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3章 隣国へ
3-17 旅立ち
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◇
その後、所定の期間を経て、イザークは牢から解放された。
ただ、レオナルドが、
『死刑は取り消すが、国に仕える者としてふさわしくない』
と、処刑人の職を罷免したけれど。
貴族らに「贔屓していない」とアピールするため、そしてイザークをアルデリアから解放するためだろう。
私は監視役として付いていくことになった。
そのことに対する人々の動揺は、危惧していたほど大きくはなかった。
一番の理由は魔物の激減だと思うが、リリィの働きも影響している。
「新たな聖女誕生」を報じ、フーたちのお披露目をした。
そして、リリィが精霊と協力して打ち上げた花火と、王都の広場に作った巨大な氷像……
これらが、「アナベル無しでもやっていける」という安心につながったのだろう。
リリィやフーたちが頑張ってくれたおかげで、私も安心して旅立てる。
父やサムエルさんに、ファルガランの旅装束と貨幣を用立ててもらい──
出立当日。
まだ太陽が見えないうちに、私とイザークは王都の外へ出た。
私たちの後ろでは、ジョルジュさんが馬をひいてくれている。
「アナベル様……お達者で。イザーク殿、アナベル様をよろしくお願いします」
ジョルジュさんは、涙目で私たちを見つめた。
そんな顔をされたら、寂しくなってしまう。
「ジョルジュさんも元気でね」
「うぅ、もちろんです……」
穏やかな風が吹く草原に、しんみりとした空気が流れる。
しかし、その空気はすぐに吹き飛ばされた。
「アナベル!」
「えっ……リリィ!?みんなも!」
声がした方を見ると、草原をリリィたちが駆けてくる。
私を待っていたらしい。
「早起きさせるのが申し訳ないから、言わなかったのに……いつから待ってたの?」
「ついさっきです!」
ギデオンが胸を張った。
するとルークがため息をつく。
「何言ってるんだよ、ギデオン。今までずっと『いつ来られるんだ』『もう出発なさったのか』ってソワソワしてたじゃないか」
「ルーク、それは言わなくていい!」
二人の会話に、レオナルドたちが笑う。
しかし、その笑みはすぐに陰った。
レオナルドが、真剣な顔で私とイザークの前に立つ。
「二人とも、気をつけて。僕たちにもできることがないか、探してみるよ」
「ありがとう。でも、気持ちだけで十分だよ」
そう言って微笑んでみせたけれど、レオナルドにはまだ笑顔が戻らない。
彼は、ふいにイザークの方を向いた。
そして右手を差し出した。
「イザーク、アナベルを頼む」
「承知しております」
イザークは少しだけ微笑み、レオナルドの手を握った。
レオナルドを始め、みんなが目を丸くする。
「イザークが笑ってるの、初めて見た……」
「そうなの?最近は笑うことが多いと思うけど」
何気なくそう言うと、レオナルドはため息をつき、苦笑した。
「本当に……割って入る隙がないよな」
「入る?誰が、どこに?」
私は首を傾げた。
しかし、レオナルドは「何でもない」とだけ返して、曖昧に笑った。
「引き止めてごめん。王都の民に見つからないうちに、出発するんだろ?」
「うん、派手に送り出されると気まずいから。だから急がなくちゃいけないんだけど、みんなの顔を見られて嬉しかったよ。ありがとう」
私はそう言って、イザークの方を向いた。
「じゃあ、そろそろ行こうか。今回は二人きりだから、気を引き締めないといけないね」
「ええ、必ずあなたを守ります」
イザークはキッパリと宣言し、私の手を取り、そっと口付けた。
「ひえっ!?」
思わず手を引っ込めると、ギデオンの叫びが飛んできた。
「イザーク、そういうことは二人になってからやってくれ!」
「なんでタイミングをギデオンが決めるの!?」
恥ずかしくて、思わず怒ってしまった。
すると、クスクスと笑う声が聞こえてくる。
リリィは両手で口を覆って、肩を震わせていた。
「リリィ、笑わないで……」
「ご、ごめんなさい。でも、他人にタイミングを決められたくないってことは、イザークにキスされるのは嫌じゃないのね?」
その一言で、レオナルドたちが凍りつく。
しかし私は、むしろ全身から火が出るかと思った。
