断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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3章 隣国へ

3-4 ファルガランへ

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「何……?」

「僕は国王だ。イザークを見つけたら、捕縛して、処刑命令を出さなきゃいけない」

「……そうだよね」

 もしかして見逃してくれるかも、と期待していたけど甘かったか。
 私は深呼吸をして、また口を開いた。

「でも、あのイザークを捕まえられる?」

 親衛隊が束になってかかっても、返り討ちにされそうだ。
 しかし、レオナルドはますます顔を曇らせた。

「イザークは抵抗しないんじゃないかな。ペンダントを盗むくらいだ。覚悟はしてると思う」

 言われて、自分も何となく察していたことに気付いた。
 察していたけど、受け入れたくなかったのだ。

 唇を噛んでうつむくと、視界の端に、私を見つめるレオナルドが見えた。
 彼は寂しげに眉を下げ、「やっぱり、君はイザークのことが……」と呟いた。

 しかし、彼はふいに明るく微笑むと、

「大丈夫だよ、アナベル!」

 と、声を張り上げた。

「処刑人が処刑対象なんだ。誰が執行するか、決まるまでに時間がかかる。その間に対策を練ろう」

 顔は青ざめ、声は震えている。
 かなり無理をしているようだ。
 きっと、私を安心させるために。

「……ありがとう」

 こっちも無理に笑ってみせる。
 レオナルドは本当の笑顔だと信じたのか、ホッとしたように頷いた。

「ひとまず、僕は捜索隊を組むよ。少数精鋭で行こう。ヘイルフォード公爵には……見回りをすると伝えておく」

「わかった。私はエルディリス邸に行ってくる」

「リリィのところに?」

「サムエルさんに話を聞くの。最近、イザークとよく会ってたらしいから。行き先を絞れるかも」

「そうだったのか……じゃあ、そっちはよろしく頼む」

 私たちは今後の動きを手早く取り決めて、執務室を出た。

 ジョルジュさんは不安そうな顔をしつつも、黙って私についてきた。
 父も、レオナルドを止めもせず、ただ見ているだけ。

 妙だと思うべきだった。
 が、私もレオナルドも焦ってしまって、それどころではなかった。
 
 私は、今度は金細工付きの馬車に乗り込み、エルディリス邸へ向かった。
 
 これなら王宮からの訪問だと示せる。
 リリィたちと面会するまで、待たなくて済む。
 
 その目論見通り、屋敷の門の前に立つと、すぐにリリィが出てきた。

 嬉しそうに駆けてきた彼女は、前庭の半分ほどまで来た時、急に笑みを消した。
 しかしリリィは足を止めず、私のところまで走ってきた。
 
「アナベル、どうしたの?そんなに怖い顔して……」

 リリィは息を切らせて門を開けた。
 ふいに、私を信じてペンダントを預けてくれたのに──という罪悪感が込み上げてくる。
 
「リリィ、ごめん……!」

「何のこと?説明して。ね?」

 顔を寄せてきたリリィに、私は囁いた。

「イザークが、聖女のペンダントを持って、どこかに消えた」

 リリィは数秒、きょとんとした。
 その顔が見る間に驚愕にゆがむ。

「どうして……」

「まだ確定じゃないの。でも、状況的にそうとしか考えられない。それで、あの人の行き先を知りたいんだ。サムエルさんなら心当たりがあるかもしれないと思って」

「そ、そうね。中へ入って。客間で話しましょう」

 リリィは私の手をつかみ、屋敷へ向かっていく。
 ずいぶん手が震えている。

 そう思ったけど、客間でリリィの手が離れた時、気が付いた。
 震えているのは私の手だった。

 ソファに腰掛け、焦りを抑え、サムエルさんを待つ。
 ドアが開いた瞬間、思わず立ち上がってしまった。

 リリィに続いてサムエルさんが入ってくる。
 彼は眉を寄せていたが、私と目が合うと静かに微笑んだ。

「アナベル様、座って話しましょう」

「は、はい……あの、イザークはどこにいるんでしょう」

 私は、サムエルさんたちと一緒に腰を下ろしながら、口を動かした。

「故郷に帰る、とは聞いたんですけど」

「そうですね……あくまでも私の予測ですが、イザークさんは、ファルガランの王都跡へ向かったと思います」

「跡?復興……できてないんですか?」

「あまりにも被害が大きいため、手をつけられなかったようです。魔王も近くにいましたし」

「……そうだったんですね」

「ええ。そして……イザークさんは、近頃はファルガランの聖女の証について、何度も私に尋ねてきました。それを探しているのなら、王都跡へ行くはずです」

