
「眩しっ!」
私は耐えられずに目を閉じた。
一瞬の静寂のあと、轟音と爆風、熱と揺れ……あらゆるものが目以外の感覚器官を直撃する。
どこで何が起きているのやら、訳がわからない。
風と揺れが治まってきたところで、私は肩を叩かれた。
「アナベル様、終わったようです」
イザークに言われて、目を開ける。
魔物は一匹もいなかった。
「よし!」
拳を握ると、指先に痛みが走る。
爪の先が削れて、一部はひび割れている。
(いてて……そうだった。私たち、ズタボロなんだ)
痛みを堪えて、魔物に襲われまくっていたイザークを見た。
「うわっ!」
思わず声を上げてしまった。
今のイザークは、茨の森に突撃した人みたいだ。
腕にも脚にも、噛み傷と引っかき傷。
服が破れたところには血がにじんでいる。
特に左手の甲はひどい。
ただ、噛み傷でも切り傷でもない。
きっと、わざと剣で切ったんだろう。
血で魔物を引きつけるために。
「イザーク、大丈夫⁉︎」
「はい。それよりアナベル様、予定より時間がかかっていましたね。問題が起きたのですか?」
「そんなことより、まずは怪我だよ!早く治さないと……ああ、傷薬をもらっておくんだった」
「そうですね、アナベル様を治さなくては。手が傷だらけです。なぜこんなことに?」
「私のはどうでもいい!イザークの方が明らかに痛々しいよ!リリィも弱ってるし……あああ、どうしよう」
あたふたしていると、ナギがスーッと目の前に下りてきた。
「聖女様のお力があれば、肉体を修復できますが」
「本当⁉︎」
精霊ってすごい。
何でもありだ。
「じゃあイザークとリリィと、ついでに私の手も治せる?」
「魔力は回復できませんが……お任せください」
四匹の精霊が、ふわっと優しく光り出す。
その光は私とイザーク、それからリリィの方へと動き、傷にまとわりついた。
ほのかな温みの中、どんどん痛みが消えていく。
温泉に浸かっているみたいで気持ちいい。
光がなくなると、私の手もイザークの傷も、何事もなかったように治っていた。
イザークの服も元通りだ。
私のローブの土汚れも綺麗になった。
おまけで直してくれたらしい。
「わあ、ありがとう!」
「聖女様のお力があれば、容易いことです」
「ボクたちもスッキリ~」
「うん、わかる……」
精霊たちが私の頬にすり寄ってくる。
顔の周りがモフモフ天国だ。
少しして、四匹は満足そうにペンダントへ戻った。
リリィの方をチラッと覗くと、自身の体を不思議そうに触っているところだった。
昨夜の傷も癒えたのだろう。
よかった……
私は一息ついて、イザークを見た。
「イザーク、痛いところはある?」
「いいえ。それどころか、ずいぶんと体調がいいのです。ありがとうございました」
「そっか。じゃ、こっちを向いてくれるかな?」
「はい」
イザークは、素直に私に向き直った。
彼は何も気付いていないのだろう。
そのことが余計に腹立たしい。
私は、お姫様がお辞儀する時みたいに、ローブの裾を持ち上げた。
それからちょっと膝を曲げて、思い切りジャンプする。
狙い通り、頭がイザークのあごにクリーンヒットした。
「ミゾレ、お願い!」
私は両手で器を作り、目の前を浮遊する水色うさぎをすくった。
ミゾレは私の手にちょこんと収まり、小さな鼻をヒクヒクさせる。
「はぁい、全部氷漬けにします……」
ミゾレの体が、ぼうっと光る。
その周りに雪の結晶が生まれていく。
「なるべく急いで──あ、イザークは凍らせないでよ⁉︎」
「大丈夫ですよー……」
本当だろうか。
この子、ヒナと一緒に森を更地にしてたけど。
私はイザークの無事を祈りつつ、壁越しに彼を見た。
直後、イザークの周りに氷の棘がいくつも生える。
その一つひとつが、キン!と甲高い音を立て、瞬きの間に外側へ伸びた。
花のような形の氷に、魔物たちはすべて閉じ込められた。
アートみたい、と眺める間もなく、それらはサラサラと雪の粉になり、風にさらわれてしまった。
あとに残ったのは、膝をつくイザークだけだ。
「ミゾレ、すごい……!」
「聖女様の力のおかげです……」
ミゾレは私の腕をよじ登り、肩の上で「ぴっ」と鳴いた。
その時、後方でどよめきが湧いた。
「なんと、本当に一掃するとは……」
「ほ、ほら!リリィの力はすごいでしょう?」
そうだ、マチルダたちの防壁も作らなくちゃいけないんだ。
(ついでに私たちの壁も広げよう)
頭でイメージすると、コハクが私の腕の中に収まり、モフモフッと震えた。