爪の先まで熱くなって、少なくとも湯気は出ていると思う。
「アナベル様、出発なさらないのですか?」
イザークが馬の横に立ち、私に向かって手招きをする。
頭が回らず、私はフラフラと彼のもとへ歩いた。
イザークに手を取られ、言われるままに馬上へ上がり、気付いた時には、私は鞍に座っていた。
そして背後にはイザーク。
「じゃ、じゃあ、行ってくるね」
手を振ってみるものの、みんなの顔を見られない。
妙な雰囲気で旅立つことになってしまった。
イザークが変なことをしたせいだ。
それに、リリィが余計なことを言うから。
私は、ニコニコしているリリィに反撃した。
「リリィもレオナルドとお幸せに!」
「えっ!」
リリィは、さっきの私みたいに真っ赤になった。
彼女がプルプルと震えている間に、背後のイザークへ声をかける。
「出発しよう!」
「かしこまりました」
イザークが馬の腹を蹴る。
すぐに景色が流れ出す。
後ろの方では、リリィが「アナベル!」「もう!」と怒っている声がする。
その勢いで、レオナルドに告白しちゃえばいいのに。
想像して、私はつい笑ってしまった。
「どうなさいましたか」
「ううん、何でもない」
「そうですか……ところでアナベル様」
「ん?」
「私のキスは、嫌ではないのですか?」
「ぶふっ!」
反射的に吹いてしまった。
私は馬のたてがみを払いながら、声を上げた。
「な、なんでそんなこと聞くの!?」
「いつか……あなたに、伝えたいことがありますので」
イザークは、大切な秘密を教えるように、そっと囁いてきた。
せっかく心臓が落ち着いてきたのに、またドキドキしてくる。
伝えたいことって何だろう。
「キスが嫌ではないのか」と尋ねるのだから、なんとなく予想はできる。
でも、聞くのが怖い。
もし予想通りだったら、心臓が爆発してしまいそうだから。
私は自分の胸を押さえて、「わかった」とだけ答えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
お読みいただきありがとうございました。
3章終了です。
またしても1話に詰め込みすぎました……
お疲れ様でした。
次が最終章です。
二人で王座を取り戻します。
その後、所定の期間を経て、イザークは牢から解放された。
ただ、レオナルドが、
『死刑は取り消すが、国に仕える者としてふさわしくない』
と、処刑人の職を罷免したけれど。
貴族らに「贔屓していない」とアピールするため、そしてイザークをアルデリアから解放するためだろう。
私は監視役として付いていくことになった。
そのことに対する人々の動揺は、危惧していたほど大きくはなかった。
一番の理由は魔物の激減だと思うが、リリィの働きも影響している。
「新たな聖女誕生」を報じ、フーたちのお披露目をした。
そして、リリィが精霊と協力して打ち上げた花火と、王都の広場に作った巨大な氷像……
これらが、「アナベル無しでもやっていける」という安心につながったのだろう。
リリィやフーたちが頑張ってくれたおかげで、私も安心して旅立てる。
父やサムエルさんに、ファルガランの旅装束と貨幣を用立ててもらい──
出立当日。
まだ太陽が見えないうちに、私とイザークは王都の外へ出た。
私たちの後ろでは、ジョルジュさんが馬をひいてくれている。
「アナベル様……お達者で。イザーク殿、アナベル様をよろしくお願いします」
ジョルジュさんは、涙目で私たちを見つめた。
そんな顔をされたら、寂しくなってしまう。
「ジョルジュさんも元気でね」
「うぅ、もちろんです……」
穏やかな風が吹く草原に、しんみりとした空気が流れる。
しかし、その空気はすぐに吹き飛ばされた。
「アナベル!」
「えっ……リリィ!?みんなも!」
声がした方を見ると、草原をリリィたちが駆けてくる。
私を待っていたらしい。
「早起きさせるのが申し訳ないから、言わなかったのに……いつから待ってたの?」
「ついさっきです!」
ギデオンが胸を張った。
するとルークがため息をつく。
「何言ってるんだよ、ギデオン。今までずっと『いつ来られるんだ』『もう出発なさったのか』ってソワソワしてたじゃないか」
「ルーク、それは言わなくていい!」
二人の会話に、レオナルドたちが笑う。
しかし、その笑みはすぐに陰った。
レオナルドが、真剣な顔で私とイザークの前に立つ。