「ん?えっと……?」

 話が繋がらず、思わず首をかしげてしまった。
 それはリリィも同じだったらしい。

「お父様。イザークはペンダントを探しているんでしょう?ファルガランの聖女が持っているんじゃないの?」

「ファルガランでは、聖女の証は国王が持つ決まりなんだよ」

 サムエルさんが言うには、聖女が権力を持たないように、その証を取り上げていたらしい。
 だから精霊も逃げちゃったのか……

「そして、前王様は王都で亡くなられたそうだ。だから、イザークさんは王都跡に行ったと思う」

 サムエルさんはそこまで言うと、また私を見つめてきた。

「なぜペンダントが必要なのかはわかりませんが……とにかく彼を探さなくては」

「そうですね……サムエルさん、お話ありがとうございました」

「いいえ。それより、よろしければご案内しましょうか?」

「だ、大丈夫です!そこまでしてもらわなくても!王都の位置は地図で確認できますから」

「あの町は入り組んでいるんです。迷ったら簡単には出られませんよ。それに、私も彼が心配なので……」

「じゃあ……お願いします」

 私が頭を下げると、リリィも「ついていく」と言った。
 
「見回りへ行く時は、いつも私が一緒でしょう?いなかったら貴族に怪しまれるわ」

「たしかに……リリィにまで迷惑かけて、ごめんね」

「迷惑じゃないわよ。お父様の故郷を見られるんだもの」

 リリィは優しく微笑んだ。
 明らかに気を遣われている。
 私もしっかりしないと。

 私は、大きく息を吸い込んだ。

「リリィ、ありがとう。私ももちろん一緒に行くよ。精霊のみんなが弱ってるだろうから、早くそばに行かないと」
 
 その後、サムエルさんとリリィの支度が済むと、私は馬車で、リリィたちは馬で町の外へ出た。
 私が馬車から下りると、すぐに名前を呼ばれた。

「アナベル様!」
  
 ギデオンが手を振っている。
 その後ろには、レオナルドとエリオット、ルーク……それだけだ。
 想像以上の少人数で行くらしい。

「アナベル様、陛下からお話は伺っていますよ。まずは俺の馬にどうぞ」

「途中で僕の馬にもお乗りください。お父上に乗馬練習を止められているのでしょう?」

 エリオットも微笑みかけてくる。
 が、二人とも表情が硬い。

 そこでルークがぎこちなく笑って、レオナルドを振り返った。

「僕たちも、もっと練習する時間があればなあ」

「そうだな、アナベルを乗せてあげられたのに」

 レオナルドも、ちょっと変な笑顔を返した。
 ああ、また気を遣わせてしまった。
 
「みんな、ごめ──」

「俺たちに謝罪は結構ですよ」

「ええ、すでに陛下やリリィ様に頭を下げて来られたのでしょう?」

「……ありがとう」

 私がそう言うと、四人は「それでいい」というように頷いた。

 私たちは普段通りを装い、街道を進んだ。
 魔王討伐後は魔物が激減し、盗賊狩りに集中できた。

 今のアルデリアは平穏そのもの。
 のんびりと走る荷馬車の、御者台のおじさんは、私たちが切羽詰まっているなど考えもしないだろう。

 途中、見張りを交代しながら一夜を過ごし、大聖堂跡地を抜け、山を越える。
 魔王のせいで関所がめちゃくちゃになって、ファルガランとの話し合いも進んでいない。

 誰に咎められることもなく、私たちは国境を越えた。

「あ……あれかな?王都って」

 ファルガランに入って間もなく、外壁らしきものが遠くに見えた。
 
「そのようですね。イザークが、すぐ見つかるといいのですが……」

 背後で手綱を取るエリオットが、返事をする。

 王都には、日が昇り切る前に着いた。
 アルデリアと同じく、町の中心に王城がある。

 扉のなくなった門から、中へ入る。
 すると、リリィが急にそわそわし始めた。

「何か、感じるわ。ファルガランのペンダントがあるせいかしら」

「ペンダントかどうかはわからないよ」

 サムエルさんが、リリィの方へ馬を寄せた。

「実は……ファルガランの聖女の証を見たことがないんだ」

「えっ!」

「お父様も?聖女様の弟なのに?」

 全員、目を丸くしてサムエルさんを見る。

「代々の国王が、秘密裏に受け継いできたからね」

 そこまで頑なに隠されたら、聖女も辛かっただろう。
 そんなことを考えていると、頭に声が響いてきた。

“聖女様、どこにいらっしゃるのですか……”

“聖女様、聖女様!”

 私は息を詰め、声が聞こえる方向を探った。
 
「……わかった、お城だ!」

「ア、アナベル様。突然どうなさったのです?」

 背後のエリオットが慌てている。

「ナギたちが呼んでるの。お城のそばに、みんなが……イザークがいるんだよ!」
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