断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

41 潜入

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「私たちは怪しい者ではありません。こちらにおわすのは、国王陛下であらせられます」

 顔は上げられない。
 正体がばれたらマチルダに報告されて、城に戻されてしまう。

 心臓がドキドキとうるさいけど、それを悟られてはならない。
 私は頭を下げたまま、上目遣いで兵士の様子をうかがった。
 
「国王陛下?」

 見張りの兵士が眉をひそめ、レオナルドを見る。
 そしてすぐさま姿勢を正し、お辞儀をした。

「申し訳ございません!まさか陛下がいらっしゃるとは……無礼をお許しください。しかし、陛下がなぜここへ?」

 問われたレオナルドは、「え」と言ったきり、顔を引きつらせて硬直してしまった。

 動揺が丸出しだ。
 議員の前でもこうなのだろうか。

 帰ったら、まずはポーカーフェイスの練習をさせよう。
 私はひそかに決意した。

 そして、さりげなくレオナルドの前へ移動しながら、彼の代わりに答えた。

「リリィ様がお倒れになったと伺いました。陛下は大変ご心配なさっています。しかしマチルダ様は、見舞いは不要だと。ですので、せめて屋敷周りの見回りをしよう、と陛下がおっしゃったのです」

「それは……恐れ入ります。ですが、陛下がお手を煩わせる必要はございません。お気をつけてお帰りください」

「では、なぜこんなに警備が厳重なんだ。以前はこの半分程度だっただろう」

 ギデオンが尋ねると、兵士は黙り込んだ。
 何か隠しているというより、困っているように見える。

「現状を知らされていないようですね」

 イザークの囁きに、私は小さく頷いた。
 それもそうか、と思いながら。

 マチルダが警備を強化したのは、暴徒を恐れたからだろう。
 議員が勝手に「マチルダとリリィは偽聖女だ」と言いふらす可能性があるから。

 それをエルディリス家の兵士が知れば、彼らは逃げ出すかもしれない。
 暴徒を恐れる者や、市民との戦闘をためらう者が。

 だからマチルダは、兵士に何の説明もしていないのだろう。
 卑怯者め。

 私がイライラしている間に、エリオットは兵士に笑顔を向けていた。
 
「とにかく、陛下のご懸念が無くなるまで、見回りをさせてもらいます。あなた方の邪魔はしませんよ」

「それでは失礼いたします」

 私も軽く頭を下げて、その場を離れた。
 しばらく歩くと、レオナルドが心配そうに囁いてきた。

「僕たちがここにいること、見張り全体に伝わるんじゃないか?」

 レオナルドが心配そうに囁く。

「だろうね。でも、いいんじゃない?」

 マチルダにも伝わるかもしれないけど、そこそこ時間はかかるはず。
 対策を取られる前に、侵入してしまえばいいのだ。

「いいって……本当に?見張りに警戒されない?」

 ビクビクしているルークに、私は微笑んでみせた。

「むしろ不安がると思うよ。事情を知らない兵士が多そうでしょ?なんで国王が出てきたんだろうって戸惑うんじゃないかな。それでマチルダに不信感を持ってくれたら、いざという時、こっちの味方になるかも」

「アナベル、どういうことだ?いざという時って?」

「もちろん、リリィを助け出す時だよ」

「アナベル様、お待ちください」

 後ろを歩いていたイザークが、私の肩を叩く。

「先程から、妙に急いでおられますが……もしや、リリィ様は何者かに囚われているのですか?」

 その言葉で、ギデオンたちが私に注目する。

 マチルダがリリィをどう扱っているか、そろそろ話してもいいだろうか。
 でも、どこまで話そう。

 リリィがマチルダに滅多打ちにされているかも、とは言えないし。
 ギデオンは剣を抜いて突撃、ルークは気絶するかもしれない。

「……マチルダって支配的じゃない?リリィを閉じ込めてるかもしれないから、かわいそうで。早く助けてあげたいの」

 匂わせ程度に話すと、レオナルドが目を細めた。

「アナベル……君、頼りになるだけじゃなくて、優しくなったんだね」

「陛下、ようやく気づかれたのですか」

 余計な一言を放ったのは、やっぱりイザークだ。

 即座に空気が剣呑になる。
 家族を失くした時、他人のことを考えられなくなったのかもしれないけど。
 頼むからやめてほしい。

 それともストレスが溜まっているんだろうか。
 そういえば、大聖堂へ向かう時や、戦闘中も様子が変だった。

 何にしても、早く屋敷へ入ってしまおう。
 私は歩くスピードを上げつつ、目が痛くなるほど屋敷の壁を見つめた。

「……ん?」

 屋敷の裏手を通っている時だった。
 蔦だらけの壁に、色の違う部分があった。

「ねえ、あれって……」

 私はそこを指差した。
 蔦に隠れて見えにくいけど、気のせいじゃない。

「扉?」

「木製のようですね」
 
 男性陣にも見えたようだ。
 エリオットは、メガネをつけ外ししてもわからなかったようだけど。

 長い間使われていないのか、近くに見張りもいない。
 あそこから入ろう、とすぐに決まった。
 
 そのためには柵を越えなくてはいけないのだが……
 誰が私を補助するかで、イザーク以外の四人が揉め始めた。

「ギデオンはガサツですから、除外で」

「エリオットは力が足りないだろ」

「待ってくれ。未婚の女性に触るわけだから、元婚約者の僕が……」

「イザーク、よろしく!」

 時間が無駄に潰れていくので、私はズバッと指名した。

「アナベルさん……なんでイザークなの?」

「だってイザークが一番力が強いし……って、なんでルークが涙目?」

 何なんだろう。
 剣呑な空気は消えたけど、今度は重くなってしまった。

 ちなみに蔦や木の扉は、イザークがうまく斬ってくれたので、ほとんど音を立てずに取り払えた。
 私が小声で「すごい」「ありがとう」と言いまくると、さらに空気が重くなった。
 
 何なの、もう。
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