断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

文字の大きさ
70 / 105
2章 魔王討伐

2-18 最後の一撃

しおりを挟む
「手が……右手が痛いぃ……!助けてくれ、イザーク。体を治せない……アルデリアの王を止めてくれ!」

 苦しげな声に、私までたじろいでしまう。
 今さらイザークを動揺させて、魔王は何がしたいんだろう。

「イザーク、イザーク……死ぬのは嫌だ……お前とまた別れるなんて」

「もう、うるさいな……っ!」

 私は力を振り絞って、精霊たちに念じた。
 魔王をぶっ飛ばして、と。

 真っ白な光がフラッシュして、魔王の頭が爆ぜた。
 正しい手順じゃないけど、ほかに攻撃できるところがないのだ。
 仕方ない。
 
 予想通り、顔がじわじわと再生していく。
 リリィたちのおかげで人々の恐怖が減っているから、スピードは遅いけど。

 それでも確実に回復している。

「もう一回……攻撃しないと……!」

「聖女さま、むりなの……」

 丸いコハクが、しょぼんとしぼむ。
 ほかの三匹と一緒に、フラフラとペンダントへ戻っていく。

 頭痛と同時に吐き気がしてきた。
 ステータス画面はないけど、感覚的にわかる。
 魔力が尽きたのだ。

 痛くて苦しくて、気絶することもできない。
 そうしていると、イザークは後ろへ下がり、家の壁に私を持たせかけた。
 それから魔王へ向き直る。

 何をするつもりなんだろう。
 私は頭痛をこらえて様子を見た。

 魔王は再生した口で、またイザークに話しかけてきた。

「イザーク、ごめんな。一人にして……ずっと寂しかっただろ?」

 イザークの体がビクッと震える。
 彼はかすれた声で言い返した。

「今さらです、兄上……あなたは私たちの立場を考えず、覇権を手にするため、謀反を起こそうとした。家族より、プライドの修復を優先したのだ!」

「わかっている……俺は愚かだった。本当に大切なものを、見失っていた……だが、今度はもう間違わない。今の俺にとって、一番大切なのはお前だ。イザーク、また一緒に暮らそう……」

 魔王が、おぞましいほど優しい声で囁く。
 イザークはゆっくりと剣を抜いた。
 しかし迷いがあるのか、剣を構えたり下ろしたりしている。
 
「どうした、その剣は……信じてくれないのか?森へ木苺狩りに行った時、お前は疲れたと言ってぐずった。俺は、すぐにお前を背負ってやった。なぜだと思う?大事な弟だからだ……たった一人の、俺の弟だ」

 そう話す魔王に、私は違和感を覚えた。
 目をこじ開けて魔王を見つめ──気が付いた。
 
 回復速度が上がっている。

 恐怖は減っているはずなのに、どうして。
 魔王を恐れる人が現れたのだろうか。
 でも、もう悲鳴は聞こえないのに。
 まだ眠っていないのは、レオナルドたちと、私と……

 そこまで考えてひらめいた。
 
 イザークだ。
 剣を握る手が小刻みに震えている。
 彼は、強烈に恐れているんだ。
 
 ヴェリクを見殺しにして、また罪悪感に襲われることを。
 それから、再びヴェリクを失うことを。

「イザーク、ファルガランへ帰ろう……な?」

 魔王が、再生しつつある右腕を持ち上げる。
 クレーンのように水平に動いたかと思うと、イザークの真上でピタリと止まった。

 ──人間が恐怖を持ったまま死ぬと、その場に穢れが染みつく──

 あの状態でイザークが叩き潰されれば、穢れが生まれてしまう。
 今、私に浄化する余裕はない。

 じきに王都の人々も目覚めるだろう。
 魔王はあっという間に復活してしまう。
 そうなればおしまいだ。

 イザーク、迷わないで。
 怖がらないで。
 ヴェリクがいなくても、私がいるから。

「駄目だってば……ゲホッ!」

 咳き込んだ私を、イザークはハッとしたように振り返った。

「イザークは、私と、ファルガランに行くんだから……!」

 イザークが目を見開く。
 彼の、剣を持つ手の震えが止まる。

 その頭上に魔王の右腕が振り下ろされる。
 駄目だ、と思った瞬間、光が交差した。
 
 イザークは瞬きのうちに、魔王の右腕へ斬撃の雨を浴びせ、バラバラに裂断させていた。

「イザーク、何を……!お前が一番大切だと言ってやったのに!」

「私には、あなたよりも大切な人がいる!」

 イザークは吼えるように叫び、地を蹴り、魔王の顔に向かって剣を振り下ろした。
 黒々とした口が真っ二つに割れる。

 そして、魔王はもう蘇らなかった。
 黒い塊は、砂のようにサラサラと風に流され、消えてしまった。

 遠くからレオナルドたちの声が聞こえてくる。
 大丈夫か、こっちは終わったぞ、と何度も叫んでいる。

 空を見上げると、魔物たちが飛び去って行くのが見えた。

 終わった。
 やっと、終わった──息をついた拍子に、私は意識を失った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

【完結】婚約破棄された辺境伯爵令嬢、氷の皇帝に溺愛されて最強皇后になりました

きゅちゃん
ファンタジー
美貌と知性を兼ね備えた辺境伯爵令嬢エリアナは、王太子アレクサンダーとの婚約を誇りに思っていた。しかし現れた美しい聖女セレスティアに全てを奪われ、濡れ衣を着せられて婚約破棄。故郷に追放されてしまう。 そんな時、隣国の帝国が侵攻を開始。父の急死により戦場に立ったエリアナは、たった一人で帝国軍に立ち向かうことにー 辺境の令嬢がどん底から這い上がる、最強の復讐劇が今始まる!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...