「二人とも、気をつけて。僕たちにもできることがないか、探してみるよ」
「ありがとう。でも、気持ちだけで十分だよ」
そう言って微笑んでみせたけれど、レオナルドにはまだ笑顔が戻らない。
彼は、ふいにイザークの方を向いた。
そして右手を差し出した。
「イザーク、アナベルを頼む」
「承知しております」
イザークは少しだけ微笑み、レオナルドの手を握った。
レオナルドを始め、みんなが目を丸くする。
「イザークが笑ってるの、初めて見た……」
「そうなの?最近は笑うことが多いと思うけど」
何気なくそう言うと、レオナルドはため息をつき、苦笑した。
「本当に……割って入る隙がないよな」
「入る?誰が、どこに?」
私は首を傾げた。
しかし、レオナルドは「何でもない」とだけ返して、曖昧に笑った。
「引き止めてごめん。王都の民に見つからないうちに、出発するんだろ?」
「うん、派手に送り出されると気まずいから。だから急がなくちゃいけないんだけど、みんなの顔を見られて嬉しかったよ。ありがとう」
私はそう言って、イザークの方を向いた。
「じゃあ、そろそろ行こうか。今回は二人きりだから、気を引き締めないといけないね」
「ええ、必ずあなたを守ります」
イザークはキッパリと宣言し、私の手を取り、そっと口付けた。
「ひえっ!?」
思わず手を引っ込めると、ギデオンの叫びが飛んできた。
「イザーク、そういうことは二人になってからやってくれ!」
「なんでタイミングをギデオンが決めるの!?」
恥ずかしくて、思わず怒ってしまった。
すると、クスクスと笑う声が聞こえてくる。
リリィは両手で口を覆って、肩を震わせていた。
「リリィ、笑わないで……」
「ご、ごめんなさい。でも、他人にタイミングを決められたくないってことは、イザークにキスされるのは嫌じゃないのね?」
その一言で、レオナルドたちが凍りつく。
しかし私は、むしろ全身から火が出るかと思った。
爪の先まで熱くなって、少なくとも湯気は出ていると思う。
「アナベル様、出発なさらないのですか?」
イザークが馬の横に立ち、私に向かって手招きをする。
頭が回らず、私はフラフラと彼のもとへ歩いた。
イザークに手を取られ、言われるままに馬上へ上がり、気付いた時には、私は鞍に座っていた。
そして背後にはイザーク。
「じゃ、じゃあ、行ってくるね」
手を振ってみるものの、みんなの顔を見られない。
妙な雰囲気で旅立つことになってしまった。
イザークが変なことをしたせいだ。
それに、リリィが余計なことを言うから。
私は、ニコニコしているリリィに反撃した。
「リリィもレオナルドとお幸せに!」
「えっ!」
リリィは、さっきの私みたいに真っ赤になった。
彼女がプルプルと震えている間に、背後のイザークへ声をかける。
「出発しよう!」
「かしこまりました」
イザークが馬の腹を蹴る。
すぐに景色が流れ出す。
後ろの方では、リリィが「アナベル!」「もう!」と怒っている声がする。
その勢いで、レオナルドに告白しちゃえばいいのに。
想像して、私はつい笑ってしまった。
「どうなさいましたか」
「ううん、何でもない」
「そうですか……ところでアナベル様」
「ん?」
「私のキスは、嫌ではないのですか?」
「ぶふっ!」
反射的に吹いてしまった。
私は馬のたてがみを払いながら、声を上げた。
「な、なんでそんなこと聞くの!?」
「いつか……あなたに、伝えたいことがありますので」
イザークは、大切な秘密を教えるように、そっと囁いてきた。
せっかく心臓が落ち着いてきたのに、またドキドキしてくる。
伝えたいことって何だろう。
「キスが嫌ではないのか」と尋ねるのだから、なんとなく予想はできる。
でも、聞くのが怖い。
もし予想通りだったら、心臓が爆発してしまいそうだから。
私は自分の胸を押さえて、「わかった」とだけ答えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
お読みいただきありがとうございました。
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お疲れ様でした。
次が最終章です。
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