その体が光ると同時に、後方に岩の筒が現れる。
「リリィ、何をするの⁉︎」
予想通りの喚き声が飛んでくる。
「可愛いあなたが見えないわ!早くこの囲いを消してちょうだい!」
「マチルダ、落ち着いてくれ。これは安全のためなんだ!」
なだめているのはレオナルドだろう。
王様、頑張れ。
心の中で祈りながら、私とリリィを囲む壁を、それぞれ三倍に広げた。
閉塞感がなくなって、少しホッとする。
ささやかな安らぎもつかの間、すぐに地鳴りのような音が響いてきた。
魔物の群れが、大聖堂の奥から湧いてくる。
今度はコウモリや蔦の魔物もいる。
戦いの音や血の匂いで、人間がいると気付いたらしい。
「イザーク!早く、こっちへ!」
イザークは剣を鞘に収め、少し足を引きずりながら、私の方へ走ってきた。
岩の壁を飛び越え、私の隣に立つ。
それを待つ間に、私は次の行動を考えていた。
「蔦は火、コウモリは風で攻撃して……あ、トカゲもいるから水も使わなくちゃ」
ひとりごとを言っていると、コハクが手足をピコピコと動かす。
「聖女さま、下からもくるよ!」
「そういえばモグラっぽい魔物もいたっけ。モグラは地属性に弱いから……もう、全員でドーンとやっちゃって!」
「わっかりました、聖女様ー!」
ヒナが翼を羽ばたかせる。
四匹の精霊たちが、強烈な光を放つ。
「眩しっ!」
私は耐えられずに目を閉じた。
一瞬の静寂のあと、轟音と爆風、熱と揺れ……あらゆるものが目以外の感覚器官を直撃する。
どこで何が起きているのやら、訳がわからない。
風と揺れが治まってきたところで、私は肩を叩かれた。
「アナベル様、終わったようです」
イザークに言われて、目を開ける。
魔物は一匹もいなかった。
「よし!」
拳を握ると、指先に痛みが走る。
爪の先が削れて、一部はひび割れている。
(いてて……そうだった。私たち、ズタボロなんだ)
痛みを堪えて、魔物に襲われまくっていたイザークを見た。
「うわっ!」
思わず声を上げてしまった。
今のイザークは、茨の森に突撃した人みたいだ。
腕にも脚にも、噛み傷と引っかき傷。
服が破れたところには血がにじんでいる。
特に左手の甲はひどい。
ただ、噛み傷でも切り傷でもない。
きっと、わざと剣で切ったんだろう。
血で魔物を引きつけるために。
「イザーク、大丈夫⁉︎」
「はい。それよりアナベル様、予定より時間がかかっていましたね。問題が起きたのですか?」
「そんなことより、まずは怪我だよ!早く治さないと……ああ、傷薬をもらっておくんだった」
「そうですね、アナベル様を治さなくては。手が傷だらけです。なぜこんなことに?」
「私のはどうでもいい!イザークの方が明らかに痛々しいよ!リリィも弱ってるし……あああ、どうしよう」
あたふたしていると、ナギがスーッと目の前に下りてきた。
「聖女様のお力があれば、肉体を修復できますが」
「本当⁉︎」
精霊ってすごい。
何でもありだ。
「じゃあイザークとリリィと、ついでに私の手も治せる?」
「魔力は回復できませんが……お任せください」
四匹の精霊が、ふわっと優しく光り出す。
その光は私とイザーク、それからリリィの方へと動き、傷にまとわりついた。
ほのかな温みの中、どんどん痛みが消えていく。
温泉に浸かっているみたいで気持ちいい。
光がなくなると、私の手もイザークの傷も、何事もなかったように治っていた。
イザークの服も元通りだ。
私のローブの土汚れも綺麗になった。
おまけで直してくれたらしい。
「わあ、ありがとう!」
「聖女様のお力があれば、容易いことです」
「ボクたちもスッキリ~」
「うん、わかる……」
精霊たちが私の頬にすり寄ってくる。
顔の周りがモフモフ天国だ。
少しして、四匹は満足そうにペンダントへ戻った。
リリィの方をチラッと覗くと、自身の体を不思議そうに触っているところだった。
昨夜の傷も癒えたのだろう。
よかった……
私は一息ついて、イザークを見た。
「イザーク、痛いところはある?」
「いいえ。それどころか、ずいぶんと体調がいいのです。ありがとうございました」
「そっか。じゃ、こっちを向いてくれるかな?」
「はい」
イザークは、素直に私に向き直った。
彼は何も気付いていないのだろう。
そのことが余計に腹立たしい。
私は、お姫様がお辞儀する時みたいに、ローブの裾を持ち上げた。
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