断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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3章 隣国へ

3-17 旅立ち

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  ◇

 その後、所定の期間を経て、イザークは牢から解放された。
 ただ、レオナルドが、

『死刑は取り消すが、国に仕える者としてふさわしくない』

 と、処刑人の職を罷免したけれど。

 貴族らに「贔屓ひいきしていない」とアピールするため、そしてイザークをアルデリアから解放するためだろう。

 私は監視役として付いていくことになった。
 そのことに対する人々の動揺は、危惧していたほど大きくはなかった。

 一番の理由は魔物の激減だと思うが、リリィの働きも影響している。

 「新たな聖女誕生」を報じ、フーたちのお披露目をした。 
 そして、リリィが精霊と協力して打ち上げた花火と、王都の広場に作った巨大な氷像……
 
 これらが、「アナベル無しでもやっていける」という安心につながったのだろう。

 リリィやフーたちが頑張ってくれたおかげで、私も安心して旅立てる。
 父やサムエルさんに、ファルガランの旅装束と貨幣を用立ててもらい──
 
 出立当日。
 まだ太陽が見えないうちに、私とイザークは王都の外へ出た。

 私たちの後ろでは、ジョルジュさんが馬をひいてくれている。
 
「アナベル様……お達者で。イザーク殿、アナベル様をよろしくお願いします」

 ジョルジュさんは、涙目で私たちを見つめた。
 そんな顔をされたら、寂しくなってしまう。

「ジョルジュさんも元気でね」

「うぅ、もちろんです……」

 穏やかな風が吹く草原に、しんみりとした空気が流れる。
 しかし、その空気はすぐに吹き飛ばされた。

「アナベル!」

「えっ……リリィ!?みんなも!」

 声がした方を見ると、草原をリリィたちが駆けてくる。
 私を待っていたらしい。

「早起きさせるのが申し訳ないから、言わなかったのに……いつから待ってたの?」

「ついさっきです!」

 ギデオンが胸を張った。
 するとルークがため息をつく。

「何言ってるんだよ、ギデオン。今までずっと『いつ来られるんだ』『もう出発なさったのか』ってソワソワしてたじゃないか」

「ルーク、それは言わなくていい!」
 
 二人の会話に、レオナルドたちが笑う。
 しかし、その笑みはすぐに陰った。

 レオナルドが、真剣な顔で私とイザークの前に立つ。

「二人とも、気をつけて。僕たちにもできることがないか、探してみるよ」

「ありがとう。でも、気持ちだけで十分だよ」

 そう言って微笑んでみせたけれど、レオナルドにはまだ笑顔が戻らない。
 彼は、ふいにイザークの方を向いた。

 そして右手を差し出した。

「イザーク、アナベルを頼む」

「承知しております」

 イザークは少しだけ微笑み、レオナルドの手を握った。
 レオナルドを始め、みんなが目を丸くする。

「イザークが笑ってるの、初めて見た……」

「そうなの?最近は笑うことが多いと思うけど」

 何気なくそう言うと、レオナルドはため息をつき、苦笑した。

「本当に……割って入る隙がないよな」

「入る?誰が、どこに?」

 私は首を傾げた。
 しかし、レオナルドは「何でもない」とだけ返して、曖昧に笑った。

「引き止めてごめん。王都の民に見つからないうちに、出発するんだろ?」

「うん、派手に送り出されると気まずいから。だから急がなくちゃいけないんだけど、みんなの顔を見られて嬉しかったよ。ありがとう」

 私はそう言って、イザークの方を向いた。

「じゃあ、そろそろ行こうか。今回は二人きりだから、気を引き締めないといけないね」

「ええ、必ずあなたを守ります」

 イザークはキッパリと宣言し、私の手を取り、そっと口付けた。

「ひえっ!?」

 思わず手を引っ込めると、ギデオンの叫びが飛んできた。

「イザーク、そういうことは二人になってからやってくれ!」

「なんでタイミングをギデオンが決めるの!?」

 恥ずかしくて、思わず怒ってしまった。
 すると、クスクスと笑う声が聞こえてくる。

 リリィは両手で口を覆って、肩を震わせていた。

「リリィ、笑わないで……」

「ご、ごめんなさい。でも、他人にタイミングを決められたくないってことは、イザークにキスされるのは嫌じゃないのね?」

 その一言で、レオナルドたちが凍りつく。

 しかし私は、むしろ全身から火が出るかと思った。
 爪の先まで熱くなって、少なくとも湯気は出ていると思う。

「アナベル様、出発なさらないのですか?」

 イザークが馬の横に立ち、私に向かって手招きをする。

 頭が回らず、私はフラフラと彼のもとへ歩いた。
 イザークに手を取られ、言われるままに馬上へ上がり、気付いた時には、私はくらに座っていた。
 そして背後にはイザーク。

「じゃ、じゃあ、行ってくるね」

 手を振ってみるものの、みんなの顔を見られない。
 妙な雰囲気で旅立つことになってしまった。

 イザークが変なことをしたせいだ。
 それに、リリィが余計なことを言うから。

 私は、ニコニコしているリリィに反撃した。

「リリィもレオナルドとお幸せに!」

「えっ!」

 リリィは、さっきの私みたいに真っ赤になった。
 彼女がプルプルと震えている間に、背後のイザークへ声をかける。

「出発しよう!」

「かしこまりました」

 イザークが馬の腹を蹴る。
 すぐに景色が流れ出す。

 後ろの方では、リリィが「アナベル!」「もう!」と怒っている声がする。
 
 その勢いで、レオナルドに告白しちゃえばいいのに。
 想像して、私はつい笑ってしまった。

「どうなさいましたか」

「ううん、何でもない」
 
「そうですか……ところでアナベル様」

「ん?」

「私のキスは、嫌ではないのですか?」

「ぶふっ!」

 反射的に吹いてしまった。
 私は馬のたてがみを払いながら、声を上げた。

「な、なんでそんなこと聞くの!?」

「いつか……あなたに、伝えたいことがありますので」

 イザークは、大切な秘密を教えるように、そっと囁いてきた。
 せっかく心臓が落ち着いてきたのに、またドキドキしてくる。

 伝えたいことって何だろう。
 「キスが嫌ではないのか」と尋ねるのだから、なんとなく予想はできる。
 でも、聞くのが怖い。
 もし予想通りだったら、心臓が爆発してしまいそうだから。

 私は自分の胸を押さえて、「わかった」とだけ答えた。




  ◆◆◆◆◆◆◆◆ 




 お読みいただきありがとうございました。
 3章終了です。

 またしても1話に詰め込みすぎました……
 お疲れ様でした。


 次が最終章です。
 二人で王座を取り戻します。
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